第146話 野良猫ナナシ①
マッキーさんの頑張りの甲斐があってなごみ家には十人以上が新しく加入した。
ギルドに所属していない人とか、所属はしているもののアクティブなメンバーが少なくて退屈という人は意外と多いらしい。
そんなわけで今やメンバーの合計は二十人以上になるんだけど、正直全員の名前とか覚えてない。だって会ったこともない人いるし。今なお増殖中だし。
覚えてなくても困ることはあんまりない。同じギルドに所属していれば名前の横についているタグでわかるし、自分のプロフィール画面からメンバーを確認することもできる。
賑やかなのはいいことなのだと思う。退屈という感覚はまだ私にはわからないけれど、話す人がいなくて寂しいと言うのはわかる。
少し前はインするメンバーが少なくって、師匠が来るまでは一人っていうことも多かった。占い屋さんは楽しいけれど、寂しいな、誰か来ないかなって思うこともあった。最近はレナルド君もいるしショウスケさんとブンプクさんも良く来てくれるから忘れてたけど。
新しい人たちとお話してみて分かったのが、ボスの討伐というのはあまり行かないとかそもそもやったことがない人も多いと言うことだった。私としては意外なことだ。
ちなみにソロ討伐なんかはできなくて当たり前ではっきり言って普通じゃないとか。うちの人たちはやっぱり強い人が多いんだな。
ボスを倒すと優秀なマジックアイテムがドロップするけれど、そもそも効果はランダムで宝くじみたいなものだ。無理してボスを倒すより中級モンスターをたくさん狩った方が高率的と言うのは一般的な認識らしい。
なので一通りのボス討伐をしたことがある私は実はすでにそこそこ強いらしく、新メンバーさんたちからはそれなりに頼りにされたりもする。
それ自体は嬉しいんだけど。
でもメンバーが一気に増えちゃうとそれはそれで馴染めなくなるって言うか肩身が狭いっていうか。新入社員しかいない部屋に一人だけいる二年目社員みたいな感覚?
つい、前の方が気楽だったな、なんてことも考えてしまう。ゲーム自体二年目のぺーぺーだしね。
ただこれは私が新メンバーの中心になっているダーニンさんと合わないと感じているせいもあると思う。だから多分私が悪いんだろう。
メンバーが増えても師匠の帰りは相変わらず遅いもので、新人さんたちの中には師匠を知らないとかまだ会ってないなんて人もいる。
そう言えばギルドマスターって誰? ナゴミヤさんです。いやそれギルド名じゃん、笑。
そんなやり取りが新人さんたちの間で何度も交わされていて、もはや鉄板ジョークみたいになっている。
なので珍しく早く帰ってきたギルドマスターの師匠は大変な人気を持って迎えられた。
「ただいまあー、ってうわあああああ、いっぱいいる!!!!!????」
びっくりしております。いつもより多く驚いております。また増えましたという報告は夜遅くに毎日してるんだけどね。実際に見たらびっくりするんだろう。今日は十人くらいいるかな? 新しい人ばっかり。
「ただいまてwww」
またダーニンさんはwを連打している。いいじゃんただいまで。でも私も最近ただいまって言うこと少ないんだよな。なんだかさみしい。
「お帰りなさい師匠~。今日は早かったんですね~」
「師匠wwてwwww」
いいじゃん! この人は私の師匠なの!
「うん、珍しく今日は何も起きなくてさ~」
「やった~!」
「ギルドマスターさん初めまして、こんにちは~」
声を掛けたのはカオリンさん。ロングスピアを使う戦士系の女の人でセクシー系の鎧を着た美人さんだ。
「あー、どーも初めまして。ナゴミヤです」
「ほんとにナゴミヤさんって言うんですね」
「え? あー。ギルド名ですね。あー、なんか成り行きでそうなりました」
師匠が答えるとカオリンさんはあはは、と楽しそうに笑った。釣られてみんな笑う。
……むう。
まあ、そうだよね。折角早く帰って来ても私が独占するわけにはいかない。師匠は私の師匠だけど、みんなのギルドマスターでもあるからね。私の師匠だけどね!
「ナゴミヤさんや、ワシも入れて貰ったじゃ。ヨロシクじゃ」
「おおー、オンジさんじゃないですか。ようこそー」
オンジさんは魔物使いのおじいちゃん。ほんとにおじいちゃんかどうかは勿論わからない。語尾の「じゃ」も時々使い方が怪しいし。マディアでよく見かけるので私や師匠とは以前からの知り合いだ。
魔物使いさんというのはラクダや馬、それに私が乗っているナンテー君のようなナントカコントカを捕まえて調教し、騎乗動物やペットとして他のプレイヤーに譲渡したり、モンスターを
魔物使いさんは関わるスキル上げが大変だったり、魔物を捕まえるのが大変だったり、折角捕まえても場所によって連れて歩けなかったり、自分以外に魔物のスキルやステータスを上げないといけなかったりと色々大変らしい。
でもやっぱり人気のスキルではある。わかる。だってドラゴンとか従えてみたい。
オンジさんは魔物使いに特化した人で「儂はこいつらがおらんとなんもできんのじゃ」なんてことを言うのだけど、実は凄腕の魔物使いさんでエルダードラゴンまで配下に置いている。オンジさん的には配下じゃなくて友達だそうだけど。
エルダードラゴンはとんでもなく強いけど、大きさも凄いから連れていける場所ってダンジョン内だとあんまりない。ずっと一緒に歩けるのはそれこそ<竜巣トイフェル>くらいじゃないだろうか。
ボス部屋みたいな広い所につけば大丈夫だけどね。道中はホイポイカ……じゃなくてリダクトケージに入れて連れて歩けるので安心。
オンジさんはほかにもいろんなモンスターを飼っていて、綺麗な羽のオウムとか銀色の毛のフェレット、透明猫などの不思議で可愛いペットを捕まえて来て町で売ったりもしている。
ネオデのペットというのは便利なもので、モンスターボ……。リダクトケージに入れておけばお世話不要。愛でたい時に出して愛でることが出来る。
この辺の生き物は一度テイムした状態なら魔物使い系のスキルがなくても飼うことが出来る。連れて歩くと素材を掘り当ててきたりちょっとだけHPやMPを回復してくれたりするのだ。実際いてもいなくても変わんないレベルだけど、可愛いからよし。
私もオンジさんから買った白とオレンジの二匹のリスを飼っている。
占い屋さんを出すときには肩とか頭とか服の中とかをちょろちょろさせているのだけど、お客さんからの評判は上々である。たまに木の実を拾ってきてくれるのでおやつに食べるのもいい。ちなみにお礼に果物をあげるので収支はマイナス。連れていると幸運が少し上がるらしいけど、とっても弱いので戦闘には連れていけない。
つまりただただ可愛いだけの存在である。最高。
オンジさんはマディアの町でペット屋さんをやっていることもあるので、師匠や私とはよくおしゃべりする間柄だった。マッキーさんが勧誘しているのを見かけて聞いたことのあるギルドだと言うことで来てくれたらしい。元からの知り合いということもあり、新しく来た人たちの中では話しやすい人だ。
オンジさんが入ってくれたのはちょっと嬉しいかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます