第106話 皇帝と女帝と太陽と ②

 お式が終わって次は披露宴。かなり大きな会場で偉そうな人たちも多い。でも私たちの卓はギルドなごみ家御一行様で締められているので安心だ。


 友人席と言うことで少し離れているものの、高砂がはっきり見えるこれまた非常に良い席である。


 あちこちの席で話題に上っているのはさっきのお式の事。あの太陽はやっぱりみんな演出だと思ったらしい。すごいね。確かにいいものを見た。


 私たちのテーブルでもさっきはその話題で盛り上がっていたのだけど、今されているのは別の話題。式の前の師匠の私を男の人だと思っていた疑惑についてである。



「いやだから男だと思っていたわけじゃなくて、本当に女の子だったんだ、っていう意味でね」



 私の隣の席で師匠が言い訳をする。それでフォローしてるつもりなんだろうか。



「どう違うんですか!」



 師匠の反対側の隣で話を聞いていた猫さんがケラケラと笑った。



「うける。ナゴミヤ過ぎるだろ」


「いやナゴミヤ過ぎるって何!?」



 師匠は反論するけど猫さんの言う通りだと思う。いくらなんでも師匠過ぎる。



「着いた時間もぎりぎりだったし。遅刻するんじゃないかって心配しちゃいましたよ」


「いやその、おばあさんが切符買えなくて困っててさ」


「もうちっとマシな言い訳すれや」



 これも猫さんの言う通りだ。中学生の遅刻じゃあるまいし、もう少し説得力のある言い訳をして欲しい。


 あっ、そういえばあの件! ちゃんと猫さんに報告しておかないと。



「猫さん聞いてくださいよ。師匠は猫さんの事も『普通に男の人じゃない?』って言ってたんですよ」


「何ぃ? ほんとかこっひー」


「わーっ、ごめん、ごめんって!」


「てめえ、オレはメスの猫だとあれほど」


「そっち!」



 あっ、師匠が人って言ったかどうか自信ないや。まあいいか、黙っておこう。


 そこでばん、と照明が落ちた。小さく流されていた音楽も止まり、会場が鎮まる。もっと師匠を問い詰めたいところだったがとりあえずはここまでだ。



「お待たせいたしました! 皆様、後方の入り口にご注目下さい。新郎新婦の入場です!」



 披露宴会場に司会の人の声が響く。私たちはお式で見られたけど、ここから参加の人たちもいっぱいいる。その人たちはまだ新郎新婦を目にしていないのだ。ふふん。なんか優越感。


 司会の人の言葉に、スポットライトと列席者たちの視線が入り口に集まる。何処かで聞いたことのある明るい外国の曲が流れて、新郎新婦が入場してきた。



 一つ一つの卓をゆっくり回りながら。一人一人にショウスケさんがありがとうと声をかけて、ブンプクさんが微笑んで。


 ヒールを履いてもまだ少し背の高いショウスケさんの腕にブンプクさんは体を預けている。


 主役二人はこちらの席にも回ってきた。やっと直接お祝いが言える。



「ショウスケさん、ブンプクさん、おめでとうございますー!」



 一番先に私がいうと、みんな口々にお祝いの言葉を送った。やっぱりみんな早く言いたかったんだね。



「皆さん、今日はお越しいただきありがとうございます」


「わ~、えっと、誰が誰? あ、言っちゃだめだよ。えーっとね」



 席順でわかるはずなんだけど、それとは別なんだろう。ブンプクさんは難しそうな顔をして一人一人顔を見ていく。なんかブンプクさんってイメージ通りだな。ぽわぽわなしゃべり方だ。


 全員を見渡した後、ブンプクさんは私に白いレースの手袋に包まれた指を向けて言った。



「コヒナちゃん~!」


「正解です! コヒナです~!」


「やっぱり。式の時からコヒナちゃんはわかったんだ~」



 おお、やっぱり気づいててくれたんだ。このドレスにしてよかったな。



「ブンプクさんもイメージ通りです! すっごく綺麗です!」


「うふふ。ありがと~。えっと、それから~」



 みんなそれぞれ自分が誰なのか言おうとするけど、ブンプクさんがそれを制した。



「駄目―。当てさせて~」



 そういって難しい顔でみんなを見比べる。



「ほら、ブンプク。ここだけ長いしちゃまずいでしょ」


「ああわかった! あなたハクイちゃんでしょ~!」


「正解よ」


「やった。それからね~」


「ほらブンプク、司会の人困ってるわよ。あとでゆっくりお話ししましょ」



 私たちだけで主役二人を独占するわけにはいかない。ハクイさんに促されるけど、ブンプクさんは尚も名前宛ゲームを続けたいようだった。



「え~、じゃあみんな絶対あとで来てね~。答え言ったら駄目だよ~」


「はいはい」



 ブンプクさんはしぶしぶと言った様子で次の席に向かっていく。ブンプクさんが「ショウスケも答え言ったら駄目だよ」と言っているのが小さく聞こえた。



「なんつうか、ありゃあブンプクだなあ」


「うん、間違いなくブンプクだね」



 猫さんの言葉に隣のリンゴさんが深く同意した。



「なあ、ブンプクのやつ、ショウスケのことショウスケって呼んでなかったか?」


「あっ! 私も聞こえました!」



 ヴァンクさんが言う通り、ブンプクさんはショウスケさんのことをショウスケと呼んだ。ショウスケさんと言うのはアバターの名前だ。


 本名は佑川 章彦すけがわ あきひこさんと言う。名前の章と苗字の佑をくっつけてショウスケさん。中学校の時のあだ名らしい。私と一緒だ。ブンプクさん、ショウスケさんのことショウスケって呼んでるんだなあ。



「ショウスケ君はブンプクのことなんて呼んでるのかしらね」


「それな」



 ハクイさんとヴァンクさんが言う。


 そう、それそれ!


 気になるのはそこだ。是非後で聞いて見なくては。


 ブンプクさんの本名は服部 文音はっとり あやねさん。骨董屋さんだからブンプクさんなのかと思っていたけど、名前の由来はショウスケさんと同じだそうだ。あだ名ではなく自分で考えたお名前みたいだけど。


 お二人の名前は前もってしっかり憶えてきている。ショウスケさんとブンプクさんの結婚式に来ましたって言ったら受付の人を困らせちゃうからね。

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