第62話 キャット・ザ・チャリオット7

「お疲れ、こっひー」



 人型猫耳美少女の猫さんが手を挙げてくれた。



「ありがとうございます!」



 その手に向ってハイタッチを決める。


 猫さんと師匠に守られながらの戦いではあったけれど、私は見事強敵バーゲストの討伐を果たしたのであった。


 バーゲストはマジックアイテムやお金とは別に紙の切れ端を持っていた。


 T E R E S I A


 と書かれている。恐らく三階から四階へと進む合言葉だろう。どうやら合言葉は人の名前のようだ。TERESIA。これはテレジアさんだろう。さっきの合言葉も人の名前で確か……。うん、忘れた。でも両方人の名前だ、と思ったのは覚えている。


 第三階層のボスだけあって落とすマジックアイテムも良さげな効果が付いているものが多い。これは全部持って行かなくてはなるまい。ほくほく。



「バーゲスト、こんな帽子落としたのですが、どうでしょう。良いものに見えます」



 私はその中でも一番かかっている魔法効果の多い帽子を被って二人に見せてみた。


 染められていないので生成り色だけど、師匠が被っている紫の魔法使い帽子マギハットと同じ型の物だ。



「おっ、これはなかなか」


「ほー、バーゲストのドロップとは思えない性能だにゃ」



 モンスターの落とす魔法のアイテムにはランダムで様々な効果が付く。ランダムなので効果がいっぱいついていても良いアイテムだとは限らない。


「攻撃力アップ」「攻撃速度アップ」「回避率アップ」みたいに上手く揃えば戦士系のアバターにとって優秀なアイテム、と言うことになる。


 この辺りがよくわかんないのでとりあえず持って帰ってきてしまうのだ。


 自分では使えないけれど他のプレイヤーさんに売れそうな物は師匠がお友達のお店に持って行って換金してくれる。ほとんどは二束三文だ。


 でもバーゲストのマギハットはMPの自然回復を早めたり消費MPを抑えたりと魔法使いさんには便利そうな効果が揃っていた。



「これならプレイヤーメイド超えるね。4,5万ゴールドにはなるんじゃないかな」


「うおおお、4,5万ゴールド!」



 今までで一番高く売れたのは5千ゴールドの金属籠手だったので、一気に十倍だ。



「こっひーテンションたけーにゃ。うん、でもそんくらいはするにゃ。お宝といっても過言ではないにゃ」


「うおおお、お宝!」


「コヒナさんが魔法使いなら即採用レベルなんだけどな。戦士用としては使えないからなあ」


「むむむむむ」



 そんなに良いものなのか。魔法使いかあ。



「ま、どーするかは帰ってから考えるにゃ。さて、三階のボスも倒して一段落なわけにゃが」



「そういえば暗号っぽいの書いた紙が出ましたよ!」



 次の階も行ってみたい、という思いを込めて言ってみたけれど。



「流石にこの先はまだ無理だにゃ。次の階ではレッサーデーモンが雑魚扱いだにゃ。狩りをつづけるならこの階だにゃ」


「そうですかー」



 流石にそれはそうか。



「にゃあ。そうがっかりするなにゃ。強くなったら来たらいいにゃ」


「はい。そうします」



 強くなったら、か。確かに猫さんと私では強さに天と地ほどの差がある。



「猫さんの、HPとかMPを吸い取るのは何かのスキルなんですか?」


「おにゃ、よく見てたにゃ。そーだにゃ。<吸命爪>ライフスティール<吸精爪>マインドスティールを交互に使うにゃ。武器も同じ能力があるものを使って効果を重複させてるのにゃ」


「猫さんは自分を回復するスキル入れてない代わりに攻撃力に特化させてるんだ。その分吸収も大きくなるんだけど、普通はあんなことしないんだよ? 猫さんは少しおかしいんだ」



 ネオデではパーティーを組むこともできるけれど、基本的にソロで活動できるようにスキルを構成するのが普通だ。回復スキルを削るとは思い切ったことをする。



「うるせーにゃ。お前ほどじゃねーにゃ。まあ、珍しいスキル構成ではあるにゃ。魔法スキルも必要になるし、MP管理も面倒にゃ。こっひーならできるだろうけどにゃ」


「ほんとですか!」


「でも、剣じゃできないよ。爪専用のスキルだから」


「むむむ」



 悩ましい。やってみたいことがいっぱいだ。



「猫さん、ほんのちょっとだけ、三階行くのダメかな。折角パスワード手に入ったんだし、見るだけ。アレ見せてあげたい」



 師匠が何やら興味深いことを言い出す。



「アレ、ですか?」


「またおめーは! そんな言い方したら見てみたくなるだろーがにゃ!」


「そーだそーだ、見てみたくなるでしょうがー!」



 どうしてくれるんですか。責任取ってくださいよ、まったくもう。



「俺、どのみちもう落ちないとなんだよ。その前に見るだけ。どうかな、コヒナさん」


「行ってみたいです!」


「おおう、食い気味」


「ったくしょうがねーにゃ。こっひー、オレより前に出るなにゃ? なごみーが姿隠しの魔法掛けるけど、それも過信すんなにゃ。デーモン族にはバレるにゃ」


「わかりました!」



 わーい。わくわく。



「じゃあ、行く前に一つだけ。さっき、このダンジョンができた経緯話したじゃない?」


「はい」



 男の人に捨てられた女の人が世界の破滅を望んだ、そんなお話だった。



「あのお話はマディアの大図書館で見れる話なんだけどね。悪魔を呼び込んだって言う女の人、名前書かれていないんだ。でも別の図書館によく似た物語が書かれた本があって、それには名前が記されている。テレジアさんって言うんだ」



「えっ? テレジアさん、ですか?」



 テレジアさん。


 Teresiaさん。


 その名前は、さっきバーゲストが落とした紙に記載されていた合言葉だ。


 なぜ悪魔の封印の合言葉に、悪魔を呼び込んで世界を滅ぼそうとした人の名前が使われているんだろう。


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