最終話 エピローグ3

「ところでレン君、そろそろ本題に入りましょうか」

 小春こはるは姿勢を正して言った。


「はい。第五地球フィフスアースが消滅した跡地に何かあるんですか?」


 レン小春こはるに聞いた。


「ええ。元々先の大戦では第五地球フィフスアース周辺は苛烈を極めていたから周辺の宇宙ステーションも衛星も戦争によって廃棄される事になったわ。そして惑星ごと消滅してしまって、いよいよあの宙域には何も無くなってしまった。元々辺境の惑星で、他の惑星と距離が離れていた上に何も無くなってしまったから、貨物宇宙船すらも通らない未開の宇宙に逆戻りしたのね」


「はい。宇宙海賊すらも出ないので、宇宙パトロールも滅多に行かない辺境宙域です」


「私達の最近の研究では、消滅した第五地球フィフスアースから第十地球テンアース周辺のエネルギー磁場を観測して分析した結果、消滅した訳ではなくて、どうやら他の次元に転送したのではないか……と言う調査結果が出てきたの」


「他の次元……ですか」


「ええ。最新の研究では、どうやらこの宇宙はマルチバース化しているらしい……そして消滅した第五地球フィフスアースから第十地球テンアースは、別の宇宙を形成して、そこに移動しただけで今もマルチバースの向こうでは存在している……と考えられそうなの」


「それが、最新の調査結果で明らかに?」


「ええ、Epice &Co.エピスアンドコーの研究チームが次元振動派の波長と亜空間粒子の観測結果から導き出したのは、マルチバースが、存在するとしか考えられない……と言う結論だったの」


「何だか、急にマンガみたいな話になってきましたね……」


「そうね……でもこれが事実なのだとしたら、この宇宙には電脳クロニクル以外にも、謎がたくさんある事になるわね……レン君、あなたは聞いた事があるかしら?惑星モンブランの宇宙海賊、キャプテンリッツァがマルチバースの彼方に消えたと言う伝説を……」


「いえ全く……僕には何だか、途方もない話に聞こえますね」


「私にはねレン君、私の夫、天王あまおうは、もしかしてどこかのマルチバース世界に迷い込んでるかもしれない……とも思うのよ」


「なるほど……元々、次元を超えるシステムを開発していた天王あまおう博士が作ったエピスシステムであれば、可能性として考えられない事ではありませんね」


「そう。でも今はその話も長くなるから置いておくわね……ごめんなさい、つい外れてしまうの」


「構いませんよ。それで、第五地球フィフスアースの跡地には何が?」


「マルチバースの観測の為に第五地球フィフスアース周辺を観測していたチームから最近、気になる連絡が入ったの」


「気になる連絡……?」


「ええ。第五地球フィフスアースの少し離れた宙域で、最近、次元振動が観測されたのよ」


「次元振動……とは?」


「その名の通り、次元の振動よ。第五地球フィフスアースが消滅した際にも観測されたのだけど、ワープなどの人為的な次元跳躍を行う時に発生する波長なの。それがかなりの量を観測していて、どうやら研究チームによれば、第五地球フィフスアースから少し離れたバビロニア宙域に、今まで知らなかった星があるのではないかと言うの」


「そんな事あるんですか」


「あるいは、星が発生した……のかもしれないわ。第五地球フィフスアースが別の次元に転送された様に、逆に別の次元からやって来る事だって理論的には不可能じゃあないのよ」


「星が新たに……別の次元から……」


「もしくは、今まで我々が知らなかっただけで、本当はその宙域に高度な文明を持った惑星が元々あったのかもしれないけど……」


「なるほど、それを調査しに行くんですね。第五地球フィフスアースの辺りなら、ワープを使えば何とか一日で行って来れます。戻ってくるのにも一日掛かりますが、有給を使えば……」


「ごめんなさい、本当はレン君にこんな事を頼みたくは無いのだけれど……」


「良いですよ。それに今の話を聞いたら、僕も実際に自分の目で確かめてみたくなりました。ぜひ行かせて下さい」


「ありがとう。ミオさんには私からも説明するわね。ではまた明日、連絡するわ……」



——翌日



 レンは、小春こはるの用意した超高速小型宇宙船に乗り、かつて第五地球フィフスアースが存在した辺りまで来ていた。


小春こはるさん、元第五地球フィフスアースの宙域からって言ってだけど……これ結構遠いぞ。小春こはるさんの最新鋭スポーツ宇宙船でなかったら非番終わるまでに帰れない所だったな。かなり長いワープしてる気がする……ステラ、あとどの位かな?」


 レンはナビ画面のステラに話しかけた。


「レン、目的地マデアト、10分デス……」


 ナビ画面からは、ステラの無機質な声が聞こえてきた。


「ステラ……何かのモノマネかな?」


「へへー、昔のナビの音声のモノマネだよ」


 無機質な声が一転、いつものステラの声に戻る。


「それ、僕に分からないから……」


「レン、ミオから電話だよ」


「ステラ、繋いで」


 ナビ画面に映るステラの映像が消えて、ミオが映し出された。


ミオ、ごめんね。せっかくの休日なのに……」


 レンは両手を合わせて、申し訳なさそうに言った。


「良いのよ。レンがそういう性格なの分かってて結婚したんだし。それにレン小春こはるさんの任務でそっち行ってる間、私は私でVRゲームできるしね……もう目的地には着いたの?」


「ほんと、ごめん。もうすぐワープを抜けて目的地のバビロニア宙域に着く所だよ。明日の夜までには帰れると思う。今度の結婚記念日にはちゃんと二人で過ごせる様にするよ」


「分かったわ。結婚記念日には、めっちゃ美味しい物食べさせて貰うね」


「うん……あ、今ワープを抜けたよ。目的地に着いたみたいだ」


「そう、じゃあ通信切るね。調べ物頑張って!」


「ああ……え?何だこれ……嘘だろ……」


 レンは宇宙境界の長いワープトンネルを抜けた。

 ワープトンネルを抜けるとそこはバビロニア宙域だった。


 そして、その光景に驚愕していた。


れん?……どうしたの?」


 ミオは電話の向こうのレンの様子がおかしい事に気がついて、レンに呼びかけた。


ミオ、大変だよ。急いで小春こはるさんに連絡しないと……な、何だ?うわっ!」


レン?どうしたのレンっ!」


「巨大な宇宙船が……未確認の……いつの間に……やばい捕まった!」


レン待って!すぐ助けを呼ぶから!レン!」


 ミオは必死で電話の向こうにいるレンに呼びかけた。

 しかし、通信状態は急に悪くなり、レンからの通信は途絶えてしまった。


 レンからの通信が切れる直前、ミオは、レンの宇宙船の中に無線通信の様な音声が流れていた様な気がしていた。

 その音声は、ミカクニンウチュウセンをハッケン、レンコウシマス……と聞こえた気がするが、定かではない。


「お願いレン……返事して!……レン……レン……」


 ミオは何度も電話の向こうに向かって話しかけ続けていた。


 しかしその日、レンからの連絡はないままだった。



——ゆるふわ電脳クロニクル、(了)

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ゆるふわ電脳クロニクル 海猫ほたる @ykohyama

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