第110話 魔術師 運命の輪 月 ②
「すいません、麻倉さんはどちらの方ですか」
声をかけて来たのはさっきの二次会の司会の人だった。
「次の余興のクイズの確認をしたくて」
アサクラさん? 誰?
「あ、すいません。俺です」
答えたのは師匠だった。そういえば師匠は麻倉さんなのか。苗字までは覚えてなかった。下の名前は和矢さんだったからすぐ覚えられたんだけど。だってナゴミヤさんって和矢さんの別読みだし。
師匠二次会でも何かやるのかな?
司会の人に連れていかれた師匠はショウスケさんとブンプクさんも交えてお話している。
「ナゴミヤ君よく働くねえ」
「二人の共通の知り合いと言うと限られてるだろうからな」
短い確認の後、師匠は司会の人からマイクを受け取ると新郎新婦の席の横で話し出した。
「皆様ご歓談中の所失礼いたします。こちらにご注目下さい。これより新郎新婦クイズを始めさせて頂きます!」
おお~、ぱちぱちぱち。
師匠の説明によると新郎新婦クイズというものは、新郎新婦自身に二人にまつわるクイズを出すというなかなかに面白恥ずかしい余興のようだ。いいぞ師匠。どんどんやれ。
「では第一問。お二人同時にお答えいただきます。お二人が出会った場所は何処ですか?」
ショウスケさんとブンプクさんは各々手渡されたホワイトボードに答えを書いていく。
「さあ、お二人ともお書き頂けましたね。揃わなかったら大変ですよー。ではご一緒にどうぞ!」
二人が一斉にホワイトボードを裏返すと書かれていたのは何と違う答え。
「おおっと、これはいきなり大波乱の予感!? 大丈夫なのかーーーーっ!?」
絶叫する師匠。くすくすと会場から笑いが漏れる。でもこれは大丈夫。私たちにはわかる。というか絶叫している師匠が一番よくわかっている。
ショウスケさんの書いた答えは『ネオオデッセイの中』。
ブンプクさんの書いた答えは『第二博物館』。
「新郎の章彦さん、こっ、これは大丈夫なんでしょうか?」
わざとらしく焦る師匠に笑いながらショウスケさんが答えた
「大丈夫です。私たちが初めて会った場所はネットゲームの中だったんです。私の回答の『ネオオデッセイ』はゲームの名前で妻の回答の『第二博物館』はその中にある妻の家です」
わ、ショウスケさんそれ言っちゃうんだ。
会場もちょっとざわざわしてるけど、ギルドの皆さんも私同様目を丸くしている。披露宴の挨拶でも師匠は出会いはゲームの中だって言うのは避けてた。別に悪いことじゃないんだけど、やっぱり変に思う人もいるんじゃないかって思ってしまうのだ。
そっかあ。言っちゃうんだ、ショウスケさん。でもそうだよね。ネットゲームでの出会いがおかしいことじゃないなんて、私なんかよりショウスケさんの方がずっとよく知ってるもんね。
「なんだか嬉しいわね」
「……そうだにゃ」
うん。そうですね。なんだか凄くすごく嬉しい。あとショウスケさんさらっと妻って言ってたね。いや、100%正しい呼び方なんだけど。うっへ~い。
「なるほど、そう言うことだったのですね。いやあ、しょっぱなから大変な質問をしてしまったかと。あーびっくりした。では気を取り直して、第二問。これは新郎の章彦さんへの問題です。新婦は新郎のことを普段何と呼んでいるでしょうか!」
「ショウスケ!」
答えたのはブンプクさんだった。
「スト―ップ! 新婦の文音さん、これは新郎への問題ですよ!」
ブンプクさんがきょとんとして、会場に笑いが起きる。
「はい。ショウスケって呼ばれてますね」
ショウスケさんも笑いながら答えた。
「はい。ありがとうございます。本来はここで新婦から照れながらの答えを発表頂くのですが、今文音さんが言っちゃいましたのでね。正解、と言うことに致しますね」
また会場にどっと笑いが起きた。
「では次、新婦の文音さんに問題です! 普段新郎は新婦のことを何と呼んでいますか?」
おお、いいぞ師匠。それが是非聞きたかったんだ。ブンプクさんはショウスケさんの方を見て自分の顔を指さして何か確認していた。多分私が答えていいんだよね? とか聞いてるんだと思う。
「ブンプク!」
ショウスケさんが頷いたのを見てブンプクさんが大きな声で元気に答えた
「ブンプク、ですか?」
「うん」
「ブンプクと言うのはどこから来たのでしょう?」
聞かれたブンプクさんはまたきょとんとしてショウスケさんの方を見た。何を聞かれているかわかってない顔だ。
「僕のショウスケも妻のブンプクも、どちらも僕たちがあったゲームの世界でのアバターの名前です」
「なるほど!出会った時のままお互いを呼び合っているわけですね。素晴らしい!」
師匠が会場に向かって拍手して、会場からもそれに倣うように拍手が起きる。
「ほお。ナゴミーの癖に上手いもんだな」
猫さんが感心したように言った。これは猫さんとしては最上級の褒め言葉じゃないだろうか。きっと心の中の独り言チャットではべた褒めしてるに違いない。
