第73話 ドラゴンスレイヤーの戴冠 2
ショウスケさんの恋愛運。
占いの大筋の解釈に間違いがないことを確認すると、私は結果の詳細を伝える。
「では結果です。一枚目ここは過去の出来事や、占いの結果の原因等を示しています。出ているカードは≪
おお、本格的~~とブンプクさんが驚いている。
ふっふっふ~、そうでしょう。私、本格的なんですよ。
「このカードは「守りの騎士」を示すカードです」
「うお、なんかそれショウスケっぽいぞ」
そうそう、ヴァンクさんの言う通り、私もそれ思いました。
プレートメイルでがっちり身を固め、最強の竜ナントカを含む全ての敵に対応できるというショウスケさんのプレイスタイルは、守りの騎士である≪
「堅実さを重んじるカードです。恋愛だとちょっと奥手かもしれません」
「ほう」
「wwwww」
「これは当たってそうだね」
「あはは~~」
あちこちから肯定の声が上がる。ショウスケさん自身は「そんなこともないんだけど」と不服そうだ。奥手というのはちょっと言い方を間違ったかもしれない。奥手なのではなく奥手に見えるだけだ。
「二枚目のカードはワンドのエース、逆位置です。ワンドのエースは情熱を示すカードです。逆位置では情熱がない事を意味します。これはお相手の方を指しているのではないかと。つまり、お相手の方は恋愛に全然興味を示さないか、あるいはすごく鈍い方です」
「……。当たりです」
今度はショウスケさんもはっきりと認めた。またわらわらと騒がしくなる。
「おいおい当たってんのかよ」
「ヴァンク、ちょっと静かにして」
などと言うやり取りがヴァンクさんとハクイさんの間で交わされている。
「三枚目、ここには占いの結果やアドバイスが来ます。出ているのは「皇帝」のカードです。タロットカードの中で最も強く「男性」を意味するカードです。性別ではなく、男の人の性質という意味の「男性」ですね。積極性や決断力を意味するカードです」
「……つまり、相手にされてないぞ、しっかりしろ、みたいな意味でしょうか」
当のショウスケさんからはネガティブな発想が出てくる。それはショウスケさんが常々感じていることなんだろう。でもちょっと違うと思う。相手にされていない場合に皇帝なんか出てこない。だって皇帝だよ。男の中の男だよ。
「ショウスケさんが相手にされてないというより、自分がショウスケさんの恋愛対象になるとは思っていないだと思います!」
「……その二つは同じ、じゃないんだね」
「はい。お相手の方はなかなかに難しい方。堅実性ではその方の気持ちを恋愛に移行することは難しいでしょう。でも、三枚目に皇帝が出ているということは大いに脈ありです。その方、実は引っ張られたいタイプかもしれません」
「そうなのかな。もう少し強引に行った方がいい、ってこと?」
「そうかも!」
皇帝の暗示。鈍い相手に対しては守りの騎士のままでいてはいけない。積極的で時に強引な皇帝であれ、と言う解釈は正しいと思う。
「ほんとかな。でも当たってたしなあ。なんか乗せられた気分だけど。でもお陰でちょっと勇気出たかも」
お、ショウスケさんもその気になったようだ。
「頑張ってみます。ありがとうコヒナさん」
「はい! ファイトです!」
うふふふ~。これ切っ掛けにショウスケさんの恋が実ったりしたら嬉しいなあ。
「ショウスケ、上手くいったら教えろよ」
「私にも教えてください!」
ヴァンクさんに私も乗っかっておく。
「うんまあ、うまくいったらね」
「きっとうまく行きます! 良い結果ですよこれ! 最後皇帝ですからね。おみくじで行ったら大吉くらい!」
「大吉かあ。それは頑張らないとな」
うんうん。吉報お待ちしておりますよ。
「いや~、いいね~~。若いもんはいいね~~。ショウスケ君に彼女か~~。これからは気軽に遊びに行けなくなるね~~」
ブンプクさんは何だかとても楽しそうでテンションが高い。
「でもさ、相手の子ってそんな難しい感じなの? ショウスケ君みたいな男の子に告白とかされちゃったら、断られる子いなくない~~?」
「男の子……」
言われたショウスケさんは不満な様子。
皇帝のカードが出てるのに「男の子」はないよなあと私も思う。相手にされてないんじゃないかって悩んでたショウスケさんにそんなこと言っちゃいけないですよ。
「ショウスケさん、ショウスケさん、大丈夫です。最後の皇帝は男らしさを象徴するカードです。皇帝ですからね。もうナンバーワンです。一番いい男ですよ!」
「おお、ショウスケはいい男だぞ。どら紹介しろ。俺がその子に一言言ってやる」
「あんたが出たら上手く行くものもぶち壊れるでしょ。でもそうね。ここに連れてこれるならショウスケのいいとこその子に色々教えてあげられるんだけどね。ちょっと会ってみたいし」
ヴァンクさんとハクイさんの既婚組からもお墨付きだ。人望あるなあショウスケさん。
「みなさん、ありがとう。確かにすごく鈍い人なんだ。でもがんばってみるよ」
そうです、その意気ですよ、ショウスケさん!
