第167話 魔術師対逆位置の悪魔⑦

※作者よりお詫び

10/27日魔術師対逆位置の悪魔⑤公開時に間違って⑥も公開してしまい、一度下書きに戻しております。28日の朝に再度公開したのですが、このやり方だと新話投稿として認識されないことに後から気が付きました。


つきましてはこのお話魔術師対逆位置の悪魔⑦の前に⑥があります。最新話で来られた方、読み飛ばしにご注意ください。お手数おかけします。それでは本編です。


******


この部屋には私と師匠しか入れない。だけどそれは鍵がかかっている状態だったらのこと。私が鍵を開けた瞬間にスキルやポーションで潜伏状態になって滑り込むのは理論的には可能だ。


あの帽子は私にとってはお宝で思い出の品で、とても大切なものだ。とはいってもそこまで凄いという物ではない。売ればそこそこの値段にはなるけれど、わざわざ盗むほどの物ではないのだ。だからそんなことをする人がいるとは思えない。いないはずだ。でも。


さっき、占い師の格好をしないのかといった人のことを思い出して、もしかしたらと考えてしまう。ただの先入観でありあの人が盗んだ証拠などないというのに。


そもそもその先入観だってただの会話からの推察に過ぎないのだ。それも自分で考えたんじゃなくて、師匠に言われて思い至ったというだけの。


あの人が、私におサトさんが私の悪口を言っていたと教えてくれたクラウンさんが<悪魔>だなんて証拠は何処にもない。もしも悪魔が他にいるのなら、悪魔狩りは悪魔の思うつぼだ。


「あれ、どうしたのコヒナさん」


帽子を被らずにドレスだけを身に着けて戻った私に師匠が不思議そうに聞いてきた。


「それが、帽子が見当たらなくて~。何処かにしまっちゃったんだと思います。すいません~」


嫌な想像を追い出して師匠に説明する。あの帽子に合わせて師匠がこのドレスを作ってくれたのだ。私が失くしてしまったのならとても申し訳ない。


「すいません、あとで探しておきます。写真撮りましょう~」


「ええ~、大事な帽子なんですよね? これは一大事だ。あれ、でもさっき被ってましたよね。何故急になくなったんでしょうね」


クラウンさんがそんなことを言った。心配してくれているような口調。何も知らなければ私があの帽子を大事にしていると分かってくれていると感じるような。つい、そうなんですと同意したくなってしまうような。


でも疑いの目で見はじめれば、その裏側にたっぷりと悪意を含んでいるようにも聞こえる。


「もしかして、誰かが盗んだんじゃ」


盗んだ? ぬすんだ? 誰が? 一体誰がそんなことを?


クラウンさんの言葉がこだまのようにギルドの中に広がっていく。おかしい。これはおかしい。


私は「どこかにしまった」と言ったのだ。何故普通に考えれば可能性の低い、それどころかありえない「盗まれた」なんて話の方を信じる?


「いえいえ~、私がどこかに置き忘れただけです~。皆さんお気になさらず~」


「あの帽子はステータスも高かったですし、魔法使い系のアバター使ってるなら欲しくなってもおかしくないんじゃ。いや、もしかするとあるいはなにか別の理由で盗んだのかも」


一度生まれればどんどん湧き上がってくる疑いの気持ち。でもそれこそが悪魔の仕業なのかもしれない。疑うことと疑わないこと。どっちが正しいんだろう。


「マスター、お話したいことがあります」


師匠に話しかけたのはマッキーさんだった。


「ん、どうしたのマッキーさん改まって」


「コヒナさんの帽子は盗まれたんだと思います。私は犯人に心当たりがあります」


「えっ、ほんと? 」


マッキーさんの言葉に、さらに緊張が深くなる。マッキーさんが何を言うのか、「犯人」は誰なのか。誰もがそれを考えている。


私もそれを考えている。


マッキーさんが私の思っていることを口にしてくれるのだと思い、私は少し安心してしまっていた。きっとこれだって正しいことじゃない。自分の思っていることを口に出すことと、胸の中にしまっておくこと。そのどっちが正しいのかもわからない。


ただ、流れが自分に都合のいい方に進むことに身を任せてしまう。私は、ズルい。この間の占いに現れた<悪魔>の逆位置が示しているのは、ひょっとしたら私の事なのかもしれない。


「マスターにお伝えすべきかずっと迷っていたんです。でもこれ以上ギルドがバラバラになるのを見ていられません」


「えええ、どういうこと?」


「ここにいる皆さんも薄々感づいてるんじゃないでしょうか。犯人は誰なのか」


緊張感が場を包んでいく。静まり返ったギルド拠点の庭に、マッキーさんの声だけが響く。マッキーさんの推理が「犯人」を追い詰めていく


「その人にはギルドに入るのを口添えしてくれた恩もあり、今まで言えずにいたんです」


そうだったんだ。マッキーさんとクラウンさんの間にそんなことが。いやもしかしてそれもクラウンさんの戦略で……。あれ? クラウンさんってマッキーさんより後の入隊だよね。クラウンさんはマッキーさんが勧誘したんだと思ってた。どういうこと?


「私がこのギルドに来た時、最初にその人からコヒナさんの部屋に入るなと警告を受けました。言われなくても人の部屋に勝手に入るわけはないし、変なこと言うなとは思ったんですが」


……ん?


「今になってやっとわかりました。あれはコヒナさんを守る為じゃなかったんですね。その人はただ単に、他の人をコヒナさんの部屋に入れたくなかった」


……んん?


「その人は何かコヒナさんの持ち物が欲しくなってしまった。しかし一度部屋に入った結果、警戒して鍵を付けられてしまった。だからその後ずっと、侵入するチャンスをうかがっていたのでしょう」


…………ん?……んんん?


マッキーさんの推理はおかしなとこだらけだ。まず動機がおかしい。なんで私の物が欲しくなったの?欲しくなったから盗りましたなんて、小学生じゃあるまいし。


そもそもこんな大勢の人数いる時に盗むのはおかしい。もっと狙いやすい時なんかいくらでもあった。どうしても欲しかったらその時を狙うべきだ。


マッキーさん、何の話してるの? マッキーさんにはいったい何が見えているの?


「そうです。その人は、コヒナさんのことが好きだったんですよ」


はぁあああああああ?


私の困惑を他所に、マッキーさんは静かに一人の人物を指さした。


「コヒナさんの帽子を盗ったのは……レナルドさん、貴方ですよね?」


ええっ、レナルド君が…………!?


そうだったのか。私の部屋に侵入し、大事な帽子を盗ったのは……



って、いやいや。



「それは違うんじゃないかと~」


「まさか。レナルドではないだろう」


「流石に無理があるんじゃない?」


「それはない。ありえないです」


「ええ~~、レナルド君じゃないよ~~?」


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