超番外 占い師と屍を従える王 6
メダカさんの「これから」に対して示された占いの結果は
一枚目、≪
二枚目、≪
三枚目、
この三枚のカードが示す、
「結果が出ました〜。申し上げてもよいですか〜?」
イケメルロン君が気を利かせて席をはずそうとしたけれど、メダカさんがそれを止めた。もしかしたら一緒に聞いて欲しいのかもしれない。お客様の意思に従い、結果をお伝えする。
「一枚目、ここは過去や原因を示します。出たカードは≪
メダカさんに思い当たることはあるだろうか。このカードは、残っている二つの聖杯こそ重要なのだけど。
「二枚目は現在、あるいはごく近い未来です。ここには≪
「え? ……し、死神?」
メダカさんが驚いている。気持ちはよくわかる。ごく近い未来に≪死神≫の暗示なんて、そこだけ見れば縁起悪いことこの上ない。
でも≪死神≫のカードが暗示するのは悪いことばかりでもないのだ。
「あ〜、いえいえ〜。びっくりしてしまうカードですが、普通は<死>そのものは意味しません。<終わり>を示すカードです」
「終り……ですか?」
メダカさんはまだ不安のようだ。そうだよね。名前だけでこんな不安になるカードなんてそうそうないだろう。
だけど、三枚目のカードを見るに、恐らくこの死神が意味するのは。
「名前の印象は良くないカードですが、周りのカードと合わせて考えるとこの『終わり』は『生まれ変わるための終わり』と解釈できると思います〜。生まれ変わったと実感できるような出来事があるかもしれません~」
何か大きな心境の変化が起こり、生まれ変わったような感覚になる。それが私がこの三枚から想像したストーリー。一枚目が元の自分。二枚目がごく近い未来に訪れる転機。
そして、三枚目がこの先の自分、だ。
三枚目にこのカードがあるからこそ、死神の解釈は生まれ変わりと解釈できる。
「三枚目、未来を示す位置に出ていますのは、≪法王:《ハイエロファント》正位置≫です~」
「
そーですよね。≪死神≫みたいなインパクトの強いカードと違って、名前だけじゃ全然ぴんと来ないですよね。海外だとそうでもないのかもしれないけれど。
「常識、広い視点、人との関わり、思いやり。直接に<生きるため>に必要というわけではないですけれど、人として生きる為に必要なことや、それを諭す人、頼れる大人を意味するカードですね〜」
カードの解説をしてみたけれど、メダカさんにはやっぱりピンと来ていないようだった。
「これはメダカさんの未来にこうなるかも知れないという占いですから〜。希望があるってことですよ〜。法王は人との関わり、優しさを意味します。本来ご自身の持つ優しさにも気付く事ができるかも〜」
「優しさ……ですか?」
そう。優しさ、だ。≪法王≫にはいろんな意味がある。でも一つだけ言葉を選べ、と言われたら「優しさ」だろう。他の意味は全部、「優しさ」の言い換えだ。
メダカさんはやっぱりピンとは来ていない様子だったけど、一枚目の≪
だって、これだけ嫌な思いをして、『メルロンさんのお陰ですぐに助かりましたし』とか『ろくな下調べもせず、ゲームを始めた私も迂闊でした』なんて出てこないと思う。
これは優しさだろう。今めだかさんが抱えているもっと強い感情、例えば≪死神≫のカードの一面である「諦め」みたいなものに包まれているとしても。
今は嫌なことが積み重なったり、自分の無力さを痛感したりして自分でも忘れてしまっているのかもしれないけれど、この人の本質は≪法王≫なんじゃないだろうか。
「まとめてみますと~、一枚目、過去の位置に出ているのは後悔や嘆きを示すカードです。二枚目の死神はそこからの脱出、まもなく訪れる大きな転機。古い自分を捨てて、新しく生まれ変わった自分と出会う出来事があるかもです〜。三枚目の法王は人との関わり、優しさを意味します。このカードが生まれ変わった後のメダカさんですね~」
「エタリリの世界で…新たなアバターを作る。これは新しい自分ですね。なるほど」
メダカさんはゲームの中の話だと解釈したようだ。もともと、ゲームの中で起きた出来事から始まった占いだし、本人がそう解釈したならそれが正解である可能性は大きい。
イケメルロン君との出会いが転機、みたいな。
でも、ちょっと引っかかることがある。
「そうかもしれません〜。けど、何か特別な意味もあるかもです〜」
「特別な意味?」
「ええ〜。実はこのカードだけ、するりんと私の手元から滑って行ってしまいまして〜」
そう。≪法王≫のカードは私が開く前に、デッキから抜け出して三枚目の位置に納まったのだ。
「スルリン、と?」
あれ、するりん、って変? 通じない? 何が正しいんだろう。つるりん?
