第143話 一番楽しいこと③


 レナルド君は嬉しそうにマッキーさんにブンプクさんのことを教えていた。マッキーさんの方も有名プレイヤー<骨董屋>の意外な一面を知れて楽しそうだ。ブンプクさんの馬車に乗せて貰った話を聞いた時にはマッキーさんは本気で羨ましがっていた。レナルド君も得意げに御者台からの眺めについて話している。


 ううん、この人なら一緒にいても楽しそうだな。ちょっと安心。でもそれはそれとして、こんな風に三人並んでると占いのお客さん入りずらいと思うんだよなあ。


『ただいまあ~』


 やっと師匠が帰ってきた。ギルドチャットの挨拶に返す間もなくすぐにマディアの町に本体がやってくる。


「師匠お帰りなさい~」


「おかえりなさい」


「ただいま~、ってなにこれ占いストリート⁉」


 三人で並ぶ私たちを見て声を上げる。違います。占い師は私だけです。


「師匠~。こちらのマッキーさんがギルドに入りたいと」


「ええっ⁉ 何でっ⁉」


 この間もやったなこの流れ。


「こんにちは。マッキーと申します。ナゴミヤさん、お会いできて光栄です」


 堅い。マッキーさん堅いよ。この人そう言う人じゃないよ。


「あ、あ~どうも、こちらこそ光栄です……?」


 ほら。そんなこと言われたことないもんだからテンパっちゃってるじゃん。


「師匠、マッキーさんは昔ハクイさんに助けられた方だそうです。後ブンプクさんのことも知ってるそうです」


「あ、あああ~、そう言うことですか。でもハクイさんは今あまりログインしてないですよ?」


「ええっ、そうなんですか? 何故です?」


「さあー? リアル事情らしいですが」


 多少知ってはいるんだけど、師匠マッキーさんとは初対面だからね。リアル事情とか本人いないところで話すものじゃない。


「で、でもたまにはいらっしゃるんですよね?」


 マッキーさんハクイさんのこと大好きだな。


「あー、来ますけど週イチくらいかな。それにうちのギルド、他のメンバーもイン少ないのであんまりお勧めしないって言うか」


 師匠がまた一生懸命予防線を張っている。これは意地悪してるんじゃなくてがっかりさせたくないのだ。楽しませられる自信がある時の師匠はぐいぐい来てうざい位なんだけど。


「でも週イチはくるんですよね? 」


 ほんとハクイさん大好きだな!


 もしかして占い屋さんに顔出してくれてたのもハクイさん目当てだったのかな? もっと早く知ってればいっぱいログインしてた時期もあったのになあ。


「あー、二週にいっぺんくらいかも……」


 レナルド君が来た日以来ハクイは来てない。あれから十日くらいたっているし嘘じゃない。今後のこともわからないからね。でもマッキーさんの決意は固かった。


「それなら是非加入させて下さい。なんでもします」


「あ、いや~。特に何もしなくてもいいんですが……。俺も何もしてないし……」


 師匠はこのところ以前にも増して帰りが遅いからね。お疲れなのだ。無理しないで下さいね。


「……どうしても駄目でしょうか」


「え⁉ え、いやいやいやいや」


 マッキーさん的には師匠が頑なに入隊を拒んでいると思っているんだな。何か理由を付けて断ろうとしている的な。


「ええと、入隊自体は構わないんですが」


「ホントですか!」


「はあ、その。でもうちのギルドほんと変人ばっかりでして。それに今インしてる人数も少ないですからあまり楽しくないかもしれませんよ」


「なるほど、 そういうことでしたら私、頑張ります!」


 マッキーさんは何を頑張るつもりなんだろう。


「あ、ええと……。ハイ……俺も頑張ります……」


 師匠は何を頑張るつもりなんだろう。


 ぴろりん、とシステム音。


 System:<マッキーがギルドに加入しました>


 こうしてナゴミヤにもう一人仲間が加わった。



「やった! どうぞよろしくお願いします!」


「マッキーさん、よろしくですー」


「よろしくお願いします」


「コヒナさん、レナルドさん、ありがとうございます。お二人のお陰で入隊できました!」


 う、ううん。なんて返したらいいんだ。うち、そんな大層なもんじゃないですよ?


「おめでとうございます」


 レナルド君、それはなんか違うんじゃないかな。


「ありがとうございます!」


 あ、合ってたっぽい。


 レナルド君がぶんぶんと杖を振る。ゲートの魔法だ。


「お、レナルドさんありがと」


 師匠が一番先にゲートをくぐる。なんか遠慮してるっぽいマッキーさんをいいからいいからとゲートにおしこんで、私とレナルド君も後に続いた。


「ここがギルド拠点です」


 いいながらレナルド君が師匠の家に入っていく。なんとなく私たちもそれについて行くとレナルド君は二階にある私の部屋の前で止まった。


「ここはコヒナさんの部屋なので入ったら駄目です」


 う、うん。


 いや、そうなんだけど。なにも一番最初にそれ説明しなくても……。でもレナルド君的には最重要事項だったんだな。ありがと!


「わかりました。肝に銘じます」


 いや、マッキーさんもそんな大層なもんでも……。いや入られたくはないんですけども。


「レナルドさんありがと。マッキーさん、ほかの設置物とかは自由に使って下さいね。まあ拠点とってもみんな好きなことやってることが多いのでここで何かと言うのはあんまりないんですけどね」


「わかりました」


「うち変人ぞろいのギルドでして。それにいまはログインしてる人も少ないですから合わなそうだと思ったら抜けちゃって大丈夫ですからね」


「そんな! 抜けるなんてとんでもないです」


 大丈夫かなマッキーさん。マッキーさんの眼にはうちのギルドどんなふうに見えてるのかな?


「もう少しアクティブ多いと盛り上がるんでしょうけどね」


「任せてください。一緒に楽しいギルドにしましょう!」


 マッキーさんも変わった人だなあ。熱いって言うか。マディアの町でお話していた時には全然気が付かなかったぞ。でももしかしたらうちには合っているのかもしれないね。

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