最終話 新たな選択肢

「でも、結局俺って、受動的な人生だよな。どうしてこうなるんだか」

 作業を完了し、ノートパソコンを持って立ち上がった慧はぼやいてしまう。

 いつもいつも、最終的に決定しているのは自分ではない気がするのは、絶対に気のせいではない。

 踏み出そうとして、すぐに躊躇ってしまう。これでいいのかと悩んでしまう。その性格は、なかなか治りそうにない。

「ゲームを作り上げたのは社長です。それに、ここまで話題になったのも、社長の努力のたまものですよ」

 そんな落ち込む慧に、彩乃はきっぱりと言い切った。

 たしかに相川に提供して貰った一本を除き、この会社が売り出すゲームは完全オリジナルだ。そこに搭載する人工知能のプログラミングも、慧が独自に作ったものである。

 選択肢のバリエーションも格段に増え、相川が作ったゲームよりも没入感が凄いものになっている。予想外の展開に、多くの人をハラハラドキドキさせることに成功している。

 でも、土台を作ったのは相川だ。プレイヤーに合わせて変わるゲーム。それを最初に発想したのは自分ではない。どうにも、自分でやりましたという達成感がない。

「そんなことは、コンペに行けば言っていられなくなりますよ」

 彩乃は妙に自信満々で言う。

「そうかな。俺より上の奴がいて、こてんぱんにされるかも。こんなもんじゃダメだって駄目出しは、今でも定期的にあるからなあ」

 しかし、慧はまだまだ後ろ向きだ。でも、まったく自信がないわけではない。

 今はもう、ここで止めようなんて思いはない。

 それどころか、自分の作ったゲームを多くの人に知ってもらいたくて仕方がない。

 楽しかった。凄い。そんな声を聞くのが、嬉しくて仕方がない。

「でもさ。とんでもないことになったもんだ」

「何を言っているんですか。正当な評価ですよ」

「ううん。まあ、そう、かな」

 今日のコンペは、世界中の人工知能研究者やゲーム会社が集まっての披露会だ。慧の作ったゲームは多くのファンを魅了し、また、人工知能の新たな可能性を提示したと話題になった。

 さらに大きく売りだそうと、今回のコンペが企画されたのだ。たしかにそこでの評価が大きければ、自信になるかもしれない。

 いつでも覚悟を決めるのは自分しかいない。それはあの時、相川の過去を調べた時から同じだ。

 動き出せば、なんともない。

 どれだけ最初は怖くても、やってしまえば、意外と大したことはなかったと思えるものだ。

 きっと、人工知能に移ると決めた時の相川も、同じような気持ちだったはず。

 この先に何があるか解らないけど、やってみよう。やってみれば、何か出来ることが出てくるはずだ。

「行こうか」

「ええ。これからもっと大きな舞台に進むために。さあ、急いでください。牧野社長」

 進む未来は大きく変わった。そして今も変わり続けている。

 それだけが、慧の得た結論だ。

 いつだって、選択肢は用意されていて、それがどんな形であれ、選ばなければならない。たとえ自分にとって、関係ないと思っていることであってもだ。それがどんな影響を及ぼすか解らなくても、選ばないことには進めない。

「そう言えば、悠月の論文が今度のネイチャーに載るらしい。アマガエルの研究がどうとか言っていたな」

「まあ。おめでとうございます」

「そうだな。あっちは生物学で頑張っているんだもんな。やっぱ自分でやるって決めたことが一番ってことだよな。まあ、ペンギンが好きだったはずなのに、いつの間にかアマガエルだけどさ」

 そんなことを話しながら、慧は人生の新たな選択肢が待つ場所へと走っていた。

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脱出ゲーム~選択肢はいつも突然現われる!?~ 渋川宙 @sora-sibukawa

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