第137話 植物迷宮の女帝《エンプレス》⑨
「やるね~~、レナルド君」
「あんなに魔法撃ったの初めて。みんな助けてくれたから」
「レナルドが活躍したのは間違いないだろう。こちらも楽をさせて貰った」
「うん。リンゴさん、ありがと」
「さて、この後はどうするかにゃあ。クイーンはこの面子じゃ厳しいかにゃ」
「クイーンって、五階のボス?」
来るまでに<モグイ>のダンジョン成立のお話をしているので、ボスであるドライアードの女王アブダニティアさんのことはレナルド君も知っている。
「そうです。お話に出てきたドライアードの女王ですね~」
「そうなんだ……」
レナルド君行ってみたいのかな? でもなあ。あの女王様強いからなあ。多分迷宮のボスの中でも上から三番目。女王様の上にいる二体はボスの中でもまた別格だし。
「何とかならないですかね~」
「全滅覚悟なら行くのも悪くないが。しかしレナルドは初見だろう? 勝たせたいじゃないか」
リンゴさんの意見にはもちろん全面賛成だ。でも連れて行ってあげたいのも事実。
「レナどんはどうだ? 行ってみたいかにゃ?」
「うん」
「死ぬぞにゃ。下手したら全滅だにゃ」
「う~ん」
「まあ、それでも行きたいか、ってことだな。どうするレナルド」
猫さんが脅してリンゴさんが助け舟を出す。どっちが楽しいかはレナルド君に決めて貰わないとね。
「じゃあ、行ってみたい、です」
「OKだにゃ」
「なら少し対策を練るか」
この面子なら普通に戦えば全滅はまずないと思う。でもレナルド君が活躍できないとか、死んだまんま眺めてるだけとかになっちゃうくらいなら全滅した方がマシ。そんな風に考えるのがこの人たちだ。だって見てるだけのゲームなんてね。
「ねえねえ、もうすぐショウスケが帰って来ると思うんだけど~~」
なんですとっ。
「ショウスケさん来るんですか?」
ショウスケさんの顔は長いこと見ていない。凄く忙しいんだと思ってた。でもそうか、それはブンプクさんも一緒か。ブンプクさんがこれたということは。
「うん~~。やっといろいろ片付いたからね~~。この先もちょくちょく顔出せると思うよ~~」
「やった!」
「ショウスケが来るならいける……か?」
ショウスケさんが来れば守ってもらいながら回復できる。比較的攻撃力が高いブンプクさんにも雑魚モンスターの攻撃に回って貰えばなんとかなるかもしれない。
「ショウスケさんてギルドの人?」
「そうだよ~~。ショウスケは私の旦那さんだよ~~」
「えっ。そうなんだ……」
お、レナルド君ショックかな?
「ショウスケさんってつよい?」
「うん、強いよ~~。私の10倍くらい~~」
「えっ、10倍?」
ブンプクさんの10倍強いかどうかは定かじゃないけど、ショウスケさんが強いのは間違いない。大変わかりやすい指標もある。
「ショウスケさんはさっきのフロラヴェルトを一人で倒せる人です」
「ええっ⁉」
「さらに、この下にいるクイーンも一人で倒せます」
「ショウスケさん、すげ~~~~」
「レナどんレナどん、一応言っとくと、俺もできるにゃ」
「マジで⁉ 猫さんもスゲエ~~~」
うちのギルドだとソロ討伐は猫さんとショウスケさんだけかな? 確かヴァンクさんとリンゴさんは女王アブダニティアさんのソロ討伐はしてなかったはず。二人とも最古竜セルペンスは倒しているとのことなので、相性というのもあるのだろう。
このことは逆説的にどちらも倒せる猫さんとショウスケさんが如何に凄いかということを示している。猫さんとショウスケさんの戦闘スタイルは全然違う。でもどっちも対モンスター戦において最強だ。
どっちが強いかを比べることはできない。もし二人が戦ったとしてもそれを決めることはできない。戦って一番強い人が最強だというならそれは間違いなくリンゴさんだ。あ、禁じ手を含めればブンプクさんかも⁉
ううん、みんなすごいな。私も何かの最強になりたいなあ。
「あ、帰ってきた~~。お帰りショウスケ~~」
ブンプクさんブンプクさん、それはチャットじゃなくて口でショウスケさんに言ってください。でももしかしてショウスケさん今画面見てるのかな?
「ショウスケさん、お帰りなさい~」
アバターを画面の正面に向けて手を振ってみる。届くかな?
「ただいまですーだって~~」
ブンプクさんが通訳してくれた。ショウスケさんお疲れさまでした。
「すぐログインするって~~」
「ダイジョブなのかにゃ? ショウスケちゃんと飯食ったか?」
「うん~~。今日は外で食べてきたから~~。さっきモグイにいるってメッセージで伝えてたんだ~。レナルド君のことも~~」
結構前から準備は整っていたらしい。さすがブンプクさん抜け目ない。
「じゃあ、ショウスケが来るまで作戦会議だにゃあ。大まかなところはさっきと同じで。だけど魔法使うやつが増えるにゃあ。ブンプクも攻撃に回らねえとにゃ」
「わかった~~」
レナルド君が効果力の魔法を連発するとなればレナルド君が集める
猫さんとブンプクさんがうち漏らしたモンスターの処理とレナルド君の回復が私とリンゴさんのお仕事だ。
「僕ら二人で回復か。なかなか厳しいな」
リンゴさんがぼやく。ショウスケさんがいるからレナルド君がモンスターから受けるダメージは減るんだけど、リッチー化のHP減少って思ったよりも厳しいんだよね。他者回復スキルのない私たちだと三人がかりでやっと拮抗する感じだった。
「僕リッチー化やめる?」
「それは悪手だろう。あの火力は惜しい」
レナルド君を活躍させてあげたいというのもあるけれど、リンゴさんが言うようにパーティーの最大火力を使わないというのは何より純粋に勿体ない。
「ううむ。ホントはこっひーにも攻撃に回って欲しいくらいなんだがにゃあ。レナどんにはクイーンだけじゃなくて取り巻きのつええのも撃って貰うか。とにかく派手なのが出てきたら狙えにゃ」
「わかりました!」
レナルド君は元気にそう答えた。
ショウスケさんが来れば難易度がくんと下がるのは間違いない。
でも何回かは死なせちゃうかもだし、私も死んじゃうだろう。そうなった時のリカバリーが一番大変なんだよね。私とブンプクさんも蘇生はできるけど成功率低いんだよ。レナルド君にもお願いすることになるかなあ。レナルド君の負担も中々大きいな。
ぴろりん。
システム音がしてギルドチャットにメッセージが届いた。ショウスケさん来たかなと思ったけど、メッセージは別の人からの物だった。
『ただいま~。何だか今日はインしてる人多いわねえ。みんな何処にいるの?』
あっ!
『ハクイさん! すぐにモグイの五階に来てください!』
『ハクイいい所に。早く来い。モグイの五階だ』
『やった~~! ハクイちゃんだ~~!』
『こんにちは』
『えっ何⁉ っていうか最後の誰⁉』
話せば長くなるんですが、それはハクイさんがこちらに向かっている間にお話します。
「猫さん、ハクイさんが来ました!」
「マジデか! 勝ったな」
猫さんの言う通り、私たちに負ける要素は一切無くなった。
ハクイさんは治療と蘇生の専門家。大ダメージを受けようが死のうが毒にまみれようが、どんな状態になっても一瞬でパーティーを立て直してしまう。だってあの人、三人同時に蘇生できるんだよ?
女王様が気の毒なくらいだよ。
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