「うんうん、ショウスケ君なら行ける。絶対行ける。お姉さんも保証する。行っちゃえ行っちゃえ~~」
ひゅうひゅう、とブンプクさんがテンション高くけしかける。この人は何だか面白がってるだけの気もするな。
「お姉さんって言っても二歳しか違わないでしょう。それに保証するって……。ブンプク。自分が何言ってるのかわかってるのかな」
「わかってるわかってる。コヒナちゃんの言う通りだよ~~。ショウスケ君少し大人しく見えるとこあるから、ちょっと強引に来られたらその子もギャップでクラっとくるって~~」
うっへ~い~~、と尚もテンションの高いブンプクさんだったんだけど。
「…………そうかい? それなら安心だよ、ブンプク」
……あ。
ぞくっ。
寒気みたいな緊張感。厳かな雰囲気。
画面越しに世界の空気が変わったのがわかる。
そうか、そうだったんだ。
流石は堅実なる≪
もしかしたら恋愛相談も作戦の一部だったのかな? 流石にそれはないか。でも鈍い人へのアピールの一つになるかもくらいは考えてたんじゃないかな。
―鈍い相手に対しては守りの騎士のままでいてはいけない。時に強引な皇帝であれ―
三枚のカードをアドバイスだという私の解釈は間違っていたわけではない。
でも正しい解釈はきっとこういう物語。
―守りの騎士は愛すべき人の言葉を受け、その人を手に入れるべく皇帝となる―
貨幣の騎士は堅実にして迅速。奥手に見えるのは待っているから。いざ機が訪れたなら決してそれを逃がしたりしない。
ブンプクさんは自分で言ったのだ。絶対行ける。保証する。断れる人なんていないって。
ブンプクさんの不用意な言葉が場を聖堂に変えた。
そこで執り行われるのは、≪
これより先、騎士は皇帝となる。
皇帝は時の最高権力者。その言は絶対。何人たりとも断ること能わず。
あ~あ、やっちゃいましたね、ブンプクさん。アウトです。もう逃げられないですよ。だって皇帝陛下ですからね。
さっきまであんなに賑やかだったのに、誰も茶化さない。それどころか誰も口を開かない。この場が聖堂になったことにみんな気が付いたんだろう。
師匠なんか占いの間ひとっこともしゃべんなかったからね。寝落ちじゃなかったんだ。きっと初めから知ってたんだな。教えてくれればいいのに。
まだ気が付いてないのは一人だけ。
その人は「ワンドの逆位置」のカードが示す人。
人の恋愛は面白がるくせに、自分の恋愛に全然興味がなくて、自分に向けられる感情にすごく鈍い人。ショウスケさんが思いを寄せる、とても手ごわい「お相手の方」。
誕生したばかりの皇帝は、その性質である「積極性と決断」を果たすべく、まっすぐ一人だけを見て言葉を紡ぐ。鈍いその人に否応なく気づかせ、自分のものにするために。
「ブンプク。貴方のことが好きです。どうか僕と付き合って下さい」
黒馬の皇帝の言葉にしばらく遅れて。
「………… へっ?」
騎士の恋物語を遠くから眺めているつもりだった骨董屋の娘は、とても間の抜けた声を上げた。
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