第71話 ギルド<なごみ家>へ、ようこそ! 6

「お前も自己紹介やれよ。ナゴミヤ」


「ええ、だって俺はコヒナさんとは会って一月経ってるんだよ。自己紹介も何も……」



 ヴァンクさんの言葉に師匠はそう答えるけれど、師匠は自分のことあまり話さないので気になる。



「コヒナちゃん、コレが普通のプレイヤーだと思ったら駄目だからね?」


「そうだぞ。散々俺たちを変人呼ばわりしてるが、一番おかしいのはコイツだからな?」



 ハクイさんとヴァンクさんの痴話げんかコンビが教えてくれた。


 さっきヴァンクさんは一番やばいのはブンプクさんだって言ってた気がするけど。ヤバいのとおかしいのは違うのかな。それともみんなそれぞれナンバーワン的な意味だろうか。



「マスターはいい人だけど、変人なのは……うん否めないですかね」



 唯一まともそうな騎士ショウスケさんも同意見のようだ。



「薄々感づいてました」



 薄々って言うか。初めて会った時に「変な人だ!」って思ったし。



「ええっ!?」



 師匠が抗議の声を上げる。



「でも自覚あるんですよね?」



「ある ////」



 嬉しそうに頬を染めないで下さい。気持ち悪いですよ。



「初めてお会いした時から変わった方だと思いましたし、あと猫さんからも色々とお伺いしましたし」


「そっか~~。でも猫さんも大概変だけどね~~」


「ブンプクが言うなよ」



 ヴァンクさんがツッコミを入れるけど、ブンプクさんの言うことも頷ける。



「ナゴミヤはな、自分をNPCだって言うんだ」


「NPC?」



 そう言えば昨日一般人だとか仕立て屋だとか言ってた。一般人とNPCはまた違う気もするんだけど。NPC?



「NPCって、あの町にいて店とかやってるNPCですか?」


「そうそう、あのNPC」


「???」



 NPCが何なのかはわかるけど。あのNPCって言われてもなあ。



「何でNPCなんです?」



 RPGなのだから、ロールプレイと言うのはあると思う。


 ドラゴンスレイヤー、バーサーカー、アイテムコレクター、ヒーラー、毒使い。わかる。変だけどわかる。


 なんだったら猫だってわかる。


 ゲームの中の主人公として、それぞれ自分がなりたいものになりきって行動するのは楽しみ方として理解できる。


 師匠も昨日言ってたみたいに仕立て屋って言うならわからなくもないんだけど。でも自分がNPCだ、と言うのは意味が分からない。



「何でって……。ううん。NPCになりたいんだよな、俺」


「???」



 NPCに、なりたい?


 主人公になりたい、じゃなくて?



「ううん、何でって言われると困るなあ。なりたいと思ったからとしか……。なりたいって言うか、むしろNPCだっていうか。でもほら、なんで、って改めて聞かれたらみんな困るだろ? 一緒一緒!」


「いや、なんか違う」


「改めて思った。マスターは少しおかしい」



 裸パンツのヴァンクさんと、毒を食べるのが趣味なリンゴさんにおかしい人扱いを受ける師匠。



「なんだよー。いいよ。理解して貰えると思ってないもん。理解して欲しいとも思ってないもん」



 もんて。拗ねても可愛くないですよ、師匠。



「よしよし、ナゴミヤくん、だいじょぶだから。変でも大丈夫だからね~~」


「そうそう。マスターが何言ってるか全然わかんないけど、大丈夫。心配しないで」



 ブンプクさんとハクイさん、二人の女性陣が慰めに入る。でも明らかに形だけというか寧ろ追い打ちだ。



「そ、そう? そっかあ、大丈夫かあ ////」



 でもなにやら師匠は嬉し気に機嫌を回復した。みんな優しくて良かったですねえ。



「最後、コヒナさんだね。みんなに先に言っておくけど、仮入隊ね。合わなかったら無理しないように。自分の趣味を押し付けないように。くれぐれも自分が変人であるという自覚の元行動して下さい」


