第57話 キャット・ザ・チャリオット 2
ノドス湖の北側にあるダンジョン、<ディアボ>
マディアから行くときには大きく北側に迂回するルートをとる。ノドス湖の西には大きな湿地帯があり、中央には大型のヒドラがいるのだそうだ。なんと低級のドラゴンよりも強いのだと言う。
「それもいつか倒したいです」
「そうだね。いつかやってみよう」
フィールド上に見慣れないモンスターがいた。羽が生えている、いかにも悪魔っぽいやつ。
「<インプ>だな。<ディアボ>から出てくるんだ」
インプ以外にもうねうねした虫の<デモンワーム>、うねうねした草の<マントラップ>などが出てくるようになってきた。この辺は確かに見たことないモンスターだけれど、できれば戦いたくない。
モンスターだけじゃなくて、植生っていうのかな? それもおかしくなってきた。 生えてる草が変な色していたり、見たことがない形だったり。
「その紫の草は一応注意ね。踏むと低レベルの毒を受けるよ」
段々と、変な植物が増えていって、「そこ」にたどり着くころには、変な植物の方が当たり前になる。
ダンジョン <ディアボ>への大きな扉は、まさに異界への入り口だった。
昔々、その昔。まだ世界が不安定で、善性の化身であるボナさんが自我を持つよりもさらに昔のこと。
事の始まりは、良くある話。
男に捨てられた女が世界を恨んだ。
「こんな世界、滅んでしまえばいい」
商人から全財産をはたいて買った胡散臭い悪魔召喚の書物と、それに記された出鱈目な魔法の儀式。
何処の世界にもある、滑稽な日常の風景。
だけど、その本の中には一ページだけ、「本物」が混ざっていた。
一時の愚かな感情ではあったかもしれないが、女の思いだけは「本物」だった。
結果、世界の壁に大きな穴が開き、異世界より大量の悪魔たちが流れ込んだのだという。過去何度か訪れたという、この世界の滅びの危機だ。
ダンジョン<ディアボ>の真の姿は、当時の勇者たちによって作られた多重封印結界。
その最奥には、この世界で言うところの<ボナ>に匹敵するような存在がいて、再び愚かな人間が封印を解くのを待っているのだと言う。
「そんなわけで封印の隙間から漏れ出した異世界の空気のせいで、<ディアボ>入り口はこんな感じなんだ」
異様の中心の、複雑な幾何学模様のかかれた巨大な扉の前で師匠はいつもの解説を終えた。
「ダンジョンだからね。今日は俺もちゃんと戦う」
さらに、予想外の展開。
「えっ!? 師匠戦えたんですかっ!?」
「うん。ふはははは。我に施されし十の封印、その二つ迄を解放しよう」
「突っ込んでいいかどうかわかんないので具体的にお願いします!」
「あ、はい。他のスキルが上がる代わりに魔法を弱体化させる指輪、全部の指に付けてるのね。それを二個外すの」
はい?
「なんでそんなの付けてるんですかっ!?」
「なんで、ってこれ付けてたら釣りもできるしテイムもできるしお肉だって焼けるんだぞ! 俺がお肉焼けなくなってもいいのか!」
「それは困ります!」
「そーだろう? まあそういうことだ」
実際は言うほどは困んないと思う。乗っといてなんだけど。
この世界での食事はしないといけないけれど質によっての変化はない、くらいの扱い。だからみんなパンとかをお店で買って持ち歩く。少しスキルを上げれば焼き魚や焼き肉を作ることができるので入れてる人は稀にいるらしい。
私のご飯のメインは私が捕ってきたお肉を師匠が焼いたものだ。
「師匠、もしかして指輪全部外したらめちゃくちゃ強い、とか?」
「まあな! ダメージ換算で、並の魔術師の半分くらいはいけると思う」
「わー、すごーい」
大体期待通りの返事だった。
「ま、今日は第二封印までだな。多分今のコヒナさんと同じくらいの強さだと思う」
………………もう。
結局はそうなのだ。全部が全部。私の師匠はこういう人なのだ。私の強さに合わせて、私が思い切り楽しめるように。
「この世界では俺が強い必要はないんだ。強い人はいっぱいいるからね。コヒナさんにもすぐ抜かれちゃうと思うよ」
「それは無いと思います」
「いやあ、すぐだって、すぐ。一年もすれば立派な戦士になってると思うよ」
スキルやステータスは追いつくかもしれないけれど。
「それは無いと思います」
「そうでもないんだけどなあ」
「そう言うことじゃないんですよー!」
「ん?」
我ながら良い師匠を選んだものだと思う。ちょっと、申し訳ない位にいい師匠だ。
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