第193話 世界渡りの占い師と100人の勇者たち①
台詞:
さて長くお付き合いいただきましたこの物語も、いよいよ最終幕とあいなります。
つきましてはご来場の皆様にご案内申し上げます。
最終幕は「あの日」を追体験していただく参加型の舞台となっております。
感動のクライマックスに備えまして、どうぞハンカチの準備をお忘れなく。
ああ、ハンカチはどうぞ聞き手とは逆の手でお持ちくださいますよう。皆様には魔王を退治していただかなくてはなりませんので。
はい?
盾はどうするのか、でございますか?
おっと、こちらの勇者様は両手剣。弓、大戦斧、二刀流。
これはワタクシとしたことが、とんだ失礼を。ではハンカチは今一度、しまって頂きましょう。
なに、アバターは勝手に泣き出したりはしないもの。
魔王を倒した後で取り出していただいても、十分に間に合うことでございましょう。
語り部、一礼の後退場。係員による誘導開始。
舞台は劇場から「嘆きの洞窟」へ。
▢▢▢
『もう一度、ログインしてくれないか。君を迎えに来たんだ』
師匠からのメッセージを受けて再びログインしたダージールの町には、何故か人っ子一人いなかった。そしてその師匠もいなかった。どちらもギンエイさんが連れて行ってしまったのだという。
服を着て鎧も付けて、口調もカラムさんに戻ったカラムさんが教えてくれた。驚いたことにカラムさんはヴァンクさんの奥さんなのだそうだ。
この間カラムさんに占いをしてもらった時、丁度お家に帰ってきたヴァンクさんが私を見て、すぐに私だと気が付いた。
わざわざネオデにいって猫さんから事情を聞いたヴァンクさんは、私を心配して励ましてくれようとしたのだけど、お仕事の都合とかでなかなか会えなかったとのことだった。
今日もついさっき帰ってきたのだという。
カラムさんのお仕事には時々緊急案件が入り込む。昼でも夜中でも関係ない。ネオデの時も睡眠時間の確保には気を付けていたっけ。
カラムさんの話によると、ヴァンクさんがお仕事から帰ってきたのとほぼ同時にワアロウさんがログインしてきたのだそうだ。
ワアロウさんが師匠だと気が付いたのはギンエイさんだという。
ギンエイさんはヴァンクさんとカラムさんから<なごみ家>の事情を聴いていたらしいけど、それにしてもよく気が付いたものだと思う。
そしてギンエイさんは折角の再会なんだから派手にやろうと師匠と町の人たちをを連れて行った。
なるほど。
……え、どういうこと?
「こう説明しろ、ってギンエイには言われてるんだけど」
説明を終えたカラムさんは肩をすくめた。
「違うんですか?」
「うん。誤解しないでやって欲しいんだけど。アイツ馬鹿だからさ、自分がどう思われるかっていうの、時々勘定に入れないんだよね。ワアロウさんを連れてったのも面白半分とかじゃないんだ」
「……はい」
それはそうだろうと思う。
ギンエイさんはイケメルロン君にウザ絡みしたりはするけど、実はすごく周りに気を使う人だ。吟遊詩人として物語を歌う時も主人公や登場人物へのリスペクトを欠かさない。占いで私が画面から目を離している間お客さんの相手をしてくれてる時も、お話をするのも聞くのも上手なのでログを見るととても勉強になる。
私がログインするたびに今日もお綺麗ですなとか言ってくれるのも嬉しい。
事情を聴いて面白半分で連れて行った、って言われて納得する方が大変だ。
「でも、じゃあなんで……」
師匠を連れて行った、といってもネットゲームで拉致監禁はできないのだから師匠もそれについて行ったということだ。私を迎えに来たと言って呼び出したのに、どういうことなんだろう。
「私だと余計なことまで言っちゃいそうで上手く説明できないんだけど。えとね、ギンエイが言うにはワアロウさんには死神が憑いてるんだって。死神って、ほら。タロットの死神」
「死神、ですか?」
タロットの死神。ギンエイさん、なんでタロットなんか。隣で私の占いを聞いて覚えちゃったのだろうか。ギンエイさん頭いいからなあ。
<
物語の終わり、旅の終わり、あきらめ、挫折、絶望、縁の終わり。
そんな私の大嫌いなカード。
師匠に死神が憑いているというのは、そのとおりかもしれない。
二年前師匠を占った時、三枚目に死神が現れて、私はそれを「悪魔の死」と解いた。悪魔は師匠が退治したのだからこの解釈は間違っていたわけじゃない。でも<
その後に起きた事件から私たちを守るため、師匠はアバターをデリートして、ネオデからいなくなってしまった。
レナルド君は師匠がいなくなったのは師匠が凄くて優しいからだって言ってた。その通りだと思う。師匠は私たちを守るためにアバターを消した。
でもやっぱりそれだけじゃないと思う。
あの時、<なごみ家>のギルドメンバーはみんなとても辛い思いをした。その中心人物にされてしまった師匠には、もっとたくさんの、もっとひどい嫌なことが降りかかったはずだ。
二年たったからって死神がいなくなったと思うのは楽観過ぎる。
だってあの時の死神は、私にもまだ取り憑いているのだから。
「ギンエイはね、死神を退治しようとしてるんだ」
「死神を退治……?」
ギンエイさんが言う死神を退治するというのが師匠の苦しいを取り除くことなら、それは凄いことだと思う。
でも。
ネットに広まった噂を打ち消すことなんてできない。噂話は何かの折に触れて浮かび上がり、悪魔になって師匠を苦しめる。
『昔こんな悪いことをしたヤツがいました』
思い付きで誰かが発した偽物の物語。
『その話知ってる。結局捕まったんだよね?』
誰かが訳知り顔で情報を付け加える。この二年間の間にも、私の眼にも何度も飛び込んできた。その度にざりざりと心が削られる。その度に死神が現れる。悪魔が死神を呼び覚ます。
これはこの先、私たちの中でずっとずっと続いていく。
もうどうしようもないこと、のはずだ。
でもギンエイさんはそんな死神を退治するのだという。
「そんなのどうやって」
悪魔も死神も心の中にいる。退治なんてできっこない。一休さんじゃあるまいし。
「さあ? 私にはわかんない。でもだいじょぶだよ。ギンエイは馬鹿だけどとんでもない奴だから。あいつができるって言うならできるよ」
カラムさんは根拠のないことを自信満々に請け合った。
「だからもうちょっとだけ我慢して欲しいのと、コヒナさんにも死神退治に協力して欲しいんだ」
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