第129話 植物迷宮の女帝《エンプレス》①
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主人公はいつも明るく元気でみんなの人気者。でもそんな彼女には秘密がある。
猫のような不思議な動物の力を借りて、彼女の長く美しい髪がさらに伸びて色を変える。爪や唇が鮮やかに彩られ、光と共に纏うのは華やかなドレスのようなコスチューム。秘められた力の為に狙われる親友を、悪の組織から……
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違うこれは嘘の記憶。だってこれは見てはいけないお話。
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ぶん。
主人公の少年がヒロインと出会って、二人で困難を乗り越えていく。その過程で様々な人たちと知り合い、彼らの信頼と協力を得て巨大な敵を打ち倒す。
ああ、君こそヒーローだ!
そう、これが僕の好きなお話。好きだから何度も繰り返してみたお話。
だから安心してね、お母さん。
僕は普通だよ。僕はちゃんとしているよ。
僕は普通で、ちゃんとしていて、クラスの人気者。いつも僕がクラスの中心。
今日は友達の家で遊んだよ。みんなと一緒に遊んで、ええと、かくれんぼをしたよ。僕は最後まで見つからなかったんだ。缶蹴りでも、水鉄砲でも、川に石を投げるのも、僕が一番強いんだ。
学校は楽しいよ。みんな僕の言うことを聞いてくれるし、先生も優しいよ。先生は怖いこともあるけれど、僕だけは怒られないんだ。すごいでしょう。
今日はね、テツ君が僕のしたことを自分がやったって嘘を言ってみんなに馬鹿にされていたよ。みんながテツ君のことを笑ってた。やっぱり嘘は悪いことだね。テツ君は悪いんだ。僕はいい子なのにね。
クラス委員長に選ばれたよ。学芸会の劇では主役をするんだ。遠足ではみんなが僕の隣になりたいって席を取り合いするんだよ。リクくんとヤッくんがそれで喧嘩しちゃったんだ。
僕はパソコンが得意だから、お小遣いで買ったパソコンのゲームを始めたよ。大人向けの難しいゲームなんだ。でも僕はパソコンが得意だし、周りのみんなよりも凄いからこのゲームを選んだよ。凄いでしょう。
ねえ、お母さん。
お母さんは僕を普通にするために、そいつのところに行くんでしょう?
僕をあいしているのに、そいつのせいで僕の所にいられないんでしょう?
お母さん、僕のために頑張ってくれてありがとう。僕をあいしてくれてありがとう。
大丈夫、僕は普通だよ。僕は爪を赤く塗ったりしないし、髪を色付きのゴムで止めたりしない。だってそんなの変だもんね。
だから、そんなやついらないよ。いなくても僕は普通だよ。
だからお願い。側にいてね、お母さん。
■□■
「リオンさんに誘われて<なごみ家>に入ることになりましたレナルドです。よろしくお願いします、コヒナさん」
師匠のおうちの二階にある私の部屋。そのだいじな場所に無断で入り込んでいたレナルドさんに、私はどう返していいかわからない。
レナルドさんが言う「リオンさん」は昨日<なごみ家>に加入した人だ。私がマディアの町で占いをしていた時に急に現れてギルドに入れてくれと言ってきた。ちょっと強引で私は戸惑ったけれど、でも初心者さんぽかったし、ギルドメンバーが増えるのは悪いことではないはずだ。何よりギルドマスターの師匠が納得して加入を承認した。
でも、入ってすぐに別の人をギルドに入れてしまうのはどうなんだろう。しかもよりによってレナルドさんを。
レナルドさんは前に散々師匠のことを悪く言っていた人で、私はできればもう会いたくないとまで思っていたくらいなのだ。そんな人が私の大事な場所に入り込んでいるという事態に、私は混乱と恐怖のバッドステータスを一度に受けたような気分だった。
「これからは同じギルドのメンバーですね。僕が色々教えてあげますので安心してくださいね」
此処には私しかいないから私に話しているのだろう。でも内容が意味不明だし、その上レナルドさんは私とは反対の方向、つまり壁を向いたまま話しているのだ。得体のしれない怖さがそこにはあった。
「え、ええと、レナルドさんは何故ここに……」
「ですから、リオンさんにさそわれて」
そうではない。聞きたいのはそこではない。何故うちのギルドに。だってあれだけ師匠のことを悪く言っていたくせに。
それに私ははっきりと言ったのだ。師匠のことを悪く言うあなたとお話したく無いと。リオンさんに誘われたと言っても、私や師匠のいるギルドだと知らずに来たわけではないだろう。なぜわざわざ嫌っている私たちのギルドに来るのだ。
目の前にいる人が何を考えているのかわからない。
「とりあえず外に出てくれませんか」
「そうですね。ここではゲートの魔法も使えませんし」
何を勘違いしたのかレナルドさんはそう言って私の部屋を出ていく。そのことに私は少しだけ安堵した。
「じゃあ、行きましょうか。僕が色々教えてあげます」
庭に出るとレオンさんはそう言って杖を振った。ぶーん、と音がして、空中に光るオレンジ色の四角形が現れる。ゲートの魔法だ。私はどうしていいかわからずにそのゲートを見つめていた。
「どうしました? コヒナさん、入ってください」
レナルドさんはまた明後日の方を向いたまま話しかけてくるが、私の方はバッドステータスのせいで言葉が浮かばない。目の前にいる人に言葉が届く気がしない。レナルドさんが怖い。レナルドさんに、そこに入りたくない、あなたが怖いと言うのが、怖い。
すぅんと小さな音を立ててゲートの魔法は消えてしまった。レナルドさんは何も言わない。私も何も言えない。
せっかく一日お仕事を頑張ってここに来たのに。大切で楽しい時間が始まるはずだったのに。そう思いはじめると沈黙によって心がざりざりと音を立てて削られていくのを感じる。
でも耐え難い静けさは、ギルドチャットの緊張感のない声で破られた。
『ただいまあ~~。だれかいるかな~~?』
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