第61話 キャット・ザ・チャリオット6
ディアボ、第三階層。
時折ある石で出来た悪魔像は二分の一ぐらいの確率で動く。モンスターのガーゴイルだ。ガーゴイルは堅いけれども魔法は使ってこないし一人でも戦える。
綺麗な状態で残っているおどろおどろ魔法陣からはガーゴイルやヘルハウンドが湧いて出てくるけれど、このあたりには一対一なら負けはしない。
手ごわいのは、時折現れる真っ赤な悪魔 <レッサーデーモン> だ。
山羊か羊かわからないけどどっちかの顔と二本の角。蝙蝠の羽。三角に尖ったしっぽ。正に悪魔だ。ザ・悪魔。タロット的に言うとザ・デビル。デーモンだけど。
人間なんか簡単に引き裂いてしまいそうな鉤爪は見るからに恐ろしい。でももっと恐ろしいのは魔法。レベル3火球をがんがん撃ってくる。
さっき戦ったエスカルゴなんとかソースというびっくり人形ほどじゃないけれど、お墓のリッチと同格かそれ以上の強さ。防御力も高い。
でも師匠の支援を受けて輝く私の剣はその堅い皮膚をも切り裂いてダメージを与える。
強力なモンスターとの闘いの時には師匠がサポートしてくれて、猫さんが他の近づくモンスターを凄いスピードで駆逐してくれる。私がかろうじて戦えているのはそのおかげだ。
ダンジョン、怖い所だ。お墓や森の中の石碑といったフィールド上のモンスター沸きポイントとは比べ物にならない。
隣で戦う猫さんはとんでもない強さだった。
猫さんの武器は左右に装備した爪。攻撃範囲は私の剣より狭いけれど、攻撃力は段違い。懐に入り込んでは連撃を叩き込み、瞬く間にモンスターを倒してしまう。
さすが師匠の言うところの「我が最大の力」だ。
あれ、「我が最大の力」?
……うちの師匠、改めてひどいな。
「こっひー、お前、強えにゃ」
何体目かのレッサーデーモンを倒した時、猫さんが褒めてくれた。
「え、いえいえそんなことは」
めちゃくちゃに強い猫さんにそう言って貰えるのは嬉しいけれど、師匠と猫さんがいるから戦えているのであって一人では一瞬でダンジョンの藻屑になってしまう。
ん、ダンジョンだと藻屑って言わないか。ええと、肥やし? それも違うかな。
私がレッサーデーモン一体を倒す間に猫さんなら五体位倒してしまいそうだ。実際には待っててくれるしレッサーデーモンが五体もいたら一大事だけど。
「いや、たいしたもんだにゃ。まだ初めて半月ってとこだにゃ? 初見相手の対応も見事にゃ」
どうやら本当に褒めてくれているらしい。嬉しいね。
「えへへ~」
「まーな! 師匠がいいからな!」
「はい!」
いえーい、と師匠とハイタッチを決める。
「あーにゃ。これで師匠がコレでなかったらもっと 強くなるんだろーけどにゃあ」
「まーな!」
「まーな、じゃねーにゃ。なごみーのことは褒めてねーのにゃ」
猫さんがべし、と師匠を叩いた。
「師匠はともかく弟子は大したもんだにゃ。なごみー、あいつやるぞ」
「お、猫さんがそういうなら」
あいつ?
師匠と猫さんの間でなにやら相談が交わされたようだ。
「三階のボスに行くにゃ。こっひー、お前が倒せにゃ」
三階の奥の部屋には例によって大きなおどろおどろ魔法陣が敷かれていた。
「タイマン張らしてやるにゃ。安心して戦えにゃ」
ばりばりばり、と画面に雷のエフェクトが入り、魔法陣の中央に何かが現れる。
見た目は大きな犬だ。ただ、同じ大きな犬であるヘルハウンドとは比べ物にならない。
ヘルハウンドが狼みたいに大きな犬だとすれば、現れたそれは牛くらいあるんじゃないだろうか。
<バーゲスト>
それが雷を纏った大犬の名前だった。
開戦と同時に<バーゲスト>が放ってきたのは雷の範囲魔法。
私のHPバーが大きく削れる。直ぐに師匠の回復魔法が飛んでくるけれど、自分でも<回復促進>のスキルを使う。
<回復促進>は戦士系のスキルで、取得しておくとHPの自然回復が早くなる。また一定値以上でアクティブな<スキル>として使用することができるようになり、魔法ほど一瞬ではないけれど、かなりの速さでHPを回復することができる。
まだ私のスキルは低いけれど、師匠の魔法と合わされば回復効率はかなり高くなる。
範囲魔法はやっかいだけど私の武器は剣なので接近して戦うしかない。そして近づくと今度は雷属性を纏った爪の攻撃が来る。
バルキリーコヒナの鎧と師匠の魔法で軽減されて、それでも受けるダメージは結構なものだ。
二発、三発連続して受ければ私の最大HPを超えてしまうだろう。
一発受けてしまったら必ず離脱だ。
防御力も高くてなかなかダメージが通りにくい。でも焦らず少しずつ削っていくしかない。
爪、牙、雷の範囲魔法と雷のブレス。バーゲストの攻撃方法はこの4種類。
よし見切った、と思ったのもつかの間。バーゲストは動きを止め、ぐるぐると低いうなり声を上げ始める。
見たことのない行動。止まっているからと言って突っ込むのは最大の悪手。距離を取って盾を構える。
ぐおおおおおん!
バーゲストのうなり声が大きくなり、周囲にずがんずがんといくつもの雷が落ちる。でもそれは雷属性の攻撃魔法ではなかった。
落ちたいくつもの雷は地面に吸い込まれずその場にとどまって形を作る。
現れたのは十体を超えるヘルハウンドの群れ。その群れが一斉に私に向って炎を吐こうと口を開けた。
しかし、次の瞬間。
ぐおおおおおおおおう!
雄たけびが先ほどのバーゲストの咆哮をかき消すかのように響き渡り、ヘルハウンド達が皆恐れをなして硬直する。
「心配すんなにゃ、こっひー。タイマン張らせてやるって言ったにゃ?」
猫耳に猫髭、人の姿をした獣の女王「猫さん」が、ニヤリと笑ってそう言った。
猫さんが使ったのは恐らくヘイト集めのスキルだろう。ヘルハウンド達は一瞬の硬直を逃れたものの、抱いた恐れから猫さんに向かっていくことを余儀なくされる。
次々と吐き出される炎のブレス。でも、猫さんはダメージを受けない。
ちがう、受けてないんじゃない。凄い早さで回復していく。
私の使う<回復促進>とは別のスキルだ。猫さんの爪がヘルハウンドを引き裂くたびに、HPが回復している。HPだけじゃない、MPもだ。
攻撃するたびにHPとMPを吸収、結果連続して放たれる大技。相手を倒せば倒すほど強くなっていく、その姿は正に獣の女王だ。
おっと、見惚れている場合じゃない。
私は私の敵を倒さなくては。
私の動かす<コヒナ>さんがきりり、と相手を見やる。
その視線に気圧されて、配下を失った<バーゲスト>が、一歩後退ったように見えた。
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