第145話 一番楽しいこと⑤


「—って言うことがあったんですよ!」


 いつも通り遅く帰ってきた師匠に、知らない間にダーニンさんとラムダさんが加入したこと、二人が上手くいかなそうなことを早速告げ口した。ちなみに今残っているギルドメンバーは私だけだ。


「それは大変だったねえ」


「大変でした!」


 大変だったので優しくして下さい! なんてね。


 冗談はさておき、今後のことを師匠に聞いておかないといけない。


「どうしたらいいんでしょう。ダーニンさんの事」


「いやあ、別にどうもしなくていいんじゃない? 」


 私は深刻な問題だギルドの危機だ、師匠が帰ってきたら何とかしてもらわないと焦ってたけど師匠の方はいつも通りだった。



「その人、ダーニンさんだっけ? 別に怒ってるとかじゃないと思うよ。多分リーダー気質の人で、その人なりのコミュニケーションじゃないかな」


 うええ、あれがコミュニケーション?


 でもそう言われてみれば今日は全員なんだかんだダーニンさん主体で動いてた気もする。認めたくないけど。


「それにネットゲームだからね。苦手だったら別に無理に付き合わなくてもいいと思うよ。リアルでも付き合いづらい人とは距離置くじゃん。一緒一緒」


「でもギルドメンバーですよ?」


「あー。今まで凄い楽だったからねえ。でもよくあることだよ」


 むう。そういう物だろうか。


「前はうちもいろんな人いたからねえ。それこそ色々あったよ。お互い我慢しながらゲームしてもつまらないからねー。合わなければ向こうも離れてくだろうし、それぞれ自分が楽しいことすればいいと思うよ」


 ううん。師匠に言われるとそれでいい気もしてくるな。うちのギルドはそう言うギルドだ。今までだってそれぞれ好きなことをしながらギルドチャットでたまに会話すると言うのもよくあった話だ。


 そっか。ダーニンさんのことは私が心配するまでもないか。


 でも私の心配事はもう一つあって、そっちの方が重要だったりする。


「マッキーさん、ギルドメンバー勝手に増やしちゃうって言うのはどうなんでしょう?」


 私としてもダーニンさんに思うことは多いけど、実はこっちのほうが嫌だった。マッキーさん自身はいい人だと思う。でも知らない間にギルドに知らない人が増えてしまっていたというのは怖い。大事なところに踏み込まれてしまうような寂しさがある。


 でも師匠はこれもさほど危機感を感じてないようだった。


「ううん、それもねえ。あんまうるさいこと言いたくないし、それはそれでマッキーさんの楽しいことだと思うんだよねえ」


 むう。


 そう言えば師匠はギルド内計画殺人の容疑者を平気で加入させる人だっけ。計画殺人は未遂に終わったけど。いや違うな。殺人事件は起きた。加入した人は犯人じゃなくて被害者になっちゃったけど。


 でもそっか。マッキーさんの楽しいことか。


 ギルドの役に立ちたい、立ってる、はハクイさんやブンプクさんに憧れて入隊したマッキーさんにとってはメンバーの勧誘はとても楽しくて有意義なことなのかもしれない。


「楽しまないと」は師匠の口癖だ。弟子としては従わざるを得ない。仕方がない。こうなれば私も楽しむしかないか。とりあえずは今日の残りの時間。師匠と二人、私の一番楽しい時間だ。


「んじゃ、今日は何すっかね」


「師匠師匠、食虫植物凄いの出来たんです。お部屋に飾ったので見に来てください!」


「え、えええ。すごいってこの間の巨大ハエトリグサよりもってコト……?」


「はい! モウセンゴケなんですけど凄い大きいんです! あれならフライングスパイダーとも戦えると思うんです!」


「おおう。戦わせるって発想はなかったな……」


 食虫植物を師匠に見て貰った後二人で栄養剤を探しにモグイにいった。さらなる巨大食虫植物を作って師匠に褒めて貰うのだ。


 嫌なこともあった日だけど、終わりよければすべてよし。


 一日の最後には師匠と合えるので大体毎日すべてよし、だ。


「師匠、今日もありがとうございました! おやすみなさい!」


「こちらこそー。おやすみー」



 ■■■



 でもさらに翌日のこと。


 私はいつもどおりただいま、とギルドチャットに打ち込もうとして躊躇ってしまった


 また『ただいまてwwwww』っていう返事が返ってきたら嫌だなと思ったのだ。なんだか変えるのは癪だけど今日は無難な挨拶にしておこうかな。


 コヒナ:『こんにちは~』


 マッキー:『コヒナさんこんにちは』


 お、マッキーさん今日もいたか。


 お返事をくれたマッキーさんに今日は何をしてるんですか、と会話を打ちこもうとしているとぴろんと連続してギルドチャットにメッセージが届いた。


 ぎんえもん:『ちわ~。よろです』



 ⁉


 誰っ⁉


 ……誰もなにも何もないか。またメンバーが増えたんだな。うん。そんなこともある。ぎんえもんさんか。どんな方かな。とりあえず初めましてのご挨拶を……。


 しかし、メッセージはそれでは終わらなかった。


 ぴろぴろぴろん。立て続けにシステム音が鳴る。


 すみれ:『こんにちは。』


 オンジ:『こんにちは。よろしくお願いしますじゃ』


 ダーニン:『ちゃっwwww』


 ベシャメル『こんにちはー』


 クラウン:『こんにちは』


 めりちょ:『こんにちはーw はじめまして、めりちょですw』



 えっ。



 えぇええええっ⁉

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