第198話 世界渡りの占い師と100人の勇者達 ⑥

 あっちでぼんぼん、こっちでしゃらんしゃらん、がらんがらん、ばしーっと死神たちが現れる。私のすぐ近くにもガラガラおじいさんが出てきた。


 でもその直後におじいさんの頭は何処からか飛んできた一本の矢に射抜かれる。



「コヒナさん、大丈夫ですか?」


「い……、メルロンさん~!」



 矢を放ったのはイケメルロン君ことメルロンさんだった。だったんだけど。


 お、おや……? イケメルロン君の様子が……?



「どうしたんですかメルロンさん、その恰好!」


「ええと、ただのイメチェンです」



 イケメルロン君、ちょっと会わないうちにこんなに背が伸びて。男子三日合わざればという奴だろうか。三日どころかログアウトする前に会ったばっかりなんだけど。


 イケメルロン君はなんとアバターを大人型に変更していた。金髪碧眼美少年エルフから金髪碧眼美形お兄さんエルフになっていたのだ。イケメルロン君っていうより最早イケメルロンさんって感じだ。



「変でしょうか?」


「いえ~。とてもお似合いです~!」



 変なんてとんでもない。まったくもう、ますますイケメンになっちゃって。これはもう女の子たちがほっとかないね。強くて優しくてイケメンなイケメルロン君はただでさえモテモテなんだから。



「お~っす、コヒナさん。なんかすごいことになったねえ」


「ゴウさん~!」



 次の矢をつがえるイケメルロン君を守るのは騎士のゴウさん。イケメルロン君の親友で、私がこの嘆きの洞窟を超えるのを助けてくれた勇者の一人。


 そして一緒に懐かしい人もう一人。ドワーフ族の戦士さん。ショートスピアと身体が隠れちゃうようなラウンドシールド。



「コヒナさん、お久しっす!」


「ジョダさん~! お久しぶりです~!」



 ジョダさんも<嘆きの洞窟>を超える時にお世話になった六人の勇者の一人だ。あのあと少しして、ジョダさんはエタリリに姿を見せなくなっていた。リアルで色々あって忙しくなったってゴウさんから聞いてたけど、戻ってきたんだね。



「やっと会えたっす! 今度占って欲しいことあるっす。よろしくお願いするっす」



 そうだったんだ。探してくれてたのかな?



「勿論、喜んで~!」



「あ、でもそん時はジョダじゃなくて別アバで来るっす。ホントは今日もそっちできたかったんすけど、レベルが低くて」


「畏まりました! お待ちしてます~」



 ジョダさん、アバター作りなおしたんだ。期間空いちゃったし、心機一転かな? 二年もたてばストーリーも忘れちゃうしね。



「んじゃ、俺らも行こうか」


「ちょ、待って下さいっす。俺ジョダでもジジ限界っすよ」


「だいじょぶだいじょぶ、メルロンが倒してくれるから。人いっぱいいるしレベル上げに丁度いいよ」


「マジすか。だったらユダガで来るんだったっす」



 イケメルロン君とゴウさんとジョダさんも死神退治の輪に加わっていった。ユダガさんというのが新しいアバターなのかな?


 ぼんぼん、しゃらんしゃらん、がらんがらん、ばしーっ。


 現れる死神たちは大勢の勇者たちにより駆逐され、次々とぱしゃーんと光になっていく。



 間もなく、彼らは私達の物語を救う。



 彼らはそのことを友達に自慢するだろう。酒場の武勇伝のごとく、何度も何度も繰り返し語られる勇者たち自身の物語は、何度だって師匠に被せられた偽りの物語を駆逐し、塗り直すだろう。


 それと同じことが師匠の心の中でも起きる。師匠の中に現れる死神を、勇者たちが何度だって退治する。


 それだけにはとどまらない。


 勇者たちの武勇伝はきっと、ネット上で様々な形になってエターナルリリックを超えて広がる。エターナルリリックの外にも、この話を信じてくれる人はいっぱいいるはずだ。



 だって、私、旅をしたもの。



 世界を渡るおかしな占い師「コヒナ」のことを、いくつもの世界の勇者たちが知っているもの!



「パターン変化、死の波動来ます」「タナトスの次何?」「旧ボス」「スタン入れます狙って下さい」「蘇生ありがとう!」「なにこれイベント?」「カバーナイス」「四人組アイドルユニット<ドライアーズ>です。応援してね♡」「宣伝すな」「京子愛してる」「リア充爆裂」「結婚して」「デスサイズげttっをおおおおお!」



 物語が変わっていく。

 自分たちの物語を楽しむ勇者たちによって、師匠の物語が正しい姿をとりもどしていく。


 そして、物語が生まれていく。

 素敵な結末を与えられて、馬鹿な私の無意味な旅が、物語に成っていく!



 ぼぼんぼんぼん、しゃらんしゃらん。がらんがらん、がらんのばしーっ。


 ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん、ぱっしゃーーん!


 私が怖くて仕方がなかった幾つもの「終わり」が光になって消えていき、最後に一つの「終わり」だけが残る。


 <愚者フール>が様々なアルカナと出会いながら目指す物語の「終わり」、<世界ワールド>だけが残される。



「さてさて、魔王最後の抵抗は、この先さらに激しくなることでございましょう。つきましては改めて、この地に偶然居合わせた勇者の皆様に、お願い申し上げる!」



 自分でこの状況を作り出したギンエイさんが大声を張り上げると、画面のあちこちでぴろぴろ繰り広げられていたチャットがぴたりと止まった。


 え、なんで? 凄っ。ギンエイさん凄っ!


 大声は英雄の素質って聞いたことがあるけれど、それってチャットでもそうなのかな。


 死神達は沸き続けているし、戦闘は続いているんだけど、それでもみんなおしゃべりをやめてギンエイさんが次に何を言うのかと聞き耳を立てている。



「さあコヒナ殿、どうぞ」



 えっ?


 え、えええっ、ここで私⁉


 ギンエイさんに集まっていた視線が、ざざっと全部私へと向けられた。


 この状況で? 私がお願いするの⁉


 いや、でもそうか。それが筋ってものかもしれない。助けてもらうのは私なのだ。だったらお願いは私がしないと。


 うう、でも緊張するなあ。


 じゃ、じゃあその、いきますよ? いいですか?


 こんなにたくさんの勇者様を待たせるわけにもいかないので、いっちゃいますよ? いいですね?



 ふう。では。


 せーの!



「勇者様、お願いです。どうかあの恐ろしい死神共を打ち破り、私たちを魔王の呪いから解き放って下さい!」



 ……。


 …………。


 ………………。


 ぴろりん。


 ぴろりん。


 ぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろぴろ。



「わかりました!」「おっけー」「おお~~」「あれ、コヒナさんじゃん何でこんなとこにいるの」「ラスボス倒せばコヒナさんが救われるらしい」「俺の嫁が?」「任して」「はい」「だれかパーティー組んで!」「だれか結婚して!」「承知!」「マジで?」「←お前じゃねえよ」「燃える」「萌える」「私が倒してしまっても構わんのですよね?」「俺明日仕事」「乙」「仕事乙」「ワシゃあワクワクして来たぞ」「ワシもじゃあ」「オラも」



 いくつものYesが画面を埋め尽くす。誰が何を言っているのか、もうさっぱり全然わからない。




 こうして私の願いは、百人の勇者に届いたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る