第160話 白衣の天使と不死身の狂戦士⑤

「何、今のww完全チートじゃんww」


「<無限バーサーカー砲>は仕様じゃ。運営からしっかり回答が出とるじゃ」


 カオリンさんに蘇生して貰ったダーニンさんはまだ納得していない様子。でもそろそろ飽きてきたな。弱い者いじめも可哀そうだし。


「こっちが逃げてたらあいつ勝手に死ぬじゃんwwwそしたらこっちの勝ちじゃんww」


 さっき師匠のこと逃げてただけって言ってなかったか? そして別に逃げててもヴァンクさん死なないからね。スキル解けばいいだけだから。ハクイさんもうんざりしてるんじゃないかな。


「いいわよ。何回でも、何人でも。そっちが納得するまでやりましょう?」


 あ、そうでもなかった。まだやり足りないんだ。


「俺はそろそろ落ちたいんだが」


 そうだよ。ヴァンクさんだってお子さんの事あるんだかからね。いい加減納得してくれないものかな。


「なんなのもう。七対一で勝てないとか意味わかんないんだけど。何で誰も止められないわけ?」


「めりちょ……。お前だって何もできなかっただろう」


「なに言ってるの? 一番最初に死んだくせに! 私は最後まで死ななかった!」


 おや……? ダーニン一味の様子が……? めりちょさんとシーゲルさんが喧嘩を始めたぞ?


「一番上手い奴最初に潰すのは当然だろ」


 ぼそっと呟かれたヴァンクさんの言葉にめりちょさんが口を紡いだ。気が付いたかな。ヴァンクさんはほっといて問題ないかなって思ったからあなたを後回しにしたんだよ。


「なんなのもう。最悪なんだけど。なんか私こっちについたみたいになってるし」


「ああ? そもそもお前がギルドマスター変えるべきだって言いだしたんだろ」


 今度は本当は師匠側だったみたいなことを言い出しためりちょさんに言い返したのはツルサギさんだ。


「酷い!私そんなこと言ってない! 」


 めりちょさん、自分が少数派だと知って怖くなったのかな。さっきの拍手見ちゃったらね。


「言ったろ、はっきりと!」


「言ってない! 嘘だからね。信じないでね、みんな!」


 どっちなんだろね。どっちでもいいや。めりちょさんが馬車のレンタルを断られて師匠に泣きついて冷たい対応をされたと騒いでたのは事実だけど。喧嘩止めて欲しいなあ。やるなら二人でどこか行ってやってくれないかなあ。あ、七人でもいいよ。そしたら時間ある人でどこか遊びに行くから。


 どうやって収集付けるのかなあこれ……。


『ただいまあ~~』


 おや、ギルドチャットに響くこの癒し系ボイスは。


『お~~、ログインしてる人多いね~~。みんなどこ~~? 何してるの~~?』


 ブンプクさんだ! いい所に来てくれた。ブンプクさんは嫌な雰囲気を払拭することにかけては定評がある。私の中で。


『お帰りなさいブンプクさん。師匠の家です~。実は戦って勝った人がギルドマスターを決めるって話になっちゃって、今それが』


『ええええええええええ~~~、だめ~~~~~~!』


『あ、いえそれはもう……』


『待って~~私が行く~~~~』


『いえ、ですから……』


『まだ始めちゃだめだよ~~。すぐ行くから~~~~』


 いつもより~~が多いなブンプクさん。まあ来てから説明すればいいか~~、と思っていたのだけど。


「まずいわ。どうしましょう」


「いや、流石にやらないだろ、こんだけ人数いるんだし……」


「それは楽観が過ぎるわ。だってブンプクよ?」


「…………」


 ハクイさんとヴァンクさんがなにやら不穏な会話をしている。ん? ブンプクさんが何かするの? まあ、ブンプクさんはラスボスだからな。馬車とは名ばかりの戦車チャリオットとか持ち出してくるのかな? もっとすごいものかもしれない。まあ、それならそれでいいか。見てても面白そう。


「お待たせ~~。さあ、やろっか~~」


 転移魔法で現れたブンプクさんは一本の杖を手にしていた。


 ブンプクさんは刀使いだ。なんで杖なんか……。変に禍々しいし……?


 あれ、待てよあの杖。博物館で見たことあるぞ。


 ブンプクさんのステータスを開いて持っている杖を確認する。


 <ウモの怒り>


 …………。


 マジでヤバい。


 <ウモの怒り>はダンジョン<ウモ>が出来たばかりの頃に手に入れることが出来たアイテム。一度しか使えないが一帯を強力な炎で包み、そこにある全てを焼き尽くす。アバターなんかどんだけ固くってもオーバーキル。炎に強いセルペンスだって焼き殺してしまうのだ。


 いや、セルペンスってめちゃくちゃ強いんだよ? 一分で、とか一撃で、とかそういうの普通ないからね?


 それも恐ろしいんだけど、もっと恐ろしいのは値段で。


 <ウモの怒り>は手に入れられた当時は面白半分に使われることもあったみたいだけど、使えばなくなってしまうわけで、現存する物は下手したらいまブンプクさんが手にしているその一本だけかもという代物。ブンプクさんの博物館でも最高クラスのレアものだ。


 繰り返して言うと、使うとあの杖は失われる。


「わあ、ブンプクさんちょっと待って」


「落ち着け。落ち着くんだ」


「ブンプク、大丈夫だ、大丈夫だから」


「うん~~。大丈夫~~、任せて~~!」


 うわあ、本気だ。


「ショウスケ君は? ショウスケ君いないの? 画面見てない?? ショウスケ君ブンプクを止めて!」


「なんですじゃ? あの杖が何か?」


「あの杖はね、いや、とりあえず逃げて、みんな逃げて―!」


「駄目~~~~、逃げないで~~~~!!」


 □□□


 全員で説得した結果、ブンプクさんは大量虐殺を思い留まってくれた。


 ギルドからはダーニンさん、ツルサギさん、ぬーばさん、おサトさんが脱退。


 シーゲルさんとボルテックスさん、あとめりちょさんはギルドに留まることになった。シーゲルさんとボルテックスさんは師匠に謝っていたけれど、師匠はそれを快く受け入れた。まあ、師匠だからね。ちなみにめりちょさんは私は何も悪くないと言うことで特に謝罪は無かったようだ。


 でもそれと別に数人脱退者が出た。気持ちはわかる。せっかく遊びに来てごたごたに巻き込まれるのは嫌だ。ごたごたはざりざりしちゃうからね。これも仕方のないことだろう。


 ギルド勧誘を頑張っていたマッキーさんはこの件で責任を感じたらしくすっかりしょげてしまった。他の人もしばらくはメンバーを増やしたいとは思わないだろう。


 だから。一応とりあえずはこれで一件落着、だ。これでギルドが落ち着いて、みんなが楽しく遊べるようになるといいんだけど。

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