第107話 皇帝と女帝と太陽と ③

「ええっ!? ヴァンクさんと師匠ってリアルのお友達だったんですか?」


「そうそう、大学の時のね。なんかの時にお互いネオデやってたってわかって意気投合し

 たんだよね」


 おお、ネオデが作った縁がここにも。


 披露宴の間、主役お二人の元にはひっきりなしにお客さんが訪れている。チャンスを狙いながら私たちは雑談を楽しんだ。



「大学生の時のお二人ってどんな感じだったんですか?」


「ううん、ヴァンクはねえ、薄着だった」


「うえっ、あんたリアルでもそうなの?」



 隣で別の話をしていたハクイさんがそれを聞きとがめて嫌そうな声を上げた。



「違えよ。カズヤ、お前誤解招くようなこと言うなよ」



 リアルの知り合いらしく、ヴァンクさんは師匠をナゴミヤとカズヤの二つの名前で呼ぶ。師匠の本名は麻倉 和矢あさくら かずやと言うそうだ。席次表を見るとわかる。


 師匠がヴァンクさんのことをヴァンクって呼ぶのは多分私たちに合わせてるんだろう。ヴァンクさんもそうしようとしてるけど、時々混じっちゃうみたいだ。



「ええっ、嘘じゃないでしょ。あの合コンの時もさあ」


「だからあれは向こうが」



 おお、二人で合コンとか行ってたんだ。そしてどうやらヴァンクさんがリアルでも脱いでたのは本当だな。



「言っとくが合コンの時の話なら、ナゴミヤの方がよっぽどヤバかったんだからな。コイツ合コンでいきなり手品はじめやがって」


「ええっ!? だって盛り上がってたじゃん!」


「盛り上がってねえよ! お前のせいで俺達が全員面白集団みたいになったんだろが!」



 ぶはははは。面白集団て。なんだかギルド<なごみ家>みたいだ。



「師匠、手品するんですか?」


「うん。昔ね。最近練習してないからちょっと自信ない」


「上手いのは上手いんだけどよ。合コンでやるか普通? トランプと、あとなんか服の中に花とか仕込んでてよ……。ってお前、まさか今日なんか仕込んで来てないだろな?」


「いや、さすがに。一応トランプは持ってきたけど」


「あんのかよ!」


「いや、なんかの時の為にね。やんないよ? あくまで念の為ね?」


「なんかってなんだよ!」



 ぶははは。


 なんかの時の為にトランプって。流石師匠。師匠過ぎる。師匠がいう「なんかの時」はないとは思うけど、手品自体はちょっと見てみたい気もする。あとでお願いしてみようかな。


 隣ではリンゴさんがお友達を食事に連れて行くという話を猫さんにしているのだけど、聞きかじった所どうやらそのお友達というのは女の人らしく、こっちのお話にも興味がある。



「だからとりあえず河豚から連れてってみようと思ってるんだ」


「とりあえずってゴリン、フグ以外は何食わせるつもりだ?」


「…………」


「おい、なんとか言え」


「なあ、一般的な意見を聞かせて欲しいんだが。ちゃんと処理してても僕が自分で調理したものってのはやっぱり引くよな?」


「リンゴ、あんたそれマジで止めなさいよ」



 会話を聞いていたハクイさんがリンゴさんの不穏な発言を諫めている。つっこみ担当のハクイさんはあちこち大変だね。このお話の何が不穏なのかは仲間内でしかわからないことだけど、非常に不穏な内容なのだ。あと一応解説しておくとゴリンは猫さん流のリンゴさんの呼び方である。



「おい、二人空いたぞ。チャンスだ」


「ナイスだバンバン。他が来ないうちに急ぐぞ」



 ヴァンクさんの声でみんなあわてて新郎新婦の元に向かうことになった。一応解説しておくとバンバンは猫さん流のヴァンクさんの呼び方だ。



「みんな~、いらっしゃい~」


「皆さん、今日はありがとうございます」



 ブンプクさんとショウスケさんが歓迎してくれる。



「なんだかみんな楽しそうでズルい。お客さん私知らない人ばっかり。私もそっちに行きたい~」


「馬鹿なこと言ってないでしっかり新婦やりなさい」


「おお、ハクイちゃんがハクイちゃんだ」


「アンタも間違いなくブンプクよ」



 ハクイさんの言葉にみんな思わず笑ってしまう。



「じゃあ当てるね、まずはナゴミヤ君が~」



 入場の時に続いてのブンプクさんの名前宛ゲーム。むむむ、と悩んだ末にブンプクさんが選んだのは



「あなた!」


「へっ? なんでオレ?」



 なんと猫さんだった。


 へっ、なんで猫さんが師匠?


