第128話 孤独のギルドマスター《ハイエロファント・リバース》
「えええ、うちのギルドにですか~?」
「はい、是非入れて下さい」
こんなことってあるんだろうか。まったくネットゲームの毎日は常に新しい驚きに溢れている。
私がいつものようにマディアの町で占い屋さんをしていたところ、なんと<なごみ家>に入れてくれと言い出した人が現れたのである。リオンさんと言う人だ。
しかし何でうちなんだろう。物好きな人もいるものだ。
「でもうちのギルド、変な人多いですよ~。多いというか、変な人ばっかりです~」
「やっぱり。大変なんですね」
リオンさんは何か変人で苦労したことがあるんだろうか。どこにでもあるんだなこういう話。
「いえ~。大変ではないんですが~。でもなんでうちなのです?」
「ええと……。メリットがあるからです」
「はあ~」
メリット? なんの?
そりゃあ楽しいけどさあ。でも最近みんなログインしてこないし、変人ばっかりだし。ギルドマスターなんかよわよわ大変人のNPCだ。メリットなんてあるのかなあ。
戸惑っているとぴろんと音がしてシステムウインドウが開いた。
<system: ≪リオン≫がギルド≪なごみ家≫への加入を申請しています。承認しますか?>
うおう、リオンさんぐいぐい来るな。ちょっと怖いぞ。大体そんなこと私に言われても困る。
「私はギルドマスターではないので、マスターに伝えて貰えますか~?」
「マスターでなくても加入の承認はできますよ」
「そうではなくて~」
確かに加入を認める権限はシステム上ギルドメンバー全員にあるけれど、だからといって新人の私が勝手に決めていい話ではない。
「すいません~。私ではわからないので~。ギルドマスタ~もそろそろ来ると思うんですが~」
リオンさんはもしかして初心者さんなんだろうか。初期装備っぽいし、チャットにも慣れてない感じがする。私より歴が浅い人って見たことないけれど、もしそうだとしたら私にも後輩ができることになる。私も先輩たちには散々お世話になって来たし、その恩は後輩に返すべきだろう。
でもなあ。うちのギルドちょっと変だからなあ。こうしてみると私がギルドに入りたいと言った時に師匠が渋っていた理由がよくわかる。まあ何事も出会いだ。もしかしたらこの人だって私みたいに<なごみ家>の一員として楽しくやっていけるかもしれない。
ギルドに人が増えるのはいいことに違いないだろう。そのはずだ。
でもなんだろうなこの感覚。なんだか変な感じ。なんとなく素直に喜べないような。断る理由を探してしまっているような、不安な感覚。
ははあ。これはもしかして、師匠の弟子が私だけじゃなくなるんじゃないかという心配かな。あ~、そうかも。ありそう。
ようはアレだ。いわゆる一つのやきもちというやつだ。
実際はそんなこともないんだけど、周りから見るとやきもち焼きに見えるらしい。高校の時にも友達に言われたことがある。でもあの時は私の下のお兄ちゃんのこと、私の友達がふざけて私の真似して「お兄ちゃん」って呼んだのがいけない。だってお兄ちゃんだよ? 知らない人とか彼氏とかじゃないんだよ?それはもやもやもしようってもんだよ。
……うん、自覚もあるな。成長したというべきか成長してないというべきか。困ったものだ。
ギルドで小姑みたいにならないようにしないとな。まあこの人のアバターは男性だし、ネオデに女の子少ないって言うし大丈夫でしょう。
……っていやいやそうじゃない。後輩が女の子でもちゃんと優しくしないと。だいたいアバターからリアルの性別なんてわかんないわけだから、いや待てよ、そうするとこの人の性別もわからなく
いやいや、そうじゃない。落ち着け私。
…………。ふう。
……………………。
あっ。
「すいません、黙り込んでしまって~。ちょっと考え事をしていました~」
「いえ、大丈夫です」
長いこと無言でリオンさんを放置してしまった。しかしログを確認してもリオンさんもずっと無言だったようでほっとする。もしかしたらリンゴさんが時々やっているみたいに携帯アプリでゲームとかしながらチャットしているのかもしれない。
向こうも返事以外の会話してないわけだし。
だとするとこっちから無意味な会話を持ちかける必要もないかな。このまま師匠を待つことにしよう。しかし毎度遅いなうちの師匠は。
あとリオンさんできればもう少しズレてくれないかな。そこにいるとお客様が声かけずらいんだよなあ。
……おっと、いかんいかん。心は清らかに保たないと。
「ただいまあ」
やっと師匠が帰ってきた。
「おかえりなさい~、師匠お疲れ様です~」
「おい~っす、コヒナさんただいまあ、って失礼、お客さんだったね」
いえ違います
「師匠、この方がギルドに入りたいと」
「えええっ!? ギルドって、 うちのギルドに!?」
何処のギルドの話だと思ったんだ。あ~、でも猫さんのギルドの<動物園>に入りたいから仲介してくれないか、とかならありうるな。むしろ<なごみ家>に入りたいよりよっぽどありうる。
そこから後輩になるかもしれないリオンさんの自己紹介が始まるだろうと思っていたけど、リオンさんのアバターは私の方を向いたまま動かない。あのう、ギルドマスター来ましたよ?
