第148話 野良猫ナナシ③

「そういやオンジさんは何連れて行くの?」


 師匠が魔物使いのオンジさんに聞いた。


「ウモだったらこの子じゃの」


 ぽん。


「わあ、可愛い!」


 思わず叫んでしまう。オンジさんの前に現れたのは黄色い鱗を持った小型犬くらいのドラゴンだった。ギルドのメンバーもその小さなドラゴンを見ようと集まってきた。


「トパーズドラコ! 実物始めて見たかも」


 師匠も驚いている。


「トパコじゃ。可愛がってやってじゃ」


 オンジさんが自慢げに胸を張る。


 自慢する気持ちはよくわかる。トパコ君は透き通った小さな羽を持っていてぱたぱたふわふわと宙に浮かんでいる。とても愛らしい。正直持って帰りたい。いいな、この子と冒険したいな。魔物使いさんにもなりたくなってくる。


 ドラコと言うのは体が大きくならない種類のドラゴンなのだそうだ。普通ドラコの色はドラゴンと同じ茶色なのだけど、稀に変わった色の個体が現れる。そのドラコ達は体の色に因んだ宝石の名前で呼ばれていて、宝石ドラコを飼っているというのは一流テイマーのステータスにもなっているという。


 可愛くて珍しいだけではなく、とても強い。トパーズドラコは雷のブレスを吐き、こんなに小さいくせにオンジさんのサポートがあれば本物のドラゴンを倒すこともできるのだそうだ。


「猫さんとトパコ君がいれば道中は安心だね」


「おまかせあれじゃ」


「おめーもはたらけにゃ」


 メンバーはオンジさん、カオリンさん、めりちょさん、ダーニンさん、クラウンさん、すみれさん、ベシャメルさん、たぐちくんさん。それに猫さんと師匠と私。


 総勢十一人。大所帯だ。何回かあったこともある人もいるし、初めての人もいる。


 他にもログインしているギルドメンバーはいるみたいだけど、何か別のことをしているのだろう。ちなみにマッキーさんは今日もメンバー勧誘に精を出しているらしい。もう十分じゃないかなあとも思うんだけど、師匠が言った通りそれがマッキーさんの好きなことならそれでいいのかもしれない。



 □□□



 フリギダス島にはダンジョンが二つある


 一つは月の狂気が支配する<月光洞 イブリズ>。


 もう一つが氷に閉ざされたダンジョン<大氷結孔 ウモ>


 イブリズでは何もしなくてもMPが減っていくけど、ウモでは何もしなくてもHPが減っていく。こまめな回復大事。氷のダンジョンなんだから寒くてHPが減るんだと思うんだけど、冷気耐性ではHPの減少を押さえられないのは理屈に合わない話だ。


 ウモのボスは<ウモ>さん。


 ウモは一番最近できたダンジョンだとされている。一番最近の世界の終わりということだ。近いと言っても百年くらいは経っているらしいけど。


 割と近い昔々のこと。


 過去の滅びの残滓である各地のダンジョンから、再び滅びが溢れ出した。当時の科学者さんたちが必死で調査した結果、この原因は世界を守っている神様的な存在、ボナさんが力を失いつつあることに因ると判明した。


 このままではいずれボナさんは消滅してしまう。その時には過去の全ての世界の終わりが同時に押し寄せることになる。


 そこで科学者さんたちはボナさんの代わりを作ろうとした。ボナさんの代わりをしてくれる存在がいれば世界の終わりを回避できる。そう考えたのである。


 どこか途中で間違えてしまったのか、そもそも根本から間違っていたのか。


 全ての精霊力を有する特別な精霊になるはずだったウモさんは、何故かものすごい力を持った氷の精霊として生まれ、その上制御不能だった。


 ウモさんが誕生した瞬間、そこにいた科学者さんたちはみんな氷漬けになって死んでしまったとされている。まあそうなると誰がこのお話を伝えたんだってことにはなってくるんだけど。例によってその辺は謎だ。


 ボナさんとしては非常に迷惑な話だったろう。何とかしなくてはいけないが、もう弱り切った自分の力ではどうしようもない。悩んだ結果ボナさんは勇者を見出してその力を借りようと思いついた。


 勇者たちはウモさんを討伐し、フリギダス島の奥深くに封印することに成功した。この作戦成功に気を良くしたボナさんはやがて、異世界からたくさんの勇者を呼び寄せたら世界の終わりを回避できるんじゃないか、という発想に至るわけだ。


 勇者たちによるウモさん封印作戦は成功したものの完全ではない。漏れ出し続けるウモさんの力で、今でもフリギダス島の半分は氷に覆われている。


 ウモさんは氷の精霊。だったら炎の魔法が効きそうだけど、<ウモ>のダンジョンでは炎の精霊力が上手く働かない。要は「炎は禁止」のダンジョンである。炎系の魔法やスキルは使っても発動しないのだ。何故なのかは不明で、実はこのあたりが科学者さんたちのウモさんづくりが失敗した原因に関与しているらしい。


 このダンジョンのモンスターには当然氷属性も効きにくい。となると物理で殴るのが一番手っ取り早い。そして雷属性はとても有効。


 私がウモさんのソロ討伐に成功した理由として、ウモさんが雷に弱いというのは大きい。あともう一つ。ダンジョンの作りがそこまで複雑ではないこと。


 大氷結孔と言うだけあって、ウモのダンジョンは地下七階というかなり深い作りになっている。ただ広さはそこまでではなく、五階まではゲートや長距離テレポートの魔法で飛べるのだ。


 他のダンジョンと比べれば格段にボスまでたどり着きやすいと言える。


 まあ、それでも迷うんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る