 なんで師匠が女の人だと思ったんだろう。私が迷わされたのは師匠が変なこと言いだしたからだ。師匠のこと女の人だって思う人はいないと思うんだけど。



「あれえ、あなたは猫のナナシさん?」


「お、おう。それで合ってるけど」



 猫さん的にも相当びっくりだったみたいで目を白黒させている。



「ううん、ナナシさんの服可愛いから、ナゴミヤ君だと思ったの。そっか~」



 おお、斬新な発想。


 招待状だしたり席次表作ったりしてるんだからブンプクさんは師匠の名前とか性別とか知ってるはずだけど。そのあたりはブンプクさん的には参考資料としての意味は薄いのかもしれない。



「褒められたんだろうけどナゴミーだと思われたんじゃなんか素直に喜んでいいかわからん」



 師匠が何か返しかけたけどすぐに口をつぐんだ。名前宛ゲームのネタバレに配慮したんだと思う。偉い。



「ううん、あと男の子ばっかりだね。誰がナゴミヤ君だろう~」



 またむむむ、と唸って



「あなた!」



 今度は正解を言い当てた。



「当たり。おめでとうブンプクさん、ショウスケさん」


「そっか~。ナゴミヤ君女の子用の服の方が凝ったの作るから、ずっと女の子だと思ってた~」



 なるほど。たしかに師匠はドレスとかヴァルキリーコヒナの服凄く上手なのに、自分の服いまいちだもんな。ちゃんとローブ着たらそれなりなんだけど。


 アバターもそうだけど、リアルの今日の服もスーツ姿ではあるけどちょっとヨレてる。師匠、それもしかして普段お仕事で来てるスーツじゃないですか。もう少し何とかなりませんか。しっかりフォーマルのヴァンクさんやリンゴさんを見習ってほしい。



「あとはリンゴちゃんとヴァンク君だね。うーん」



 ブンプクさんはまた難しい顔をして考えた後、ちゃんと正解を出して得意げな顔をしていた。でも今のあてずっぽうじゃなかろうか。確率二分の一だしね。


 ヴァンクさんとリンゴさんの二択なら私だって間違えない。ヴァンクさんかなりヴァンクさんっぽいし、これ間違えるのは相当裏を読むタイプの人だろう。でもちがってもああそうなんだと思うだけなんだよね。アバターからのリアル宛ゲームなんて、結局あてずっぽうしかないのかもしれない。



「ブンプクさん、体調はどうですか?」



 今日は見た目はとても元気そうだけど、一時期の「う~~ん気持ち悪い~~」を知っているだけにちょっと心配ではある。



「うん。私もこの子も元気だよ。最近いっぱい動くんだ。みんな来たらもっと元気になったみたい。いまも動いてるよ」



 ブンプクさんがおなかに手を当てながらそう言った。



「こひなちゃん、触ってみる?」


「えっ、いいんですか?」


「うん。どうぞー」



 言われておっかなびっくりながらお腹を触らせてもらった。


 専用に作られたドレスの上からは見た目ではわからないけど、触ってみると確かにブンプクさんのお腹は少し膨らんでいて。



「わ、うごいた!」


「あはは。コヒナちゃんだってわかったのかも」



 おおー、なんだか感動だ。赤ちゃんさん、コヒナですよー。



「そうだね。今日を迎えられたのもコヒナさんのお陰だ。コヒナさん、ありがとうございます」


「そうだねー。ありがとうねコヒナちゃん」


「ええっ!?」



 突然ショウスケさんとブンプクさんにお礼を言われてびっくりする。師匠みたいな驚き方しちゃった。私のお陰って、あの占いの事?



「いえいえいえいえいえ、そんなそんなそんな」



 恐縮してしまう。占いなんてただの占いなのだ。お陰なんて話のものじゃない。占いが占いである以上、占いなんかしなくてもお二人は結ばれた。


 もしかしたら少し、ほんのちょっとだけ、後押しできたのかもしれない。その程度。


 重々わかってはいるけれど、でも、結ばれたお二人がそんな風に言ってくれるのは、やっぱりすごく嬉しく思ってしまう。



「え~、皆さまご歓談の最中ではございますが、ここでご列席の方々よりお祝いの言葉を頂きたく思います。どうぞお席にお戻りくださいませ」



 司会の人からアナウンスが入った。



「おっと、残念。あんまり話せなかったね」



 師匠が言った。うん。もう少しお話してたかったなあ。



「えー、もうおしまい? また後で来てよー」


「はいはい。時間があったらね」



 ブンプクさんももう少しお話してたかっただろうけど、この先の進行を考えると披露宴中は難しいかもしれない。二次会に期待だな。



「マスター、ご迷惑かけますがよろしくお願いします」



 戻り掛けにショウスケさんが師匠に何かお願いをしているのが見えた。



「迷惑なんてとんでもない! 任して!」



 師匠はどんと胸を叩いてそれが変なとこに入ったらしく一人でむせていた。


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