第72話 ドラゴンスレイヤーの戴冠 1

「占い? コヒナちゃんが占うの?」



 占いができます、と言った私の言葉に白衣の天使のハクイさんがのっかって来てくれた。



「占いってどうやってみるの?誕生日とか?」


「タロットです!」



 毒頭巾ちゃんことリンゴさんの質問に答えてみたはいいけど。


 ん?


 そういえば目の前に相手いないのにタロットってやっていいのかな。試したことないぞ。


 ううん、でもアバターって自分の分身だからな。きっと大丈夫でしょう。



「タロットかあ。何が見れるのかな?」



 聞いてくれたのはドラゴンスレイヤーで騎士のショウスケさんだ。



「なんでも! 恋愛運や相性なども見れますよ!」



 どうですか、ヴァンクさんとハクイさん。お二人の相性、気になりませんか!



「ふうん。……じゃあ、みてもらおうかな」



 意外にもそう言ってくれたのはメンバーの中で一番、というか唯一普通なショウスケさんだった。もしかしたら気を使ってくれたのかもしれない。なんかすいません。



「はい! 何を見ますか!」


「うん、その、折角だから恋愛運で」


「おっ」


「ええっ!?」



 筋肉パンツのヴァンクさんと骨董屋さんのブンプクさんが驚きの声を上げる。



「うひゃあ。ショウスケ君、恋愛とか興味ないと思ってた~~!」



 恋愛運と言うのは私としてもちょっと意外だ。無難に全体運で、とか言われるかと思っていたのに。


 この場で聞いてくれると言うのは、恋愛に関して大きな悩みがあるのかもしれない。そういうことならこちらもやる気ばりばりだ。



「なんだ~~、お姉さんにも相談してよ~~」


「そうだぞ。もっと早く言えよ。よし任せろ。俺が何とかしてやんよ」



 待って下さいブンプクさん、ヴァンクさん。それでは私の仕事が無くなってしまいます。ここは私に任せて戴いてですね。



「あんたらに恋愛相談してどーすんのよ」



 いやハクイさん、私はそこまで言ってないですからね。



「ブンプクはともかく。ヴァンクは既婚者だからね。恋愛相談なら案外頼りになるんじゃない?」


「ええっ~~!? 私の恋愛ランキング、ヴァンク君以下~~!?」



 リンゴさんの言葉にブンプクさんが嘆く。



「ブンプク、あんた恋愛とか興味ないでしょ」


「ある! あるよ!! 人の恋愛には~~!」



 ハクイさんに対して相談役としての立場を主張するブンプクさんだけど、ううん、それはただの野次馬かな。


 いや、そんなことより。



「あの、ヴァンクさんって結婚してるんですか?」



 思わず聞いてしまった。私の聞き間違えでなければ、リンゴさんは確かに言った。ヴァンクさんは既婚者だと。


 既婚者。だって、ヴァンクさんだよ? 既婚者!?


 奥様、奥様、旦那さんがパンツ一丁ですよ!止めなくていいんですか!




「そんな驚くなよ。ショック受けるだろ」



 あんまりショックでもなさそうなヴァンクさん。いえ、そうではなくて。いや、そうでないこともないんだけど。本当に?



「信じられないだろうけど、本当よ」



 ハクイさんも肯定する。



「お前ほど信じられなくはねえよ」


「服着てから言いなさいよ!」



 え、えええ。つまりハクイさんも結婚してるってこと?


 そうか、そうなんだ。ハクイさんとヴァンクさんはただならぬ関係なのかと思ってた。


 おかしいなあ。勘は鋭い方なんだけどなー。あっれぇええ~?


 む、なんか今の師匠っぽかったな。毒されないように気を付けないと。


 そもそもハクイさんとヴァンクさんの件も師匠が誤解を招くような言い方をしたのが良くない。全くもうしょうがないな師匠は。


 そう言えばしょうがない人、しばらくしゃべってないな。寝てるのかな。まったくしょうがないなあ。



「占いの準備してきます!」



 ギルドの方々にそう宣言してパソコンを離れる。


 占いに使うタロットカードとマットは大事に本棚にしまってあった。実家から持ってきてはいたけれどこの部屋に引っ越してきてから使うのは初めてだ。


 占いに使うマットはビロード製の大きなもので、カードが混ぜやすいお気に入り。でもこの部屋では大き過ぎて広げるところがないな。仕方がない。ベッドのクッションの上に広げることにしよう。


 うむ久しぶり。大学の時からだから一、二年ぶりだろうか。


 ちゃんとできるかな?