「はい~。するりん、と〜」
身振りでデッキからカードが滑り落ちる様子を再現してみるが、ううん。これ、伝わるかなあ。
「それで床にぽとりと〜」
「ポトリ、と?」
あれ、ぽとりも通じない? こういう擬音語とか擬態語って意外と方言多いんだよね。
ううん、ぽとりはどうやったら通じるかな。
考えていたら隣でイケメルロン君がぺい、と地図を一枚捨てた。多分発掘済みのクエスト用の宝の地図だ。流石のイケメルロン君。これなら通じるだろう。
「もしかして、さっき絶叫したのって……」
おお、メダカさん凄い。占い師の素質あるんじゃないだろうか。タロットフレは貴重なんですよ。ご一緒にどうですか。
「はい〜。お恥ずかしながら、机の下に落としたカードを拾う際、頭をぶつけてしまいまして〜」
「えっ、カードが床に落ちるのって不吉な意味じゃ?」
「いえいえ〜。そうとも限りません。こういう場合、何か別の深いメッセージが隠されている可能性もあります〜」
タロットカードのような「偶然」に意味を見出すタイプの占いを
カード落とすのが不吉なら私は不吉占い師になってしまうからね。そこまでぽとぽと落としたりしているわけでもないけど。たまにですよ、たまに。むしろ大事な時だけです。きっと深い意味があるんです。
そんなわけで、この法王には特別な意味があると思う。ゲームの中だけには納まらない、もっと大きな意味が。
「<法王>にはあらゆる物事の変化、力強く発展させていくっていう意味もあります。前に出たカードも合わせて見ると、何か転換期にメダカさんはおられるのではないでしょうか〜」
手元にないもの、失ってしまったものを嘆いているだけの状態から、生まれ変わるような体験をし、法王の暗示する優しさと強さ、あるいはさらなる何かを手にする。
それが一番しっくりくる解釈だろう。
「……なるほど」
メダカさんはイマイチ納得いっていない様子だ。かなり良い占い結果だと思うんだけどな。
「むう。あまりお役に立てませんでしたか〜?」
「いえ、今の現状は当たっていますしね。ただ、どうしてもその未来に確信が持てないというか。それで戸惑ってしまっていて……」
まあそれは仕方がないことだろう。だからこそ一枚目のカードが≪
でもその後でメダカさんはこう言ってくれた。
「……そうですね。本当はこのままゲームを止めてしまうつもりだったのですが……もう少し続けてみようと思います」
その言葉に私はほっと胸をなでおろした。
占いの結果がゲームの中のことを意味するのか、リアルのことなのか、あるいはその両方なのか。それは私にはわからない。
でも、ゲームを続けてくれると言ってくれた。ネットゲームに生きる占い師として、とても嬉しいことだ。
「ありがとうございます~。今後ともご贔屓に~」
「こちらこそありがとうございます。あの、おふたりはリアルでもご友人同士なのですか?」
おふたり? 私とイケメルロン君のこと?
「いえ~」
そんな風に見えたかな? でもイケメルロン君とならリアルで遊んでも楽しそうだ。多分年もそんなに離れてないと思うし。もしかしたら私より年上かもしれない。最初はアバターが子供キャラだからもっと若いかと思ってたんだけど、
「なるほど」
メダカさんは私とイケメルロン君を交互に見やって何やら頷いている。
…………?
!
あ! わかっちゃった。ピンときた。メダカさん、イケメルロン君と遊びたいんだな!そうでしょ!
