第147話 野良猫ナナシ②

「こんにちはー」「よろしくお願いします」


 カオリンさんとオンジさんに続いて皆次々に師匠に声をかけて行く。


「うわあ、ええと……。やべえ、覚えられない! とりあえずよろしく!」


 師匠が言って和やかな笑いが起きたのはよかったんだけど。


「覚えられないとかwwwやる気w」


 これを言ったのがヴァンクさんとか猫さんだったら気にならないのに。ダーニンさんだと思うとなんだか悪く捉えてしまう。考えすぎなんだろうな。


 あと、カオリンさんが「ナゴミヤさんおもしろ~い」って言ってたのも少し気になった。少しだけね!


「えー、ギルドマスターのナゴミヤと言います。初めましての方は初めまして。そうでない方はこんにちは。ギルド名がワタシの名前になってますが一部でウワサされているような専制君主制ギルドではないです」


 されてないよ。何処から出たのそのウワサ。


「俺はギルドマスターですが、何もしないですし、何もできません。みんな好き勝手やってるギルドですので、みんな好きなことして下さい」


 いい方はちょっとアレだけどなごみ家はそういうギルドだ。


「でもたまにはみんなで何かしたいね。せっかく一緒のギルドになったわけだし。差し当たって今日は……。どうしよっかな。俺何もできないしなー」


 わはは、と笑いが起きる。みんな冗談だと思ってるんだろな。何を隠そう、実はその人ほんとに何もできないんですよ。


 せっかくこんなに人数いるならどこかのボスでも行ければいいんだけど。でも慣れてない人もいるだろうし。戦力やスキル構成は知らない人も多いしなあ。オンジさんなんかは絶対強いと思うけど。エルダードラゴン使いがエルダードラゴンより弱いわけないもんね。


 師匠が自分主導でできる事っていえば羊さんの毛を刈ったりロッシー君にクリーピーダイを狩って貰ったりするくらいだ。


 流石の師匠もみんなで染料集めようぜ!とは言い出さないだろう。


 師匠がうんうん悩んでいると天から助けが降ってきた。びゅーんと言う音と共に降ってきた助けは地面に落ちると小さな猫の姿を取る。


「てめえナゴミー! 早く帰って来たんなら声かけ……何の騒ぎだにゃコレ」


 単独転移魔法で飛んできた猫さんだ。猫さんも師匠のこと大好きだな。


「猫さんこんにちは~」


「お、おうこっひ~か。焦ったにゃ。どっか別のギルドに来ちまったかと思ったにゃ」


「メンバー増えたんです~」


「お、おう。増えたにゃ。めっちゃ増えたにゃ?」


「猫さんいれば安心だね。んじゃ何処かボス行こうかー。行ってみたいとこある人ー?」


 わらわらと不安や期待の混じった声が上がる。


 大丈夫かな、行ったことない、怖い、等々。ここでいう怖いは怖いので行きたくないではない。


 こわーい。足引っ張るかもしれな~い。でも大丈夫だよって言って欲しい~。みたいな意味だと思う。私もそうだったし。ゲームだからね。強いから一人では戦いたくない相手だって、やっぱり倒してみたいだろう。


 でも具体的にどこに行ってみたいと言うのは難しいよね。行ったことないんだし。


「オイ、どういう状況だにゃ。まず事情説明すれにゃ」


「ウモとかどうかな? 行ったことある人ー?」


「オイ、話聞けにゃ」


 猫さんの主張は一般的にはもっともなんだけど、猫さんの場合は気にしなくて大丈夫。


「ナナシちゃん、ナナシちゃん、ワシこのギルド入ったのじゃ。ヨロシクじゃ」


「うにゃっ! てめえ、おんじーじじゃねえか!」


 声を掛けられた猫さんがしゃーっとオンジさんを威嚇する。


「つれないじゃ。しかしいつかかならず儂のモノにしてみせるじゃ」


「なんねーーーーーにゃ! このホウレン草が!」


 ホウレン草って悪口なのかな? 猫語だとそうなのかもしれない。


 凄腕テイマーのオンジさんからすれば野良猫の猫さんをテイムできないというのは沽券にかかわるんだろうな。猫さんの方もオンジさんのことは好きなんだと思う。威嚇してるし、あだ名で呼んでるし。


 それはさておきいいですね、ウモ。


 ウモは今のところ私が唯一ソロ攻略に成功した場所だ。いや、ダンジョンをソロ攻略って言うのは語弊があるな。ボスの前までは師匠に連れてってもらったし。


 ウモのボス討伐が初めての人はカオリンさん、めりちょさん、ベシャメルさん、たぐちくんさん。


 行ったことある人が残りのオンジさん、クラウンさん、すみれさん、ダーニンさん。


 ボス行かない人ってホントに多いんだな。


「あー、初めての人も多いね。でもまあ猫さんいるしダイジョブでしょ」


「何なんだにゃおめーのその根拠は」


 猫さんがいれば大抵のことは心配しなくて大丈夫。周りと合わせるのも得意なのでパーティーの戦力がぐんと上がるのだ。行ったことない人がこれだけいたら大変だけど、師匠のサポートがあればまず負けることはないだろう。


「ボス行ってもしょうがなくね?www」


 またダーニンさんだ。うるさいなこの人は。


「あ、どっか行く予定だった? ごめんよ後から来て勝手なこと言っちゃって」


「いいけどwww」


 いいなら黙っときなさいな。せっかくみんな乗り気になってるんだから水を差さないで欲しい。


「えー、初めての方は聞いてくださいー。ウモのダンジョンでは火属性の魔法やスキルが使えません。氷もあんまりきかないので、それ以外の攻撃手段用意してねー」


 師匠、なんか引率の先生みたいだな。


「あと氷耐性しっかりしておくと安心ですよー。何かわかんないことあったら言ってねー」


「師匠、バナナはおやつに入りますか?」


「三本までなら入んないよ~」


 そうなんだ。じゃあ三本もっていこうっと。


「ドラゴン用のジャーキーはどうじゃ?」


「それは含みます」


「何故じゃ⁉」


「だってオンジさんアレよく自分で食べてるじゃん」


「むう。アレはビールによく合うのじゃ」


 おやつって言うよりおつまみだなそれは。おやつとおつまみ合わせて三百円までですね。しかしおいしいんだ、ペット用ジャーキー。ちょっと食べてみたい。

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