 ベッドに敷いたマットの上でカードを混ぜる。




 ショウスケさんの恋愛運を見せて下さい。




 一枚目、≪貨幣ペンタクル騎士ナイト 正位置≫



 貨幣ペンタクル騎士ナイトは黒い馬に乗っている。


 他の三枚の騎士ナイトのカードとは異なり、黒馬は全ての足を地に付けているのが特徴だ。これは正に地に足がついているという事を示す。ペンタクルのスートには地のエレメントと言う意味もある。


 ナイトのカードは皆「行動力」や「積極性」を意味しており、もちろん貨幣ペンタクル騎士ナイトも同じ。


 ただし黒馬が四本の足を地面に付けていることから、貨幣ペンタクル騎士ナイトは積極性と堅実性を兼ね備えた「守りの騎士」であるとされる。


 守りの騎士と言っても他の騎士のカード同様「行動力」や「積極性」を意味するのは変わらない。守っているように見えるのは機を見ているから。


 確実に機をとらえ、目標を達成する騎士。それが貨幣ペンタクル騎士ナイトだ。恋愛運でも堅実的な恋愛を指すけれど、堅実すぎて進展しにくい、と捉える場合もある。



 二枚目、≪ワンドのエース 逆位置≫


「恋愛運を見て欲しい」と言われてワンドのエースが逆位置で出てくるのは興味深い。


 ワンドのスートは炎のエレメントを象徴し、情熱を意味する。エースはその原型であり情熱そのものだ。


 逆位置ならば情熱に乏しいことを指すことになるわけで、恋愛運を見て欲しい人に情熱がないのは変な感じ。


 友達に言われて付き合いで見てみたとかならわかるんだけどね。この場合は今は恋愛に興味がないんだ、という解釈になる。


 でもショウスケさんは自分から恋愛運って言ったんだからそうじゃない。


 となると、≪ワンドのエース 逆位置≫が示すのはショウスケさん自身ではない可能性がある。つまりお相手の気持ち。ショウスケさんが好きな人の気持ちだ。


 ここまでの二枚から考えると、ショウスケさんは鈍かったり脈の乏しい相手に片思いをしているのかもしれない。



 三枚目、≪皇帝エンペラー 正位置≫



 皇帝も騎士と同様「積極性」を示すカード。でも騎士の上に立つ皇帝が積極性で劣るわけがない。また皇帝は男の人の「男らしさ」や「決断力」を象徴するカードでもある。


 この三枚をストーリーとして解釈すると、つまり。


 鈍いお相手に対しては守りの騎士のままでいてはいけない。皇帝であれ、ということかな?



「結果が出ました!」


「お、戻ってきた」




 ログを見ると急に動かなくなった私をみんな心配していたようだ。回線落ちちゃったんじゃないかとか、寝落ちじゃないかと言った議論の跡が見える。そうか、申し訳ないことをした。



「すいません! 時間かかっちゃいました!」


「あ、いやいや。なんでもなかったらいいんだ」



 師匠も心配していたようだ。ありがとうございます。寝落ちしてるとか思ってごめんなさい。


 さて。


 普段はこの結果をカード見て貰いながら説明していくんだけど。


 向こうからはカード見られないからなあ。言葉で説明するしかないか。意外と難しいな。


 カードの解説の前にショウスケさんにちょっと確認を。完全にストーリーを読み違えていると恥ずかしいからね。



「ええと恋愛運と言うことですが、ショウスケさん好きな人がいますか?」



 私の言葉にどよどよと沸くギルドメンバーの皆様。



「ええと、まあ、います」



 どよどよどよ。



「相手の反応が乏しくて、想いを伝えるかどうか迷ってますか?」


「……すごいな。そうです」



 どよどよどよどよ。


 よし。この解釈で間違いなさそうだ。

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