第79話 最古竜セルペンス 2


「セルペンスには姿隠しの魔法は一切効かない。コヒナさんのステータスだと、岩場抜けた時にセルペンスがこっちを向いてたらそれでおしまい。絶対に死ぬよ。いいかい?」


「なんだかそれ、隠しボスの前で警告してくれるNPCみたいですね」


「セルペンスには姿隠しの魔法は効かぬ。確実に死ぬぞ。それでも行くのか?」



 師匠はわざわざNPCっぽく言い直してきた。多分かっこいいセリフが好きなんだな。


 ネオデだと死んでしまった場合は幽霊になって、自分の死体はそこに置きっぱなしになる。この時所持金の一部とランダムでいくつかのアイテムが死体に残ってしまうのだ。


 プレイヤーなりNPCなりに助けて貰って生き返ったあとで戻ってくればアイテムは回収できるけれど、死体は一定時間で無くなってしまうので危険な場所で死んでしまえば大事なアイテムをロストしてしまう可能性もある。


 例えばヴァルキリーコヒナの鎧とかを無くしてしまうこともあるわけで、死亡のリスクはかなり高いゲームだと言えるだろう。



「やれやれ、相変わらずマスターは過保護だね」



 リンゴさんがふう、と肩をすくめた。あ、やっぱり師匠って過保護なんだ。



「ショウスケ君が来た頃を思い出すわね。コヒナちゃん、アイテムのロストは心配しなくていいわ。私がいるんだから」



 流石は<辻ヒーラー>あるいは<白衣の天使>ことハクイさん。何とも頼もしいお言葉だ。



「そうだぜ。安心しろ。俺も一緒に死んでやるから」


「アンタは。それどうやって安心しろって言うのよ」


「心構えだよ、心構え。ネオデなんか死んでなんぼだろ」



 ヴァンクさんは冗談めかして言うけれど、おかげでお願いするのも気楽になる。



「じゃあ、やっぱり見てみたいです!」



 そう言うと師匠も納得したようだった。



「そうか。これも冒険者の性よな。ならばもう止めはせぬ。行くがよい! 無事を祈っておるぞ」


「はい! 行ってきます!」


「いや祈っておるぞじゃなくてね。マスターも来るんだよ」



 私はちゃんと師匠に乗っかってあげたのにリンゴさんからは冷たいつっこみが入った。



 岩場から出た時、セルペンスが向こうを向いてたらこっそり見てこっそり帰ることができるけど、もしこっちを向いてたら即死。


 とはいえ私は幸運にはいささか自信がある。なんて言ったって町内会の福引五回でお米二十キロを二つ当てたことあるからね。


 岩に囲まれた細い道を抜けると、そこには冒険者ならだれもが夢見るような光景が広がっていた。


 溶岩の川が流れる大空洞を埋め尽くすほどの、目もくらむようなお宝。宝石や金細工、宝剣、甲冑。そして金貨の山。


 文字通りの黄金の山だ。流石はドラゴンの中のドラゴン。ため込んでいる。


 しかし肝心のセルペンスが見当たらない。お留守だったかしら? 会えなかったのは残念だけど、それなら冒険者のたしなみとしてこっそり何かいただいて……



「コヒナさん、撤退! 全員撤退! 撤退―――――!!」



 おや、師匠が騒いでいる。セルペンスが戻ってきたのかな? 金貨は諦めるか。でもせっかくなので一目……。


 そう思った直後、うずたかく積み上げられた金貨の山が動いた。



 のそり。



 首を上げた黄金の山と、目が合う。



 やれやれ。我が寝床にまた虫けらが入り込んだか。



 山は私をうっとうしそうに見ると、大きく口を開けた。


 わあ山じゃなかった。大きすぎてモンスターだと認識できなかったんだ。初めからセルペンスは目の前にいた。


 金貨のような鱗が竜の動きに合わせて、溶岩の明かりを受けててらてらと輝く。



 <最古竜セルペンス>は、最強モンスターに相応しい黄金竜ゴールドドラゴン



 大きく大きく開かれたゴールドドラゴンの口から炎が吐き出されるのをただ見つめる。


 動くこともできないまま感覚だけはゆっくりと流れて―



 私は消し炭になった。



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