第159話 白衣の天使と不死身の狂戦士④
「お前なあ。蘇生遅いんだよ。なんで一人で勝ったみたいな顔して突っ立ってんだよ」
ハクイさんは今になってやっとヴァンクさんを蘇生してあげていた。
「うるさいわね。試合が終わったんだから私じゃなくてもいいでしょう」
無茶言わないで欲しい。そりゃあ私だって蘇生はできる。師匠だってできるし、他にもできる人はいっぱいいる。しかし誰がこの二人の間に入ってヴァンクさんを蘇生できると言うのか。
「次はすぐしてあげるわよ。どうせこれで終わりじゃないでしょうから」
「マジかよ」
ヴァンクさん以上に長い時間幽霊状態で放置されてたダーニンさん達七人は、見守っていたギルドメンバーの一人、カオリンさんが進み出て蘇生してあげていた。カオリンさん優しいですね。勇気ある行動だと思います。
ハクイさんは絶対にしないだろうし、師匠に蘇生されるのはダーニンさんが嫌だろうし、私もできるけどしたくないしね。
「何いまのwwwチートwwじゃんwwwアレで勝ったつもりww?????ww」
生き返ったダーニンさんからはハクイさんの予測通り異議申し立てがあった。
「俺達w固まってたからいっぺんに殺されただけじゃんwwwバラけてたらあいつ一人で死んでおしまいじゃんwwww」
それはこっちがグー出してたら勝ってた、って言うのと一緒じゃないかな。こっちがパーを出しているのにチョキを出したお前らはズルいってね。
「それは通らんじゃ。ヴァンクさんが薙ぎ払いを選んだのはあんたらが固まっとったからじゃ」
審判役のオンジさんがダーニンさん達を諫めるけど、それも通じないようだ。
「なにwwwオイオイwww審判wwグルかよwww」
「儂は審判を引き受けたじゃ。ヴァンク・ハクイペアの勝ち。何と言われても譲らんじゃ」
あ、オンジさんかっこいい。猫さんに見せてあげたいな。オンジさん、猫さんと仲いいんだよね。オンジさんも寂しいだろな。猫さんは拠点を訪ねてくることは無くなったけど、マディアの町に行けば会うことはできる。猫さんの方が遠慮しちゃうからあまり一緒には遊べないんだけど。
「オンジのお爺ちゃん、いいわよ。その人たちが納得するまでやりましょ」
「しかし、ハクイさんや……」
「大丈夫よ。ありがと。お礼にいいもの見せてあげるわね」
「いいものじゃと……? ッ⁉ まさか!」
別にえっちな話ではない。<バーサーカー砲>を知っていたオンジさんは、ハクイさんの言う「いいもの」が何か気が付いたらしい。
「ではハクイさんの温情により、再度試合を始めますじゃ。引き続き儂が審判をつとめるじゃが、異論があれば降りるじゃ。変わってくれる人がいたら喜んで変わるじゃ」
誰も手を上げなかった。ダーニンさんも言い過ぎたと思ったのか「w」と一つ打っただけにとどまった。
オンジさんを真中に、二つのパーティーが再び向き合う。
「ちょwwこれ別に向き合わなくてもwwwいいんじゃwww」
ほほう、そう来ましたか。
ダーニンさんの指示の下、ハクイさんとヴァンクさんを七人で取り囲むように並ぶ。なるほど少しは考えたのかな。
「はじめていいよwww」
この形で一斉に攻められるとハクイさんにも攻撃が当たってしまうため、さっきの技<薙ぎ払い>は使えないと言うわけだね。
「では。双方宜しいですじゃ?」
<system: <オンジ>がコイントスを行いました>
・
・
・
<system:<オンジ>のコイントスの結果:裏>
「辻ヒーラーからやれ!」
やれやれ。作戦はパーティーチャットとかでやりなよ。あ、わかった。見てるギルドメンバーへのアピールだな。
舐めて貰っては困る。実はハクイさんの防御力は高いのだ。<辻ヒーラー>が死ぬわけにいかないからね。白いローブに加えて上半身には金属製の白い胸当て。籠手もブーツも金属製。盾も小さいながらも性能の良いものを使っている。金属部分も表面はローブと同じ真っ白。でもつなぎ目からは時折内側の黒い部分がのぞく。鎧表面にも模様のように黒い線が走っている。
元はここも真っ白だったのだ。でもある日を境に鎧に黒いラインが入ることになった。<ニゲライト>という真っ黒なで補強したためだ。
真っ白へのこだわりと鎧の性能を天秤にかけた結果、しぶしぶ(ということになっている)ハクイさんは鎧をニゲライトで強化する方を選んだ。
結果、ハクイさんは、ギルド<なごみ家>において、ショウスケさんに次いで二番目に堅い。そして当然自分への回復力はものすごいのでそう簡単に倒されはしない。当然ヴァンクさんがハクイさんへの攻撃をむざむざ許すはずもない。
攻めあぐねている所をヴァンクさんが襲う。先の戦いの後、蘇生しただけで回復していないヴァンクさんの攻撃力と攻撃速度は既に他の追随を許さない。まずは一人、シーゲルさんが倒れた。
「くそっ、やっぱり裸の奴からやれ!」
はい悪手。ヴァンクさんへの攻撃はヴァンクさんが無敵になるまでのタイムリミットを縮めるだけだ。ま、どうやっても勝てないんだけどさ。
攻撃を受けてヴァンクさんのHPがゼロに。同時にハクイさんの蘇生魔法が発動。真っ白な光がヴァンクさんを包む。
どん。
ヴァンクさんの振るった剣はツルサギさんを一撃で葬る。そして同時にヴァンクさんの断末魔が響く。
「wwwやっぱり一発屋wwwww後は」
どん。
続いてぬーばさんが倒れた。
「あ?」
どん。
更に一振り、ボルテックスさんが倒れる。
「アイツなんで、生きて……?」
ごおごうという断末魔が、とぎれない。
ごおおおうという狂戦士の叫びも、途切れない。
ぐおおおぐおおおおおおおおおおお!
二つの声があわさって、身の毛もよだつような音となって空気を振るわせる。
「無限バーサーカー砲……。二人で、じゃと?」
オンジさん、解説と審判、一度にお疲れ様です。
——昔、面白いことを考えた人たちがいた。
バーサーカー一人を三人がかりで蘇生するとどうなるのか。HPゼロの状態を長引かせることが出来るのではないか。面白い。ならば試してみようじゃないか。
実験は成功した。なんと三分もの間、バーサーカーはHPがゼロのまま生き続けたのだ。死ぬまで戦い続けるバーサーカーは、死んでも戦い続けるバーサーカーとなった。
世の中にはとんでもないことを考える人がいるものだ。三分間バーサーカー砲が打ち放題。バーサーカーアニキなら一度はやってみたいであろう夢の境地。この状態を一般に、<無限バーサーカー砲>と呼ぶ。
……。
凄いんだけどさ。ほんと、もうちょっとかっこいい名前つけられなかったのかな!
おほん。
そして、世の中には蘇生役三人分を一人でこなしてしまうとんでもない人がいる。<三重蘇生>を操る<辻ヒーラー>、ハクイさんだ。
<無限バーサーカー砲>発動中はどうやってもヴァンクさんを止めることはできない。だってすでにHPはゼロなのだ。ハクイさんへの攻撃は通らない。誰よりも早く、誰よりも強い攻撃を放つヴァンクさんがそれを許さない。
どん。どん。
おさとさんとめりちょさんが続けて倒れる。
時間にして一分弱。ハクイさんの力を以てしてもそれが限界。
だけどこの一分足らずの時間で、二人は最古の竜さえも屠ってみせる。
「終わりだ」
「ww卑怯www」
最後の一人、ダーニンさんを構えた盾ごと一刀のもとに両断。役割を終えた
「勝者、ヴァンク・ハクイチーム!」
オンジさんが高らかに宣言し、見守っていた十人以上のギルドのメンバーから一斉に拍手が上がった。
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