第162話 魔術師対逆位置の悪魔②
「じゃあ師匠、ここに座ってくださいね~」
愛用の机と椅子をカバンから取り出して並べる。特に折り畳み式というわけでもない、師匠お手製の木の机と椅子が小さなバックからにょんにょん出てくるのはネオオデッセイの七不思議のひとつ。別に立ったままでもいいんだけど、占いは雰囲気も大事だからね。丁度服も占い屋さんのままだ。着替えなくてよかったな。
師匠の向かいに座ると、リアルの私はパソコンラックを離れて机へと移動する。
心配性の師匠ごとについて、教えてください。
現れたのは、
一枚目、≪
二枚目、≪
三枚目、≪
一枚目、≪
≪
ここから悪魔の正位置が示すのは悪意や誘惑に身をゆだねる事、そしてそれに抗うことの難しさだ。悪魔の誘惑だと分かっていても振り切ることができない。悪いことだと分かっていてもやめられない。そんな状態を示す。
正位置を「目に見える悪意」と解くなら逆位置は「隠れた悪意」。無自覚な悪意や周到に隠された見えない敵からの攻撃を示すこともある。
二枚目、≪
月は闇を払わない光。ここから正位置では「秘密」「不安」や「曖昧さ」を示すカードだ。逆位置では月の光から優しさや曖昧さが失われて強い光となる。ここから隠れていた物が現れる、嘘が明るみに出る、秘密が露見するといった意味にとることが出来る。
三枚目、≪
死神はタロットの中で最も強く終わりを示すカード。終わるのが何なのかは、周りのカードをよく見ながら解釈する必要がある。
一枚目に悪魔の逆位置、二枚目に月の逆位置。
この二つが並んで出ているのなら、悪魔の逆位置を「隠された悪意」、月の逆位置を「悪意を暴く」「悪意が表に現れる」と解釈できる。もし悪魔のカードが二枚あったなら二枚目に来ているのは≪
となると三枚目のカードの「終わり」は何を意味するだろう。悪魔のカードが出ていると全体的にいい意味にならないことが多い。
となると、悪魔が現れた後に終わるものは……。
ざりっ。
うん、終わるのは悪魔だな。そう考えるのが妥当だ。一枚目が悪意。二枚目がその露見。三枚目は悪魔がいなくなってめでたしめでたし。これはそういうストーリー。
悪魔の逆位置はダーニンさんのことだろう。ダーニンさん、師匠よりも自分の方がギルドマスターに向いてると思ってたっぽいし。過去の位置に出てるしダーニンさんはもういない。安心だね。解決済み。
月の逆位置は、ええっと。この間のダーニンさんの暴走じゃないかな。で、三枚目の死神がダーニンさんがギルドを抜けることを指している。いいぞ。実にしっくり来る解釈だ。
死神が未来の位置に出ているのが気になると言えば気になるけど……、
ざりっ。
いや、所詮占いだしな。少し時期がずれることもあるでしょ。さあ、早く心配性の師匠を安心させてあげよう。
「結果が出ました~」
「おかえりー。なんだかいつもより時間かかったね」
「そうですか~?」
そんなこともないんじゃないかな。それより結果結果。大丈夫ですよって教えてあげないと。
「一枚目に出ているのは≪
「えええ、そうなの? うわあマジか……やっぱりそうなのかなあ」
お、師匠も思い当たったみたいだ。これはダーニンさんのことだよね。
「二枚目が≪
「悪魔顕現ってこと? 二枚目って現在を示すんだよね? やだなあ」
悪魔顕現か。上手いことを言う。でもこれももう終わったことですからね。大丈夫ですよ。
「三枚目に出ているのは≪
「えええっ、⁉ 」
師匠のびっくり癖健在。気持ちはわかる。インパクト強いからね。
「大丈夫ですよ~。≪
「えええ、でも縁起悪くない? ≪
ビビりすぎだよ師匠。悪魔の時もそうだけど、ネガティブ過ぎじゃないかな。悪い結果なんてそうそう出るわけないじゃん。
「≪
「ううん。何が終わるのかなあ」
「悪魔じゃないですか? 」
「悪魔かあ。≪
「そうですね~」
ううん、といつもの腕組みポーズになる師匠。
「占いって怖いね。やっぱりそうなのかな、とか考えちゃう」
「そうなのかな、といいますと~?」
むうまだ不安なのか。悪魔はもう死んだんですよ、師匠。
「ううん、ううん。ごめんよ。これは口にしちゃいけないと思うんだ。違ってたら大変だから。やっぱり話聞きにいかないと駄目かな。駄目だよな。ああ、嫌がられるだろうなあ……」
またそんな言い方して。気になるなあ。
「んで最後は死神かあ。悪いことが終わるって言う暗示だといいねえ」
「ええ~、そういう暗示ですよ~。だってダーニンさんもいなくなりましたしピッタリじゃないですか」
「えっ、何でダーニンさん?」
何を驚いているやら。今その話してたんじゃん。
「一枚目に出てる悪魔って、ダーニンさんの事じゃないですか~?」
「えええ、その発想はなかったなあ。ダーニンさん悪い人じゃないでしょ。むしろ悪意とかとは無縁の人じゃない?」
はあっ?
「悪い人ですよ! 何言ってるんですか。師匠のことあんな風に言って!」
あっ、つい言っちゃった。さっきは我慢できたのに。師匠人の悪口好きじゃないんだよね。
でも師匠の事弱いとか、無意味とか。……思い出したらまたむかむかしてきちゃった。ほんといなくなってくれて良かったよ。
「ごめんごめん。ありがと、コヒナさん」
お礼言われることでもないんだけど。私は勝手に怒ってるだけだし。師匠のそういうとこも好きだし。
「たださあ。ダーニンさんは凄く一生懸命なだけだったと思うんだよなあ。俺も猫さんのことがあったからついキツい言い方しちゃったし。町とかダンジョンとかで会ってたら普通に仲良くなれたと思うんだ。こんな結果になっちゃって残念だよね」
どこまでお人よしなんだこの人。頭のネジ何本か飛んでるんじゃないだろうか。しかたないなあ。私が押さえておいてあげないとね。
「合わなくってギルド抜けるならしょうがないと思うんだけど。ダーニンさん以外もさ。おサトさんとか最初のうち結構楽しんでくれてた気がするんだけど。なんでこうなっちゃったかなあって」
「ええ~、そうですか?」
おサトさんかあ。あんまりあの人の名前出して欲しくないなあ。
「あれ、おサトさん苦手だった?」
「苦手って言うか、だっておサトさんって、私が師匠のおうちに部屋持ってるのズルいって言った人ですよね?」
「あー、あったねえそんなこと」
「そんな風に言われたらやっぱり好きにはなれないって言うか……」
師匠の中ではあまり大したことない話だったのだろうか。私はすっごく嫌だったんだけどなあ。折角楽しもうってここにきてるのにわざわざ不愉快になるようなこと言って。もういなくなった人だし気にしないようにするけどさあ。
「え、あれ? なんか変だぞコヒナさん」
「変って、何がですか~?」
「いや……。あ、呼び出し。ちょっとごめんね」
「えっ?」
師匠はいきなり話を切り上げると転移魔法を唱えてどこかに飛び立った。取り残された私はあっけにとられてぽかんと口を開けるしかない。可愛い弟子を差し置いて呼び出しに応じるとは相手は一体誰だろう。しかもこんな時間に。
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