第172話 引退した女冒険者による勇気ある告発

皆様、初めまして。


個人的でありかつ不快な内容を不特定多数の人が見るこのような場所に書き込むことに対し、純粋にゲームを楽しんでいる皆様には申し訳なく思います。


でも私には他に方法を思いつかないのです。どうかご容赦ください。


先日、女性がネットゲームで知り合った男性とリアルで出会い、その人から暴行を受けたというニュースが報道されました。被害者の女性は勇気をもって警察に相談し犯人は無事逮捕されたと聞きます。


その報道に勇気を貰い、私も自らの体験を語ることにしました。


実は私もネオオデッセイの中で同じ被害に遭ったのです。


その時までは皆さんと同様、私にとってもネオオデッセイは多くの楽しい瞬間で満ち溢れた世界でした。ネットゲーム、それは楽しい時間を過ごす場所と信じていました。そんな世界がずっと続くのだと信じていました。


その人とはネオオデッセイの中で知り合いました。他の人と同様、私は友達だと思っていたのです。


ある日、その人からリアルでも会わないかと誘われました。友達だと思っていた私は疑うということが出来ませんでした。そんなことを考えることもできませんでした。


しかしリアルで会った彼の言葉遣いや態度はゲームの中とは全く違い、私は怯えることしかできませんでした。そして私はその人から暴行を受けました。


私は友達だと思っていたその人に裏切られ、傷つけられました。その日以来、私にとってネオオデッセイは楽しく輝きに満ちた場所ではなくなってしまいました。誰のことも信じられなくなり、ログインするのが恐ろしくなりました。そしてとうとうアバターをデリートし、ネオオデッセイを引退しました。


私が馬鹿だったというのは重々承知しています。でも私はその人のことを知っていると思っていた。信じられる人だと思っていました。黙っていれば、同じ被害に遭う人がいるかもしれない。


こんなところではなく、警察に相談すべきだという方もいらっしゃると思います。


でも私の身に起こったことはもうどうでもいいのです。それは私が馬鹿のヒトモドキだっただけです。


それに私は報復が怖い。どうしても警察に相談すると言う方法を取ることが出来ません。警察に相談すれば色々なことを話さなくてはいけなくなります。リアルの私の周りの人にも、私が暴行を受けたということが広まってしまうかもしれません。それを考えるとどうしても踏み切ることはできないのです。


でも、私の様な被害者をこれ以上増やしてはいけないと思うのです。勇気をもらったとはいえこれが私にできる精一杯です。ネオオデッセイを愛する人たちが楽しくゲームを出来る様に、私のような人が二度と現れないように。なけなしの勇気を振り絞って、この場を借りて告発します。


私はその人の本名を知りません。住所も年齢も知りません。わかっているのはリアルの顔と、アバターの名前だけです。



そのアバターの名は「ナゴミヤ」。



ギルド<なごみ家>のギルドマスター、「ナゴミヤ」です。

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