第175話 死神の暗示③
ログインした私はいつも通り、ギルドチャットに向かって元気に声を上げた。
ただいま~
しかし私の打ち込んだ文字は言葉にならず、代わりに見たこともないメッセージが表示された。
System:『エラー。あなたはギルドに所属していません』
ざり。
おや?
またシステムトラブルかな。とくに公式からの発表は無かった気がするけれど。でもネオオデッセイだからなあ。トラブルは時々ある。困りものではあるけれど、怒るほどの事でもない。トラブルが起きた時には運営さん達が一番頑張っているのだ。これも師匠が言ってたことだ。
でも困ったな。ギルドチャットが使えないのは不便だ。誰か知り合いでログインしてる人いないかな?
フレンドリストではフレンドとして登録されている人がログインしていると白く、していないと灰色で名前が生じされる。
開いてみると猫さんがログイン表示になっていた。
……あれ? 今……?
ざりっ。
猫さんがいることを確認できたのですぐにフレンドリストを閉じた。
これはありがたい。猫さんならマディアの町に行けばきっといる。フレンドチャットで話しかけてもいいんだけど、何だか今日は寂しいし不安だし。誰かと会ってお話がしたい。人の多い所は心配もあるけれど、マディアだしちょっとの時間なら大丈夫だろう。
そうだそうだ。猫さんに相談しよう。そうすれば大丈夫。きっと全部解決するぞ。良かったよかった。
マディアの町。いつも通り猫さんは仕立て屋さんの看板の上にいた。
「猫さん~、こんにちは~」
呼びかけると猫さんはぴょんぴょんと降りて来てくれた。
「こっひーじゃねえか。久しぶりだにゃ」
「すいません~。例のアレでちょっと町に来づらくて」
マディアの町でもいきなり知らない人に「<なごみ家>だ!」と叫ばれたことがある。
「聞きたいことがあるのですが、ご迷惑になるといけないので場所変えましょうか~」
「気にすんじゃねえにゃ。マディアにいるヤツであんなアホな話信じてるやつはいねえにゃ」
猫さんの言ってることは半分は本当だ。残りの半分は周りの人へのけん制なんだろう。
あの時もすぐに周りにいたクロウさん率いるギルド<黒翼>の人達を始め、師匠達や私と仲良くしてくれていた人達が集まってきて、叫んだ人を追っ払ってくれた。
コミュニケーションお化けの師匠はマディアの町に知り合いが多い。そのほとんどはあんなアホな話を信じてはいない。
「猫さん、ありがとうございます」
「なんでもねーにゃ。こっひーも気にすんなにゃ。今日はどうしたにゃ? 一緒に狩りでも行くかにゃ?」
魅力的なお話だけど今は無理だろう。マディアの外で私と一緒の所を<なごみ家狩り>に見つかれば猫さんも嫌な思いをしてしまう。それにギルドチャットのことを聞かなくてはいけない。
「実はちょっとお伺いしたいことがありまして~。ギルドチャットの不具合の話って何かご存じですか~?」
「ギルドチャット? いや、なんも聞いてねえにゃ」
ざり。
「そうですか~。使おうと思ったら『ギルドに所属していません』っていうエラーメッセージがでてしまって」
「うにゃ? 所属してません?」
「そうなんです~。変ですよね~」
「……」
私はギルド<なごみ家>に所属しているのだ。運営さんも大変だろうけど、この不具合は何とか早いうちに復旧してもらいたい。
猫さんは不具合について調べてくれているらしく、しばらく無言だったけれど、やがてぽつりと呟いた。
「あの馬鹿」
ざり、ざり。
「こっひー。それは不具合じゃねえにゃ」
ざり、ざり。
「え~、でも通じないんですよ~?」
師匠~、皆さん~、こんにちは~~
System:『エラー。あなたはギルドに所属していません』
ほらね?
「不具合じゃねえにゃ。こっひー。おめー今、ギルドに所属してねえにゃ」
「いえ~、そんははずは~。だって私、<なごみ家>抜けてないですよ~?」
やだなあ。猫さんまで。私はギルド<なごみ家>だ。自分のプロフィールが怖くて開けないけど、絶対所属しているはずだ。
「そうじゃねえにゃ。あの馬鹿がギルド解散しやがったんだにゃ」
ざりいっ!
そんなはずはない。だって師匠は勝ったんだ。とても強くて優しいんだ。だからそんな怖いことが、そんな馬鹿なことが起こるはずなんて絶対ない。
「それに、フレンドリストにアイツの名前がねえにゃ」
ざりっ、ざりっ。
もう。やめてくださいよ猫さん。そんなはずはないんです。だってそんなはずないんですから。フレンドリストをさっき開いた時にちらり、一番最初に載っているはずの人が「見えなかった」。直ぐに閉じちゃったから見間違いに違いないんだけど。だってそんなわけないんだから。
ざりっ、ざりっ。
沢山の人が来なくなって、たくさんの人がギルドを抜けて。アバターを削除してしまった人までいて。寂しいですねと言った私に、師匠はコヒナさんも無理しないでねって言ってくれた。だから私はギルドを抜けたりしませんよと答えたのだ。
そのあと師匠はやめたりしないですよね、って私は聞いた。怖かったけど、頑張って聞いたのだ。そしたら師匠、まさか俺はやめたりしないよって、そう答えたもん。
答えたもん。
優しい師匠が私のこと、置いてくわけないんだもん。
そんなはずはい。そんなはずはない。これは何かの間違いだ。
直ぐ閉じちゃったけど、怖くてもう一度開くことはできないけれど、でも絶対、私のフレンドリストの一番上には、師匠の名前が載っていて!
「アイツ、なごみーのヤツ。アバター
ざあああああああああああありぃいいいいいいいいいいいっ!!!
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