第125話 不死教団の法王《ハイエロファント リバース》⑤
おうちに帰って来て、持ち帰ったマジックアイテムの選別。この時間が一番楽しい。いや、一番ってこともないか。う~ん。でもやっぱ一番。いや、甲乙つけがたい楽しさ。
ダンジョンボスだけあって戦利品もたくさん。早速持ち帰ってきた剣たちを見比べていく。現コヒナソードより強そうなものは……。
ううむう。私の装備も大分整ってきて今以上と言うとなかなか手に入りにくい。
「お、この盾はいいんじゃない? 炎ガード高いしベースの防御力もかなりだよ」
おお、剣ばっかりみてた。どれどれ。
師匠が言う盾はたしかにお宝レベルの性能だ。ちょっと重いと言えば重いけど能力と差し引きすれば十分に許容範囲だろう。
「おお、これは凄いですね! 貰ってもいいですか?」
「もちろんもちろん」
わーい。おったから~。
これでドラゴンなんかとの戦闘はずいぶん楽になるはずだ。ドラゴン、ドラゴンかあ。レッドドラゴンみたいに炎対策をしていけばいいという相手には確かに有効なんだろうけどなあ。
「師匠、ショウスケさんって同じ装備で全部のボス、ソロで倒したんですよね?」
「そうそう。迷宮ボスだけじゃなくてフィールドにいるヤツもね」
「ほんとにそんなことできるんでしょうか」
そこなのだ。対モンスター戦ではやっぱりショウスケさんが最強。身近にいる最強スタイルと言うのは気になるし、参考にしたくなる。
「いやあ、普通はできないよね。でもショウスケさんがやったのは本当だよ」
「う~ん。私もできますかね」
「そうだねえぶっちゃけていうと~」
ごくり。
「難しいかな」
「がーん」
やっぱりかあ。師匠は基本私に優しいので、師匠が言う難しいは「まず無理」という意味だ。
「コヒナさんは凄くゲーム上手だと思う。先読み得意だし、集中力凄いし。特に攻勢の時の追撃はびっくりするくらい」
おお? 凄く褒められたぞ。流石師匠、弟子の事わかってる。フォローだとしても嬉しい。
「ありがとうございます! でも、じゃあなんで難しいんですか?」
「いやあ、一瞬の集中力とか判断は凄いんだけどさ。長続きしない……よね?」
「が~~~ん」
おおう。流石師匠。弟子のことよくわかってる。
「ショウスケさんのやり方だと、ボス一体倒すのに凄く時間かかるからね。その間集中力切らさないのは難しいと思うよ」
「なるほど~」
ショウスケさんの戦い方はいわば全てに備える戦い方だ。その防御力は正に鉄壁。でも何かを上げれば何かを下げなくてはいけないのがゲームのステータスというものだ。そう言えばパーティーで行動するときはショウスケさんに守ってもらいながら他のメンバーが攻撃するということが多い。今のステータスを比べたら攻撃力だけなら私の方が高いかもしれない。
あくまでステータスだけね?
「それと、周りのインパクトとショウスケさんのマイルド口調でわかりづらいけど、ショウスケさんのやってることってけっこーなレベルの変人だからね? 」
「えっ、そうなんですか?」
「だってロキテイシュバラ倒すのに三時間とかかかるんだよ?」
「三時間! 」
長っ。それは確かに集中力続かない。そうかあ。ショウスケさんもやっぱり「なごみ家」の人だったかあ。
「で、そのロキ何とかというのは何でしたっけ」
「テモジャのことだよ!」
なんだあテモジャかあ。えっ。
「えええ、テモジャに三時間ですか!」
テモジャのいる月光洞では何もしなくてもMPががんがん減っていく。その上MPがゼロになればアバターは狂気に取り付かれてプレイヤーの操作を受け付けなくなってしまう。長引くほど不利なのだ。あそこで三時間戦っていたらMPがいくらあっても足りない。だからいったん離脱して月の光が届かない場所で休みMPを回復させることになる。でもテモジャは回復力も強いから長く休むとせっかく与えたダメージがなかったことになってしまう。
だから、回復量よりちょっとだけ高いダメージを繰り返し与え続けるのだ。うっかりしたらダメージがゼロになっちゃうから最初からやり直し。そんなこんなを三時間。ふえええ、考えただけで気が遠くなる。
「それは確かに無理かもです~」
「でしょ~? 間違いなくすごいんだけどね。ショウスケさんはそれが好きでやってるだけさ。コヒナさんはコヒナさんで、自分の楽しいことをしたらいいよ」
そっか、そりゃそうだ。ショウスケさんはその道のプロだ。それが楽しくてそのためにネオデをやってきたんだ。まあ、途中でもっと大事なものに出会ったりもしたわけだけど。
ううん。私の一番楽しいは何かな。
みんなでボスの討伐に行くのは勿論すごく楽しい。占い屋さんも楽しいし、師匠とお散歩も捨てがたい。ボス討伐と同じくらい楽しい。同じくらい大事だ。どれも全部楽しみたい。欲張りだね私は。お、そういえば。
「師匠、スキル構成変えたんですか?」
「あ~、うん。気が付いた? ちょっとだけ、ね……」
「そりゃ気が付きますよ~」
断じて猫さんから前情報を貰っていたからじゃないです。なんでですか~?って聞きたいけど、我慢我慢。
「じゃあ、お魚焼けなくなっちゃうんですか?」
それなら私が焼いてあげますよ~。なんつってね。
「いや、そこはまだいける。釣りと木工はできなくなっちゃった」
「そうなんですね~」
「木工はテーブルとイスは持ち歩いてるし。釣りはまあ、コヒナさんに釣って貰えばいいかなって」
!?
くっ、不意打ち! 確かに釣りスキル上げてるけど!
そ、そそそそそ
「そうなんですね~。じゃあ釣りは任せてください~。お魚焼くのもやりますよ~」
「ほんと? んじゃ、料理も下げちゃおうかなあ」
「はい! 任せてください!」
これは責任重大だぞ。明日からの二人のご飯は私にかかっている!
「んじゃ、そろそろ寝とくかあ」
「は~い。今日も楽しかったです。ありがとうございました、師匠!」
「うん。俺も楽しかった。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい~」
また遅くまで遊んでしまった。早く寝ないと。
師匠、俺も楽しかった、だって。ふふふ。楽しいこと、やりたい事たくさん。嫌なことを思い出してる暇なんてない。明日は一体何が起きるだろう。
そんなことを考えながらベットに入って目をつむる。おやすみなさい、師匠。
このころの私は師匠のことが大好きだけど、だからといって現状以上は望んでいなかった。多分よくわかってなかったんだと思う。よくわかってなくて、でも楽しくて、ずっと変わらずにこんな日が続いていくんだと思っていた。
リアルには理不尽なことが多くて大変だけれど、おうちに帰ってくればネオデがある。ネオデの中は楽しいことだらけで、楽しいことをしながらマディアの町で待っていれば師匠がやってくる。それが当たり前だと思っていた。
何も望んでいなかった代わりに、何もわかっていなかった。
ネオオデッセイはゲームの世界。そこで起きることは勿論全部フィクション。でもその中で起きる人間関係はどこまでもリアルで、
だから、楽しいことばかりのはずなんてないのに。
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