第150話 野良猫ナナシ⑤
宙に浮く正八面体のようなウモさんは光の粒になって消えた。しかし散らばっていった光は部屋の中央で再び集まりだす。そして不定形の黄色いもやのような姿を取る。その内側にはばちばちと紫色の光がはじけている。
ウモさんの第二体型だ。
内側の紫の光が一際強く輝き、八方向に電撃の魔法が放たれる。ほぼ全員が被弾してしまう。大ダメージだ。でも死んでしまった人はいない。前もって師匠が全体に雷耐性を上げる魔法を掛けているからだ。
「今のはしばらく来ないから落ち着いて回復してね」
言いながら師匠はダメージの多い人に回復魔法をかけて行く。
第二体型のウモさんは雷属性のモンスター。茶色の八面体だった時には大活躍していたトパコ君だけど、この体型のときにはあんまりダメージを与えられない。でも盾役としては大活躍だ。
第二体型のもやのようなウモさんは大きな鹿、ヘビ、巨人と次々に姿を変えながら攻撃を仕掛けてくる。そして変身の度に同じ姿をした雷の精霊をお供として召喚してくる。
お供達はさっきのアースエレメンタルとは段違いの強さだし、数が多いのは厄介だけど、それぞれの姿毎に攻撃方法が決まっているので対策は取りやすい。
ダメージを与え続けているとウモさんはやがて最初のもやスタイルに戻る。
「雷くるよー」
師匠が言うけど初めての人たちがはいそうですかと対応できるわけはない。さっき同様ほとんどの人が大ダメージをうけた。
ちなみに私は今回も前回もほぼノーダメージである。ふふふ、ソロ討伐の経験は伊達ではないのだよ。
HPバーが減ってきたウモさんが、壊れた機械みたいにばんばん雷の魔法をまき散らし、雷の精霊たちをランダムに召喚しだす。こうなればある程度被弾は覚悟しなくてはならない。連続して攻撃を受け、死亡するメンバーも増えてきた。
とはいってもこれだけの人数。みんなでダメージを与えればウモさんの抵抗も長くは続かない。
ウモさんは再び光となって散っていった。
ふう、という安堵感がパーティーを包む。思ったより簡単かと思ったけど、やっぱりボスって難しいんだ。倒せてよかったね。よかったよかった、面白かったね。
「まだだよー。もう一回!」
師匠が叫ぶ。
その言葉通り、再び部屋の中央に光が集まる。
ぱきぱきぱき。画面の中の風景を、氷が覆っていく。
ざりっ、ざりっ。さっきまでより一段と早く、HPバーが削れる。
部屋の中央に現れようとしている存在によって、気温が著しく下がっているのだ。
光は青く色を変え、ある生き物の形をとる。それはファンタジー世界における絶対の力の象徴。始めて見ても誰もが「これはヤバい」と理解できる非常にわかりやすい姿。
「これ倒せばほんとにおしまいだからね。頑張ろう!」
水晶の様に青く透き通る巨大な竜。
<大氷結孔ウモ>のボス、人工精霊<ウモ>が、その正体を現した。
第三体型のウモさんはこれまでとは別次元の強さだ。通常攻撃が普通に痛いし、全身から冷気をまき散らし、近づくだけでダメージを受けてしまう。時折放ってくる冷気の波動は躱しようもない。盾を持っていない人にはつらい相手だ。
でも事前に氷耐性上げてくるようにと引率の師匠がお話してたからね。召喚される眷属も氷属性の攻撃しかしてこないし、冷気耐性のバフも掛けているからみんななんとか戦えている。
ここから先登場するのは氷属性のモンスターだけ。本来なら先日手に入れた<コヒナブレード・炎>が唸るところなんだけど、火の精霊力が働かないこのダンジョンでは使えないのが残念。
私が得意としているライトニングストライクはこのダンジョンでは非常に有効である。
有効なはずなんだけど、師匠が戦士系の人みんなにライトニングウエポンの魔法をかけるもんだからイマイチ目立たないな。不満。
ウモさん最終体型ではこれまで以上の速さでこちらのHPが削られる。回復のためにスキルを使うと大技が使えない。ウモさん攻略にはこの辺りをどうするかが攻略の鍵になってくる。
でも師匠のお陰でみんな攻撃力が上がっているし、回復魔法も掛けてくれる。ハクイさん程じゃないにしても他人を回復できる師匠が一緒というのはかなりの安心感がある。 戦線が危なそうな所には猫さんが行ってサポートしてくれるし。及ばずながら私もいるし。
大活躍したのは勿論、トパーズドラコのトパコ君だ。お供モンスターとウモさん本体をいっぺんに攻撃する雷のブレスは圧巻。
最後はバフの乗ったカオリンさんの槍が貫いて、今度こそ本当にウモさんは光になって消えた。
あちこちで歓声が上がる。
「最後やばかったよねー」
「俺、魔物使いやってみようかな」
「絶対死んだと思った」
「ていうか疲れたー」
興奮冷めやらぬメンバーが口々に戦闘の感想を口にする。
「私ボス倒したの初めてです。ギルドマスターさん、ありがとう!」
カオリンさんみたいに初めてボスを倒した人は感動も一際だろう。
「あー、いや俺ボスに一回もダメージ当ててないし。周りもあんまり……。ていうか一匹も……」
そういういいかたするなし。真に受ける人もいるんだから。
「一匹も倒してないとかwww何ww」
ほらいた。この人は回復して貰ってもしてもらわなくてもいちゃもん付けるんだな。
「あー。すいません。とりあえず転移禁止が始まる前に撤退しましょうかー」
何はともあれ強敵の討伐に成功。初めての人が多い中よく頑張りました。私たちは意気揚々と引き上げたのだった。
□□□
「じゃあ戦利品分配しますかー」
「いえーい!」
強敵討伐後のお宝山分けはネオデの醍醐味。
ま、今日はお宝も沢山だけど、人数もたくさん。分け前が少なくなってしまうのは仕方ない。それもネオデの醍醐味だ。ふんふーん。なにが出てるかな?
「いや、何でアンタがシキってんのwwww」
……は?
何を選ぼうかとわくわくしながら戦利品を眺めていた私はダーニンさんの言葉に凍り付いた。
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