第142話 一番楽しいこと②
マディアの町でお店の準備をしているとレナルド君もやってきた。
「コヒナさんおかえりなさい」
「レナルドさん改めてただいまです~。占いしていきますか~?」
「ううん、見に来ただけ。ダンジョン行ってきます」
「は~い、行ってらっしゃい」
レナルド君はショウスケさんやブンプクさんに戦い方を教えて貰ってダンジョンの深い所までも一人で行ける。迷子率も考慮すると私より先にボスのソロ討伐を達成してしまうかもしれない。頑張らないと。
「コヒナさんこんにちは」
レナルド君を見送ろうとしている所に声を掛けてくれたのは<マッキー>さんという方だった。マディアの町でよく見かける人で、何度か占いのお客さんになってくれたこともある。
「マッキーさん~、いらっしゃいませ~、こんにちは~」
「こんにちは」
レナルド君もマッキーさんに挨拶する。ブンプクさんの言いつけ通りちゃんとマッキーさんの方を向いてお辞儀をしていた。えらい。でもマッキーさんは丁寧な挨拶をされて面食らってしまったみたいだった。
「あ、どうも……」
マッキーさんはレナルド君に気が付かなかったのだろうな。ちょっと距離もあったし私とレナルド君が知り合いだと思わなかったのかもしれない。
「マッキーさん、こちらレナルドさんです~。うちのギルドの新メンバーなんですよ~」
「あ、そうなんですね。それはどうもこんにちは」
「はい、こんにちは」
レナルド君がまた丁寧にお辞儀をした。
「あれ、コヒナさんのギルドって<なごみ家>ですよね? ハクイさんとか<骨董屋>さんとかがいる」
「そうです~。ハクイさんとブンプクさんご存じなんですか~?」
「はい。ハクイさんに助けて貰ったことがあって。<骨董屋>さんは有名人ですし」
「そうだったんですね~」
言われてみればハクイさんもブンプクさんも有名人だ。ファンがいるって聞いたこともある。リンゴさんやショウスケさんもそれぞれの界隈では有名プレイヤーだし、ヴァンクさんは裸パンツだし猫さんは猫さんだ。うち有名人多いな。平凡なのは私と師匠くらいのもんじゃないか。
「<なごみ家>ってギルドメンバー募集してたんですか?」
「え? ええと~? 」
マッキーさんに言われてちょっと戸惑う。
マディアの町でもギルドメンバーの勧誘をしている人達は時々見かける。どうすればメンバー増えますかっていう相談を受けたこともある。あのときは占いしている所にたまたま入るギルドを探している人が通りかかってめでたしめでたしだったっけ。
でもうちでは募集してないと思うなあ。うち変な人ばっかりだし。
「特に募集はしてないと思いますけど~?」
「でもレナルドさんは新メンバーなんですよね? 」
「そうです~」
レナルド君は変な人仲間です。
「じゃあ僕も入れて貰えませんか?」
「え、えええ?」
じゃあって言われてもなあ。困ったぞ。ハクイさん最近ログインしてないし、レナルド君の時もそうだったけど私一人で判断していいことじゃないんだよ。
『レナルドさんどうしましょう』
ギルドチャットで隣にいるレナルド君につい助けを求めてしまう。そんなこと言われてもレナルド君もこまるよね。わかってる。でも溺れる者は沼スライムも掴んでしまうものだ。
『こまっているなら入れてあげたいです』
優しいなレナルド君!
でも私たち二人で決めるのはやっぱりなあ。
「私達ではわからないのでギルドマスターに聞いてみて下さい~」
とりあえず逃げよ、と思ったのだけどマッキーさんは間髪入れずに返事を返してきた。
「<なごみ家>のマスターに紹介してもらえるんですか⁉ いつですか⁉」
……えっ。
いや、紹介って。うちのマスター、そんな大層なもんじゃないですよ?
「ええといつもインが遅いのでいつになるか~」
「……なるほどそう言うことですか」
本当のことを言ったのだけどマッキーさんは露骨にがっかりしてしまった。
いや違うよ?
期待させといて本当は会わせる気がないとかそう言うのじゃないよ? 確かに逃げようとはしたけど。マッキーさん多分勘違いしてるけど、うちそういうギルドじゃないよ?
「いえ~。多分今日も来ると思います~。ただリアル事情で帰って来るのが遅いだけなんです~」
「あっ、そうですよね。<なごみ家>のマスターですもんね。リアルも色々とお忙しいですよね」
「ええと……」
多分違う。確かに師匠はリアル忙しいっぽいけど。
うちの師匠は控えめに言ってもいい人だと思う。
色んなこと知ってるし、優しいし、一緒にいると楽しいし、背高いし。二次会で知らない人から狙われてそれに気が付かないという困ったとこもあるけど、そこもまたいい。顔も中々でイケメン俳優のナントカさんに似てる。猫さんも「お、おう。だいぶイってんな」と同意してくれた。
でもマッキーさんの想像とうちの師匠は多分違う。
「じゃあマスターさんいらっしゃるまでここで待っててもいいですか!」
「え、ええと、それは構いませんが……」
「ありがとうございます!」
マッキーさんはそう言うと椅子に座っている私の隣の地面に腰を下ろした。あ、そこで待つんですね。
レナルド君は無言で私たちの様子を見てたけど、やがて私を挟んでマッキーさんと反対側の隣に座った。うん、出かけるタイミング逃しちゃったよね。「じゃ、僕ダンジョン行ってきます」って言いだしずらいよね。ごめんね。
私だけ椅子に座ってるのも申し訳ないのでお二人にも椅子をお渡しした。占い屋さんを出すときは団体のお客様用に数脚持ち歩いているのだ。
「お、これはかたじけない」
「ありがとう」
街中で三人同じ方向に椅子並べて座ってるのも、これはこれで妙な光景だな。面接試験の会場みたい。
「ギルドマスターさん、どんな人なんでしょう。楽しみだなあ」
「あははは~」
ほんとどんな人なんでしょうね~。あんまり期待しない方がいいんじゃないかな~。
「ナゴミヤさんは優しい人です」
隣のレナルド君がマッキーさんに教えてあげているけれど、これはブンプクさんから聞いたのを言ってるだけだ。レナルド君と師匠って時間帯のせいであんまり被らないんだよな。
「ナゴミヤさんっておっしゃるんですか。 自分の名前ギルド名にしちゃうなんてやっぱりすごい人なんですね」
「うん」
うんて。レナルド君よくわかってないでしょ。
「あ、あははは~」
師匠早く来て下さい。このままではマッキーさんの中の師匠が大変なことになってしまいます。
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