第59話 キャット・ザ・チャリオット 4
「気を付けて。攻撃範囲広いよ!」
第二階層のボスであるスカルミリョーネの、びろびろの紙みたいな腕とは思えない力強い攻撃が直ぐ近くの地面をえぐる。紐で操られている人形のような変な動きだ。
びっくり箱なのか操り人形なのか、コンセプトしっかりして欲しいね。
<スカルミリョーネ>の攻撃の範囲は広いけれど、びろびろ腕がにょろにょろと戻っていく速度は遅い。つまりはここが狙い目。
腕の攻撃をかわしつつ、少しずつ攻撃を重ねる。びっくり人形はその攻撃に
苛立つびっくり人形の攻撃から逃れるように大きく距離をとる。ここはびっくり人形の間合い。私の剣は届かない。びっくり人形がニヤリと笑う。もちろん私のイメージの中の話だ。そしてここぞとばかりに思い切り二本の腕を伸ばしてきた。
よし、かかった!
腕の攻撃を盾にかすめるようにして弾き、一気に間合いを詰める。
「ほう、お見事」
師匠が言いながら掛けてくれた何かの魔法の効果で私の剣が光る。
私の使える技の中で最もダメージの高い技、
わあ、凄いダメージ。
師匠の掛けてくれたバフと、相手が体勢を崩したことによるボーナスで見たこともないダメージが入った。
でも終わらない。まだびっくり人形の手は戻ってこない。
続いて大技、
びっくり人形はきらきらのエフェクトになって消えた。
「すごいな。ずいぶん強くなったんだねえ」
「師匠がいいですからね!」
「まーな! いやしかし、これは師匠面してられる期間も短そうじゃわい」
何でいきなりおじいちゃん系師匠になったんだ。
びっくり人形がいなくなった後のおどろおどろ魔法陣の部屋。壁にまたアルファベットが書いてあるのに気が付いた。
R O B E R T
「師匠、もしかしてこのアルファベットは」
「うん、そうだよ。覚えておいてね。第三階層に進むための暗号だ。今日はここまでのつもりだったんだけど、もっと行けそうだね」
「行ってみたいです!」
「OK。じゃあ行ってみますか」
びっくり人形の部屋のさらに奥には、人間の側の幾何学魔法陣が大きく描かれていた。
幾何学魔法陣だけど、他のと少し違う。
何処が違うのかは具体的にはよくわからない。こういうの苦手。でもこれが第三階層へ続く封印とテレポーターなんだろう。
「さっきの言葉唱えていいですか?」
先ほどの失敗を踏まえて師匠に確認する。確認は大事だってお仕事でも言われたからね。確認ばっかしてるんじゃないって怒られもしたけどね。
「あ、ちょっと待ってね。流石にこの先は厳しいからね。指輪もう一個外して、それと僕の持てる最大の力を行使する」
ほほう。今度は何やらかす気だ。
「ちなみにそれをやると普通の人と比べてどのくらい強くなりますか」
「ふふ、舐めて貰っては困る。最大の力と言ったろう。この力を開放すれば、並のプレイヤーでは到底追いつかないさ」
「わー、すごーい」
「信じてないな」
「いえー、とんでもないー。さすがししょー」
「なんてひどい弟子だ。よしわかった、見せてやろう。これがこの世界における『力』という物だ」
ひどいのは弟子ではなくて師匠の日頃の行いですよ。しかし、そこまで言うからには今度こそ師匠の本気が見られるのだろうか。
しゃらん、しゃらん、と師匠は杖を振り始める。
「我は求める。我は求める。我が声、我が求め、聞き届け給え。汝、獣の王よ。古の契約に従い、我が召喚に応じよ!」
師匠がしゃらしゃらと杖を振る。これは魔法の本来の動き。詠唱の方はオリジナル。何が起きるのやら。詠唱の内容を見るに召喚魔法のようだけど。
空間に、穴が開いた。<ディアボ>の成り立ちを聞いていたせいで、そこから悪魔でも出てきそうに感じる。オレンジ色に光る四角形、空間が切り取られて中のオレンジ色が溢れているようにも見えて……。
いや。
……これ、アレだな。
移動用のゲートの魔法だな。
当たり前だけど何も出てこない。だってゲートの魔法だし。これに入って何処かに行くための魔法だし。
しばらく待っていたけど何も出てこないままゲートは消えてしまった。
「あっれ~?」
師匠は不思議そうな声を上げる。
「汝、獣の王よ! 契約に従い、我が召喚に応じよ!」
気を取り直してまた詠唱を始めたけれど、師匠、大丈夫ですか。魔法間違ってないですか。それ移動魔法ですよ。召喚魔法じゃないですよ。
同じようにオレンジ色の溢れる四角形が出て来たけれど、同じようにそこからは何も現れないまま、オレンジも消えてしまう。
ちょっと心配になってきたぞ。教えてあげた方がいいのか? どこまでがボケだかわかんないんだよ、師匠の場合。
私の心配をよそに師匠は三度目の魔法を唱える。しゃらしゃらしゃら。
「あっ。ええと、汝、けものの」
師匠、今詠唱忘れてたでしょ。もうゲート開いちゃってますよ。
そろそろ魔法間違ってますよって教えてあげないとだめかな。
そう思った、次の瞬間。
「うsっせえええええー――-にゃ!」
ゲートのオレンジの光の中に突如何かが現れた。表示された名前は<ナナシ>。ゲートの光によって影しか見えない。だがその姿は、どう見ても人間ではない。
ゲートの魔法の輝きが収まり、<ナナシ>の本当の姿が見えてくる。影で見えたよりもやや……
大分小さい。
ていうか凄く小さい。
ちょーん。
くるりとした大きな緑色の目。思わず撫でたくなるふわふわした茶トラの毛皮。
ゲートから現れたのは猫だった。
しかもちっちゃい子猫だ。
ええと、この子が、獣の王?
「やっぱりおめーかにゃ、なごみー!
わあ。
猫が、しゃべった。
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