第65話 キャット・ザ・チャリオット10

「なごみー、明日はええんだろうにゃ」


「悪いことをしてしまいました」


「気にすんなにゃ。じごーじとくだにゃ」


「いつもお世話になってしまってますからねー。師匠もやりたいことあるだろうに、突き合わせてしまって」


「そこは心配しなくていいだろうにゃ」


「そうですか?」



 実は心配してるふりしてるだけだったりもするんだけど。いや、正確に言えば心配してないってわけじゃないんだけど、遊んで欲しいの方が勝つのだ。



「なごみ―は変人だにゃ。一人でいる時にやってるのは羊の毛だの妖蚕のまゆだの集めたり、ストラケルタ捕まえて売ったりにゃ」



 そう言えば最初に会ったのは羊さんの群れの中だった。きっと師匠も羊さんを探しに来ていたのだろう。全部剥いじゃって悪いことしたなあ。ストラケルタってなんだろう。聞いたことある気がする。



「人が集まれば狩りにも行くけどにゃ。なごみーは一人じゃ狩りできないからにゃあ」


「やっぱりそうなんですか? ほんとは強いのに隠してるとかじゃなくて?」


「弟子の夢を砕くようで申し訳ねーが、隠してねーにゃ。オレのスキル構成もめずらしいっちゃ珍しいがにゃ。なごみーは異状にゃ。世捨て人にゃ。自分でゲームやる気がねーんだにゃ」


「……」


「ネオデはソロでプレイできるようにスキル組むのが普通だにゃ。そりゃ大人数でパーティー組めばつええにゃ。でもそれはソロが集まったってだけにゃ。回復もバフも本来自分を守る手段だにゃ。なのにあいつのはそればっかだにゃ」



 確かに師匠が教えてくれるスキル構成も、一人でも楽しめるようにというのを前提にしている。私としては一緒に遊んでもらった方が楽しいのでついつい師匠を探してしまうけど。



「なぜ師匠はそんなスキル構成にしているんでしょう?」



 ずっと疑問だったこと。猫さんなら知っているかもと思ったけど。



「わかんねーにゃ。聞いてみれにゃ。まあ好きでやってんだろうにゃ。スキルのことも、羊の毛のこともにゃ」



 羊さんの毛を刈るのは確かに楽しかったけど。



「狩りが嫌いと言うわけではないのでしょうか」


「にゃにゃ、それは無いと思うにゃ。メンツ揃えばオレやギルドの奴らと狩りは行くにゃ」


「ギルド? 師匠ギルド入ってるんですか?」



 ギルドと言えばネオデを始めた日の翌日にギルドに勧誘されたっけ。その後ギルドについては師匠は何も言ってなかったけど。むう。入ってるなら誘ってくれればいいのに。



「にゃにゃ? 入ってるってか、なごみーはギルドマスターだにゃ。ほんとに知らなかったにゃ?」


「ええっ、そうなんですか!?」



 なんで教えてくれなかったんだろう。ちょっとショックだ。



「あーにゃ。なごみーにわりいことしちまったにゃあ。念のため言っておくと、こっひーをギルドに入れたくないとかじゃねえにゃ。逆にゃ。なごみー、自分から入れとは言わねえにゃ。入りたいならこっひーから言えにゃ」


「むう? どういうことですか?」


「にゃにゃ、こっひーは大事にされてるってことだにゃ。あとは自分で聞けにゃ」



 良くわからないけど、ショックを受ける必要はないのかな。



「わかりました。聞いてみます!」


「おう。なごみーはいつもわけわかんねーことやって喜んでる変なヤツだけどにゃ。こっひーが来てからは更に生き生きしてるにゃ。こっひーがいない時も次は何をしようとか言ってるにゃ。遠慮はいらねーだろにゃ」


「そうなんですかっ!」


「お、おう。食い気味だにゃ」



 それはいいことを聞いた。何処か連れて行けと言う度にぶつぶつ言うから遠慮してたのに。いやあんまりしてなかったけど。


 なんだー。師匠、猫さんのこといろいろ言ってたけど自分も一緒じゃん。安心したよ。今後は遠慮なくがんがん遊んでもらうことにしよう。ギルドのことも聞いてみよう。



「ま、なごみーでなくてもにゃ。ネオデは古いゲームだにゃ。ベテランプレイヤーが大勢いて、色々やりつくして、やることなくなってるやつが多いにゃ」


「えっ、こんなにやること多いのに⁉」



 スキルはあげなくちゃいけないし、装備品も揃えないといけない。まだ会ってないモンスターだってたくさんいる。それどころか一か月近く経つのに、この世界にどんな場所があるのかすらわからない。やることが無くなる日なんて来るんだろうか。



「それだにゃ。そーゆーやつがいるとこっちも楽しいもんだにゃ。だから遠慮すんじゃねーにゃ。なごみーいないときはオレにも声かけろにゃ。いる時もたまには声掛けろにゃ」



 猫さんはそう言って私をフレンドに登録してくれた。



「さて、オレもそろそろ落ちるにゃ」



 確かに結構な時間だ。



「あっ、これどうしましょう!」



 先ほどバーゲスト戦で手に入れたマギハットを被って猫さんに見せる。何しろ師匠から初の「お宝」認定が出た初の品だ。何か良い使い方があるといいんだけど。



「んー、いいものだけどにゃあ。オレやなごみーが使う程ではねーにゃ。記念にこっひーが持ってろにゃ。何だったら売ってもいいにゃ」


「じゃあ、そうさせていただきます!」



 わーい。おったから~、おったから~。よーし、お部屋に飾ろうっと!


 ちなみにお部屋と言うのは私が間借りしている師匠の家の一室のことだ。ネオデ内で自分の家を手に入れるには莫大なお金が掛かる。今の私ではとてもじゃないが手が出ない。



「おう。魔法使いやってみたくなる時もあるかもしれねーにゃ」



 魔法使いかー。


 それも楽しそうだ。師匠の攻撃魔法は弱くてスライムも殺せないけれど、でも追いかけてくる沢山のヘルハウンドを一斉に足止めしたり、私の攻撃の瞬間にバフを合わせてくれたりしているのは見ててかっこいい。ちょっとやってみたくなる。うーん、やっぱりやること多すぎだと思うな。



「んじゃ、お休みだにゃ。今日は楽しかったにゃ。ありがとーにゃ」



 さっきは師匠も猫さんのこと言えないなと思ったけど、でも猫さんはやっぱり師匠の言う通りの人、じゃなかった猫なのかもしれない。


 でもこすられてはかなわないからな。その言葉は口にしないことにしよう。



「ありがとうございました! とても楽しかったです!」



 その夜私は夢を見た。


 師匠と猫さんと一緒に七番目の魔王テレジアを倒し、テレサさんのことを聞くと言う夢だった。魔王テレジアがなんて言ってたのかは、残念ながら思い出せなかったけど。

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