気持ちはわかる。イケメルロン君、イケメンだもんね。イケメルロン君、っていうくらいだからね。よし、それなら。
「これから、メダカさんはどうされるんですか〜?」
「ああ。とりあえず初期の村に戻ろうかと…たぶん、今のレベルならフィールドモンスターに殺されることもないでしょうから」
「実は私たち、これからあるアクセサリーを取りに行こうとしていたんです〜」
「ええ。それはお聞きしました」
「私はわけあって戦闘ができないのですが、もしよろしければ一緒に〜」
我ながら完璧なプランだ。イケメルロン君のイケメン振りを見て貰えば、エタリリをさらに好きになってくれるに違いない。
「……それはいいですね。直接攻撃では役に立ちませんが、魔法であれば遠距離の支援ができますし。多少レベルが上がった今ならば、私も全く役に立たないということもないと思います」
メダカさんはイケメルロン君の方を見てそう言った。やっぱり思った通りだ。占い師やってるくらいだからね。勘の良さには自信がある。
でもイケメルロン君は何やら困った顔をしている。流石に私たち二人を守ってと言うのは無理があるだろうか。
「リザードマンさんは、ウロコがあるから防御力が高いんですよね〜」
「ええ。ガリガリのリザードマンでも、コヒナさんの盾になるぐらいならできますとも」
「あ〜、そんなつもりは〜。それは申し訳ない事です〜」
「いえ、私もメルロンさんに助けられた借りを一刻も早くお返ししたいので」
その気持ちも凄くわかる!
無理そうならここはメダカさんにお譲りするべきだろうか。腕輪は凄く欲しいけれど、奥について話しかけるだけならきっとなんとかできる。
「……と、それは冗談です」
急にメダカさんがそんなことを言う。
「はへ?」
リアルで変な声が出た。
「はへ?」
出来るだけ忠実にキーボードで打ち込む。
「私、明日ちょっと仕事で早いんですよ。ですから、今日はもう落ちなければならないのです」
「え? そうだったんですか?」
リアル事情か。それはいかんともしがたい。残念だけれど、仕方がない。リアルで頑張るからこそ、ここに来れるんだから。
「ですから、メルロンさん。コヒナさんの護衛はあなたに一任せねばなりませんね」
「え? あ、はい……」
メダカさんの突然の提案にイケメルロン君が困惑している。実は私も困惑している。
「なんですか? その返事は? それで彼女を守れるんですか?」
ええと、それは多分大丈夫です。ここより推奨レベル20も高いダンジョン余裕で通り抜けて来たし。そもそもイケメルロン君だし。
「大丈夫です。コヒナさんは僕が守りますから」
お、おう、ノリいいなイケメルロン君。でもそれ、あまり女の子の前でやってはいけないよ?いつか刺されるかもしれないからね。そうでなくても時々心配なことあるんだから。
「いや元々そういう予定でしたし」
ごもっともだ。改めて、本当にいつもありがとうございます。
「ということで、私も本腰を入れてレベルアップを致しますので。なるべく早く、メルロンさんより頼りがいのあるタフガイになって戻って参ります」
メダカさんはそんなことを言ってくれた。エタリリを続けることを選んでくれてる気がして嬉しい。
でもイケメルロン君より頼りがいのある、っていうと相当大変ですよ?
タフガイか。イケメルロン君も見た目はタフガイじゃないけどね。可愛い系男子だ。メダカさんがタフガイになったらどんな感じだろう。
蛇の魔術師からもうちょっと太くなって……トカゲの魔術師に……。いやリザードマンなんだからそこはもともとか。ニシキヘビの魔術師とかだろうか。
顔は今のままマッチョになったメダカさんを想像してしまう。魔術師なんだからマッチョでなくてもいい気がするけど。
タフでマッチョな魔術師。蛇みたいなリザードマン族で、名前はメダカさん。
「マッチョなメダカさん……あはははは」
思わず吹き出してしまった。メダカさんとイケメルロン君が怪訝な顔でこちらを見ていた。
「それでは」
「はい〜。またお会いしましょう〜。メダカさんの旅が、幸多きものでありますように~」
こうしてメダカさんは、次の冒険へと向かっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます