第155話 ダーニンの乱④
「ああ、もちろんだ。マスターの奴、僕を殺そうとしやがった!」
え、なに?
殺す? ゲートの魔法で? どういうこと?
「ちょっと。周りにもわかりやすく説明してくれる?」
「ああ。くそう。あいつ、挑発してきやがって。ああ、乗ればよかった。ああくそ。乗らなくてよかった。こんな、こんな方法があるのか。手が震えてる。こんなのいつ以来だ。くそう、ナゴミヤめ!」
ぶつぶつと戦いの感想を語るリンゴさん。まったく要領を得ない。ていうかちょっと怖い。
「わかったから早く」
「ああすまない。さっきマスターが出したゲートが<ジャンブ>の町に通じている、と言えばわかるか?」
ジャンブ? ジャンブってフリギダス島にあるジャンブの町? それがどうして……
……あっ!
<ジャンブ>はフリギダス島にある小さな町。普段は全然意識しないけど、そういえばこの町には一つ大きな特徴がある。
<ジャンブ>の町は平和を重んじる町。ここにPKは立ち入ることが出来ない。立ち入ろうものならシステム上の
もしリンゴさんが最後の一撃を放っていたら。
師匠は多分その一撃で死んでいた。でも同時にリンゴさんはゲートに突っ込んでしまうことになって!
「ああ、もうちょっとだった。やっぱりアイツなんだ。アイツが僕を殺すんだ」
うわあ。リンゴさん負けて悔しがってたんじゃないんだ。発言がヤンデレそのものになってる。
そこに師匠が戻ってきた。
「ただいまあ。残念。引っかかってくれなかったかー」
「お帰りなさい師匠。遅かったですね」
「うん。解毒間に合わなくて向こうで死んじゃった。これはリンゴさんの勝ちだね」
師匠、NPCさんに蘇生して貰ってきたんだね。お疲れさま。
「何を言うマスター。惜しかった、ほんとに惜しかったんだぞ。もう一回だ。もう一回やろう。な? な?」
「いやいやいや。一回こっきりだよ。ネタバレしちゃったからねー」
「そんなこと言うなよ。ヤッパリお前なんだ。頼む、僕を殺してくれ」
「無理だよう!」
凄くレベルの高い勝負だったけど、それだけに二度目はない。同じ手は二度と通じないだろう。リンゴさん、いつか師匠に殺してもらえるといいですねえ。
これだけの戦いを見せられば誰でも納得しそうなものだけど、それでも通じない人には通じないものらしい。
「いやwww何の茶番だよwwww逃げ回ってただけwじゃんwww」
逃げ回ってただけ!
ダーニンさんはそろそろ浮いてるのが自分だって気が付くべきじゃないかな。
「せっかく人がいい気分でいるというのに。わかったダーニン。お前にもわかりやすく説明してやる。わかってないのはお前と、後は誰だ? 周りにいる六人でいいのか?」
リンゴさんがダーニンさんに短剣の切っ先を突きつけた。まあ、そうだよね。それが一番わかりやすいよね。
「じゃあ始めようか。マスターに変わって負けた僕が相手をしてやろう。そこの七人、まとめてかかってこい」
「え、負けたの俺だよ?」
師匠、今余計なこと言わないで下さい。
「黙っていろマスター。話がややこしくなる。どうした、来ないのか? それならこちらから行くが」
「いやwwwwあんたPKでしょwwwチートwwじゃんwwソレは無いわwww」
ダーニンさんはアサシンスタイルのリンゴさんが今から攻撃すると宣言してることの意味が分かってるんだろうか。
「……。なるほど。僕がPKで、対人用のスキル構成だからズルいとそういうわけだな? 七体一でも」
「挑発wwwwww乗んねえwwwよwwwwwwwww」
「ここまで話が通じないとは思わなかったぞ。僕の対人用のスキル構成はずるくて、マスターの非戦闘型のスキル構成は弱いと。お前の主張はそういうことだな? だから強くてズルくない自分が一番凄いと」
「そうwwwじゃんwwwww話通じないのオマエらだよwwwwww」
ううん。
レナルド君の時のこともあるからできるだけ偏見は持ちたくないんだけど、そろそろいいかな。あなた、イタい人でしょ。
「では他のメンバー、そうだな。そこにいる半裸の男などはどうだ? お前とヴァンクが戦って勝った方がギルドマスターを選ぶと言うのは?」
「おいリンゴ……」
ヴァンクさんが困ったような声を上げた。いや、だいじょぶだよ。ヴァンクさんが負ける要素ないもん。
「いやwwwwwwそいつ運任せの一発屋じゃんwwwwそれでたまたま勝ったらこっちの負けとかwwwwないわwwwwww」
だあああああ。どうすれば納得するんだ。
でもダーニンさんの一言はどうやら別の人の逆鱗に触れたようだった。
「あら聞き間違いかしら。今、ヴァンクの事を運任せの一発屋って言った?」
「<辻ヒーラー>wwwwwwソイツの肩持つのwwwww何でwwwwwww」
「肩もつとかではないのだけど。ヴァンクは一発屋では無いわ。ただの事実よ」
「あんたwwwwソイツいてww迷惑してるんじゃないのwwwww」
えええ。
ダーニンさん、もしかして二人がほんとに仲が悪いと思ってる? あのやり取り本気にしてるの⁉
うわあ、うわあああああ、共感性羞恥!
「ええと。とにかく」
ほら、ハクイさんも困ってるじゃん!
「取り消してもらえるかしら。不愉快だわ」
「いやwww一発屋なのは事実だしwwwwwてかアンタwもwwそっちなのwww」
何をどうしたら事実だってことになるのかわかんないけど。それをダーニンさんと言い争うのは不毛なんだろうな。
「じゃああなたたち七人でヴァンクと戦って見なさいな。それならよくわかるでしょう? もちろん勝った方がギルドマスターを決める。それで構わないわ」
「おい、ハクイ……」
またヴァンクさんが困った声を出す。
「あらヴァンク、不満?」
「あたりまえだ。七対一で勝てるわけねえだろ。リンゴじゃあるまいし」
「じゃあ言い出しっぺの私がヴァンクにつくわね。七対二よ。ヴァンクも私もPKではないし、これなら文句ないでしょう? ダーニンさん?」
「おいおい……」
あー。そういう。
この状況は流石に有利と判断したのかダーニンさんも納得した。
「wwwwwいいwwよwwwwww後でナシとか言うなよwwwww」
「決まりね。ナゴミヤ君もそれでいいわよね」
「ええええっ、確認してもらえると思わなかった! 別にいいけど!」
ギルドマスターは師匠なのにみんなで無視して話進めるもんだからちょっと拗ねてるのかな。隣いって慰めてあげようっと。
『師匠師匠、大丈夫ですよ。ヴァンクさん勝ちますから』
『いやあ、それは心配してないんだけどさあ……なんか申し訳ないっていうか』
『みんな師匠にギルドマスターでいて欲しいんですよ』
個人チャットで内緒話だ。作戦がバレるといけないからね。
「では僭越ながらワシが審判を務めさせていただきますじゃ」
オンジさんが審判役を買って出てくれた。
「あー、それがいいかな。オンジさんありがとねえ。あと、別に興味ない人は好きなことしに行ってね。突き合わせてごめんねえ」
「証人減らすなよwwww逃げかよwwww」
「えええ、だってそれはさあ……。なんかもう、ごめんね皆さん」
師匠が謝ることではないんだけど。大変だねギルドマスター。ダーニンさんに勤まるとは到底思えないよ。
「スキルや呪文の発動は始めの合図の後。アイテムの使用は自由。その他の制限はなし。勝敗の条件は互いを全滅させた方が勝ち、でよろしいですじゃ? 」
「いいwwwwよwwww」
「構わないわ。ほらヴァンク。やるわよ」
「ったく。大人げないんだよオマエは」
ぶつぶつ言いながらもヴァンクさんが位置についた。
オンジさんを挟んで二組が向き合う。
七体二。
普通はヴァンクさんとハクイさんに勝ち目なんかない。ダーニンさんたちもそう考えていると思う。でも実はこの二人は特別。
リンゴさんがヴァンクさんの名前を出したのは初めからこの展開に持っていくため。PKの口車に乗るなんて甘い。甘すぎるねダーニンさん。リンゴさん一人の方がまだ可能性あったくらいだよ。後でナシって言うなよはこっちのセリフだ。
リンゴさんもハクイさんも師匠をギルドマスターから降ろす気なんてさらさらない。
対人戦ではリンゴさんの戦闘力は「チートクラス」。
でも、ヴァンクさんとハクイさんのペアは、本物の「チート」だ。
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