「ええと、こちらリオンさん?」
「そうなんですが……離席中でしょうか」
やっぱり放置しすぎたのがいけなかったのだろうかと心配になったがリオンさんはすぐに動き出した。
「ええと、うちに入りたいんですか?」
「はい」
「ええ、初期装備? ……あれえ、前に何処かでお会いしませんでしたっけ?」
「いえ」
「そう? もしかしてリンゴさん絡みの人?」
「リンゴさん?」
「ああ~、違ったか。いや、それはそれで逆に歓迎なんですけど。でも正直うちのギルドは止めた方がいいと思いますよ」
やっぱりそうますよね。でもなんだリンゴさん絡みって。
「ちょっと変人ぞろいで、しかも今凄くログイン率低いし。人数増えるのは嬉しいんですけど。でもうちみんなほんとに」
「さっきコヒナさんから聞きました」
「あ、そうなの?」
はいそうなんです。変人ばっかりですって言いました。
「でもほんとに何でうち…… 。あっ、そっちか! なるほど、失礼しました!」
師匠は何やら急に納得した様子だ。
「そう言うことなら。じゃあとりあえず仮入隊ってことでいいですかね。合わないと思ったらいつでも抜けて大丈夫ですからね」
師匠の予防線。私も散々張られたやつ。あの時の師匠の気持ちはよくわかる。うちのギルドは凄く変。
<system: ≪リオン≫がギルド≪なごみ家≫に加入しました>
こうして私には後輩が出来た。師匠がOKだというなら私に是非はない。でも一応、一番弟子は私だからね! そこははっきりさせておかないと。
とりあえずリオンさんがギルドの拠点を見たいということでと言うことで師匠の家にご案内することになった。
でもそこまでで、リオンさんはもうログアウトしなくてはいけない時間だとのことだった。まあ師匠帰って来るの遅いからね。
「じゃあ、また明日以降よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね~、リオンさん~」
「はい、よろしくお願いします、コヒナさん」
■□■
その翌日。
早めに帰ってこれた私はるんるん気分でネオデにログインした。
今日は誰がいるかな? 何して遊ぼうかな?
そう言えば昨日は新人さんが入ったんだっけ。今日はいるかな?
インするのは昨日落ちた場所。おやすみなさいと師匠に言って入った、師匠の家にある私の部屋。他のギルドメンバーも立ち入らない、師匠が私に使っていいよと言ってくれた大切な場所。ここに入るのは私だけ。家主の師匠だって私がいないときに入ってきたりはしない。
なのに。
「おかえりなさい、コヒナさん」
私がログインするより前に、私の部屋に、私以外の人がいた。
ぞわり。全身に走る怖気と混乱。あたりまえの安全な日常が、いきなりあやふやなで危険なものに変わっていく恐怖。
なんで、なんで。
なんでこの部屋に私以外の人がいるの。
いたのが昨日加入したリオンさんだったならわかる。ギルドメンバーだし、ここが私の部屋だなんて話はしていない。
他のギルドのメンバーだったならわかる。何か私に用事があってきたのかもしれないし、私以外が入らないというのはみんなが気を使ってくれているだけで、システム上の制限ではないのだから。
でもこれはおかしい。
何でこの人が私の部屋にいるの?
そんなはずはない。この人はギルドメンバーではない。システム上あり得ない。この家には猫さんみたいな例外を除き、ギルドメンバー以外入ることはできない。そのはずなのに。
あなたに話すことは無いと言ったのに。
師匠のことを悪く言うあなたと話したくないと、ちゃんとそう伝えたのに。
「リオンさんに誘われて<なごみ家>に入ることになりましたレナルドです。よろしくお願いします、コヒナさん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます