第66話 ギルド<なごみ家>へ、ようこそ! 1

 テレジアさんに会った翌日。


 ログインするとそこは師匠の家の私の部屋だった。となりの部屋に師匠の気配がする。私は思い切り自分の部屋のドアを開け放った。


 ばーーーーん



「師匠、ギルドに入れてください!」



 こういうのは勢いだ。



「へっ?」



 自宅の工房でお洋服を作っていたらしい師匠は私の突然の登場に驚いていた。



「ギルドに入れてください! 師匠、ギルドマスターなんですよね?」



 もう一度お願いを繰り返す。



「何で、あー猫さんから聞いたのかあ」



 その通りだ。昨日の猫さんのお話だとこっちから言えば入れてくれそうな感じだったんだけど。



「駄目ですか?」


「いや、駄目ってわけじゃないんだけど。うち変な人ばっかりなんだよ」


「変って、師匠よりもですか?」


「ううん。みんな普通にゲームやってないっていうか……。今、普通に俺を変な人呼ばわりしたな?」


「自覚無いんですか?」


「ある ////」



 あるのか。何嬉しそうにしてるんだ。



「悪い人たちじゃないんだけど。 でもみんなマニアックっていうか、ベテランすぎて趣味に走ってて濃いんだよ。普通にネオデやるなら他のギルドの方がいいと思うんだよね」



 なにやら寂しいことを言われている気がする。新人が入るとやりずらいのだろうか。



「私が入ったらお邪魔ですか?」


「いや、そんなことは無い。みんな喜ぶと思うし。寧ろ呼べって言われてるし」



 なんだ、他のギルドの方も私のことは知ってるんだ。



「では何が駄目なんですか?」


「いや駄目なんじゃなくてね。さっきも言ったけどさ。ネオデ普通に楽しむなら他の所の方ができる事多いんじゃないかって」


「?」


「だからさ、スキル育って新人卒業したら大手のギルドとかに入った方が楽しいんじゃないかなあとか」



 ははあ。猫さんが言ってたのはこのことか。変人の自覚があるから心配ってことだな。要はいつもと同じで私に気を使ってくれてるってことなんだろうけど。師匠、それは多分ちょっと違うと思います。



「私は師匠のギルドに入れて欲しいのですが!」


「うっ」



 私が入りたいと言って、他の方も来いと言ってくれているのに何を困っているんだこの人は。



「じゃあ、仮ってことで。いつでも抜けられるってことで試しに入ってみるかい」



 予防線凄いな。 でもそこのギルドマスター、師匠なんでしょう? 多分楽しいですよ、そこ。



「はい!是非!」



 元気に返事をすると、師匠からギルド勧誘のシステムメッセージが届いた。



 system: 『ギルド<なごみ家>に入会しますか?』



 ギルド名、なごみ家て。師匠の名前まんまじゃないか。


 yesを選択すると、システムのウインドウにギルド加入したことが表示される。


 system:<コヒナ>が加入しました。


 そのシステムメッセージの直後、大量のチャットが画面に飛び込んできた。


 ヴァンク :『おおっ、やっときたか!』

 ブンプク :『え、新人さん? すご~~!』

 ショウスケ:『はじめまして。どうぞよろしくおねがいします』

 ハクイ  :『えっ、何?、誰!?』

 リンゴ  :『マスターの弟子っていう人だね。宜しく』

 ハクイ  :『何それ!』


 ナゴミヤ :『はいはい、みんな静まりたまえ。コヒナさんは一月前に始めたばかりの新人さんで、僕の弟子だよ』


 ブンプク :『え、ほんとの新人さん? わ~~、わ~~~』

 ハクイ  :『はあっ!? 聞いてないわよ! なんで黙ってたのよ!』



 わあ、大歓迎。これはギルドメンバーにだけ聞こえる回線なんだな。こちらもご挨拶せねば。



 コヒナ  :『こんにちは、はじめまして。ナゴミヤさんの弟子のコヒナです。まだ何もわからない新人ですが、どうぞよろしくお願いします』


 ハクイ  :『!』

 ブンプク :『か、可愛い~~!』

 ヴァンク :『ナゴミヤ、今何処だ。ナゴミヤの家か?』

 ナゴミヤ :『はいはい。お静かに。そんなわけでいまから歓迎会やるよ! 暇な人はうちに集合!』

 ヴァンク :『暇じゃないヤツいるのかよwww』

 ハクイ  :『あんたと一緒にしないでよ! 行くけど!』

 ブンプク :『ええ~~、待ってよ~~~。ああもう。言ってくれたら準備しといたのに~~』



 師匠が歓迎会を宣言してすぐ、庭に三人のアバターが転移してきた。


 リンゴさん、ハクイさん、ヴァンクさん。みんなギルドチャットで名前を見た人たちだ。


 リンゴさんは女の人で、赤いケープに着いたフードを目深にかぶっている。白いブラウスの上から真中を紐で締める赤い胴衣にロングスカート、その上からエプロン。手には籐の篭バック。


 赤ずきんちゃんだ。女の人と言うよりは女の子と言った方が合ってるかもしれない。


 ハクイさんも女の人。白いワンピースに白いケープ、それに白のミトラ帽。銀色のメガネがかっこいい。こちらはコスプレ看護師さんだな。


 最後のヴァンクさんは男の人。ヴァンクさんが三人の中で一番目立っている。


 筋肉もりもりで背中に大きな両手剣。でも特筆すべきは服装。いや服装と言っていいかどうか怪しい。だって服着てないし。上半身裸で下半身もパンツだけ。防御力が心配だな。防御力以外もいろいろ心配だな。


 師匠に散々予防線を張られていたのでこの程度で引きはしないけど、インパクト強すぎて他の二人も中々にインパクトがある服装なのに頭に入ってこない。


 少し遅れてもう一方現れた。ショウスケさん。男の人でフルプレートに片手剣と盾という騎士スタイルだ。



「丁度今ブンプクと一緒に狩りしてたんだ。ブンプクは歓迎の準備してくから先はじめててとのことです」



 ショウスケさんが師匠に向って言う。



「そっか、ブンプクさんに悪いことしちゃったね」


「いや、ブンプクも好きでやってるんだしいいんじゃないでしょうか」


「そう? じゃあ、お言葉に甘えてはじめちゃうかね。ではみんな適当に座ってね」



 そういうと師匠は庭にある大きなテーブルのお誕生日席に座った。師匠がちょいちょい、私を手招きして隣の席を指すのでそこに座らせてもらう。


 私の反対側の隣に赤ずきんちゃんのリンゴさんが嬉しそうに座ろうとしたけど、ナースのハクイさんに「あんたはこっち」ともう一つ隣に押しやられた。私の隣にはハクイさんがそのまま座る。


 りんごさんは「ち」とつぶやいたけど、大人しく従ってハクイさんの隣に座った。


 私の向かいにはパンツ一丁のヴァンクさん、そのとなりに騎士のショウスケさん。実に対照的な二人だ。


 お誕生日席の師匠を除けば男性陣と女性陣が大机を挟んで向かい合ってる状態。


 何だか合コンみたいな並び方だ。



「じゃあ、ブンプクさんは来てないけど始めちゃおうかね。ええと、今日はよろしくお願いします。じゃあ、早速自己紹介いっちゃいましょうか」



 師匠の言い方も何か合コンみたいだな。

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