「お前もな」


「ええっ!?」



 師匠の予防線にヴァンクさんがつっこみを入れる。



「仮かー。まあしょうがないかな」


「みんな濃いからね~~」



 ハクイさんとブンプクさんの女性陣は少し残念そう。でも仮と言ってるのは師匠だけで、私は入れてもらう気満々なんですよ。


 と言うわけで自己紹介はいよいよ私の番だ。



「こんにちは! 師匠の、ナゴミヤさんの弟子のコヒナです! 改めまして、どうぞよろしくお願いします!」



 みんな、よろしく~とぱちぱち手を叩いて歓迎してくれる。



「コヒナちゃん、ナゴミヤ君とはどうやって知り合ったの?」



 よくぞ聞いてくれましたブンプクさん。ええ、凄かったんですよ、師匠。



「師匠にはログイン初日にゴブリンの集団に襲われている所を助けられました!」


「え、なにその超展開」



 ハクイさんがいぶかし気な声を上げる。



「それほんとにナゴミヤか? 人違いじゃないのか?」


「ナゴミヤ君が襲われてたとこをコヒナちゃんが助けたんじゃなくて?」


「そもそもマスター、ゴブリン倒せるの?」



 他の人たちも意外だったらしく皆口々にひどいことを言うけれど、



「ふふん、まーな!」



 と師匠はご機嫌だ。



「全然威張るとこじゃないんだけどね」



 ハクイさんの言う通りゴブリンから助けたというのは威張るところじゃないのかもだけど、あの時の師匠がかっこよかったのは間違いない。


 ここはその雄姿をみんなに伝えるべきだろう。



「凄かったです。雷魔法を受けたゴブリンがみんな怒って逃げる師匠を追いかけて行って、そのお陰で私は無事でした」


「wwwwwwwwww」


「ぶはははははははは」


「流石マスター……」


「ナゴミヤ君、サイコー~~ww」


「凄い。期待以上の展開だ」


「ふふん、まーな! まーな!」



 皆口々に師匠を褒め称えて、師匠もさらにご機嫌の様子でふんぞり返っている。



「その後なんやかんやで再会しまして、師匠になって下さいと私からお願いしたんです」


「なんやかんやwwwww」


「なんでそうなったwww」


「コヒナちゃんかわいい~~~ww」


「無いわw 私だったら絶対無いわw」



 そのなんやかんやが私の中では大ヒットだったんだけど、今ここでは言わないでおく。師匠が照れてしまうからね。それに、私より師匠との付き合いの長いこの人たちは、みんなわかってるんだろうし。



「今は師匠の指導の下、剣士をやってます。皆様もどうぞご指導お願いします!」



 ぱちぱちぱち、とみんな拍手してくれた。



「やりたいこと、わからないことあったらなんでも言って下さいね」


「おう。武器の扱いやスキル構成なら俺にも任せろ」



 ショウスケさんとヴァンクさんがそう言ってくれる。嬉しいんだけどまだ私はそこまで辿り着いてないんだよね。



「しばらくは剣での基本の戦闘で手いっぱいだと思います」


「それもそうか。 まだ始めて一月だもんね~~」


「でも、皆さん自分の楽しみ方があって何だか羨ましいです」



 手一杯なのは確かだけど、<なごみ屋>の先輩たちみたいにスタイルが確立されているのは楽しそうだ。



「焦んなくていいと思うよ。普通にやるのが一番楽しいし、それあってこその変人プレイだから」



 変人プレイて。師匠、自分も含まれてるんですからね。自覚あるにしても中々ひどいこと言ってますよ。


 師匠以外も<なごみ屋>にいるのは確かに変わった人ばかりだ。


 私は剣士かあ。んー、普通だなあ。折角こんな変なとこに来たんだし、私もなにか変わったこと言いたいなあ。


 でも現状いたって普通のプレイだし、何か変わった嗜好があるわけでもなし。ううん。



 お、いいこと思いついた!


 昔散々変人扱いされたアレで行こう!



「実は私、占いができます!」

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