まあ、そうですね。上手だと思う。でもな、あんまり上手でも心配だよ。師匠危なっかしいからな。また誰かに声かけられるかもしれない。
「カズヤこういうの好きだからな。昔からよく頼まれてたよ」
リアルの師匠を知っているヴァンクさんが懐かしそうに言った。どんなことがあったんだろう。ヴァンクさんからも師匠の事もっと教えて欲しいな。
新郎新婦クイズはこの後新婦の好きな食べ物や新郎の好きなスポーツは何ですか?といった当たり障りのない質問から段々と嬉しはずかし系の質問へと変わってくる。いいぞ師匠どんどんやれ。うっへ~い。
ちなみに新郎の好きな食べ物を聞かれたブンプクさんはショウスケさんに何が好きなの?と聞いて師匠に怒られていた。
「では、お二人がおつきあいを始めたきっかけは! さあ、これは合わないと大変ですよ!」
師匠は煽るけど、さっき言っちゃってるからなあ。ずばりネオデだよね。だけどお二人の書いた答えは私の予想とは違っていた。
『占い』
『コヒナさんの占い』
「ほう、占いがきっかけなのですね。これはどういう?」
「これもゲームの中でですね。友達に占いが得意な人がいまして。その人に恋愛運を見て貰って、それがきっかけで付き合い始めたんです」
マイクを向けられたショウスケさんが会場にいる人たちに説明する。
うわわわわ。
師匠の挨拶の中にも登場させてもらったけど、主役のお二人から会場の皆様にご紹介というのはひときわ照れますな。披露宴の時にもコヒナさんのお陰とか直接言って頂けたけど、それとはまた別のこそばゆさ。
「コヒナの占いは当たるのも確かだが、なんつうかスッキリするんだよな。もう一人の自分から思ってたこと教えられたみたいな」
うおう。
ヴァンクさんが嬉しいことを言ってくれた。そ、そうですか? それほどでも、えー、でもそうなんですか? いやー、まいっちゃうな。
「ソレな。実はそう思ってたんだよみたいなのを言葉にしてもらった感じ。納得させられるよな」
猫さんも同意してくれた。いやー、そうなんですか? まいっちゃうなこれ。顔緩む緩む。
「そうね。ヴァンクにしてはいいことを言うじゃない」
「一言多いんだよお前は」
「ふむ。確かにヴァンクにしてはいいことを言うが……。僕としてはずっと誰かに言って欲しかったことを言って貰ったという感じかな。まあそれに気づかされたという意味ではヴァンクの言う通りか」
「ソレもソレな!」
リンゴさんも嬉しいことを言ってくれた。ええ~そうですか? まったくもう、皆さん褒めすぎですよ。
結構前だけどギルドイベントで皆さんを占わせてもらったことがあるのだ。あの時も楽しかったな。
ん? あれ?
「リンゴさんを見たことありましたっけ?」
確かギルドイベントの時はリンゴさんは都合がつかなくて不参加だったような気が。
「ん? ああ、言ってなかったな。クリスマスにやった占い屋に最初に来たアプリコットという可愛い女性客を覚えているか? あれは僕だ」
えっ。えっ?
リンゴさんはわりと衝撃的なことをさらりと言ってのけた。
最初のお客さんのことは良く覚えている。正直言うと名前は憶えてなかったけど。土壇場で怖気づいて占い屋さんやっぱりやめると師匠に訴えていた私だったが、お客さんが向こうから声をかけてくれて、わたわたしているのを辛抱強く待ってくれて。お陰で占い屋さんが出来るようになったのだ。
「すいません、全然気が付きませんでした。あの時はありがとうございました」
「いや、ありがとうはこちらのセリフだ。ヴァンクじゃないがとてもスッキリしたさ」
リンゴさんはそう言いながらちょっと照れたように目をそらした。
「では次の質問。一緒にお答えください。ズバリ、初めてキスしたのはいつですか?」
新郎新婦クイズはさらに核心へと迫っていく。お二人の出した答えは。
『付き合った日』
『占いの後』
うひゃあ。あの後? あの後ってことだよね? うっへ~~い!
「なんつ~か。もぞもぞするにゃ」
みんなの嬉しいような気まずい様な照れたような気持を猫さんが代弁した。
リンゴさんなんか真っ赤なリンゴさんになっている。見た目クール系のイケメンなのに意外とこういう話弱いのかな。ちょっとかわいい。
「では占いがあって、お付き合いが始まって、その日に早速キスと言うわけですね?」
わざわざ確認を取る師匠の言葉に、会場からの笑いや優しい野次がお二人を囃し立てる。私の隣でもヴァンクさんがぴゅうと大きな音で指笛を吹いた。
「そうです」
マイクを向けられたショウスケさんが照れながらそう答えた。囃し立てる声が大きくなる。続けて新婦側からも確認を取るべく師匠はブンプクさんにマイクを向ける。
「文音さん、それでお間違いないですか?」
「うん、コヒナさんの占い。あの人―!」
ブンプクさんは嬉しそうににっこり笑って私をしっかり指さして、会場の視線が私に集まった。
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