第53話 斧戦士コヒナ 2
「お、もしかして初心者?」
私が必死に考えている間、アバターのコヒナさんは仕立て屋さんの前でぼーっとしていた。当たり前だけど。勝手に動いたら怖い。
それを見て声をかけてくれた人がいた。クロウさんという方だった。
「こんにちは! そうです。昨日から始めました。よろしくお願いします!」
昨日「!」つけすぎてナゴミヤさんに引かれたので控えめにしてみる。
「へえ、ガチの初心者? 珍しい。 今何してるの?」
でもクロウさんも「?」が多いな。気にしなくていいか。
「何のスキル取るか迷ってました!」
「お、んじゃ色々教えちゃるよ。ついてきて」
クロウさんもナゴミヤさんと同じタイプの人なのかな。迷っていたので助かる。
「ありがとうございます!」
クロウさんに連れていかれたのは石壁づくりの建物だった。どうやらマディアの町の兵士さんの詰め所らしく、NPCの兵士さんがいっぱいだ。
「その人からスキル習って」
クロウさんが指さすのはずんぐりした体格のNPCさんだ。髭が凄く、ファンタジーものに出てくるドワーフっぽい。でもたぶん人間族。
ネオデの世界、<ユノ=バルサム>にはプレイヤーが操作するアバターに「種族」という概念はない。もしかしたら何処かにドワーフとかエルフもいるのかもしれないけれど、基本的に街の中にいるのはプレイヤーもNPCも人間だ。
言われた通りにドワーフ型人間NPCさんに話しかけてみると、
<system:スキル<片手斧>を取得しますか?>
とメッセージが出た。
お? 斧なんだ。
「この、片手斧のスキルですか?」
「そうそう。片手斧が一番強いから」
ほう。スキルに強い弱いというのがあるのか。それなら強い方がいいか。
言われるままにスキルを取得する。
「じゃあ、次こっち」
またクロウさんの後をついて行く。
同じように<物理攻撃力>、<クリティカル率>、<筋力補正>などのスキルを言われるがままに取得していく。
グラフィックは変わんないんだけど、なんだかコヒナさんがマッチョになってきた気がするぞ。
「次こっち」
また言われるままにクロウさんに連れていかれたのは<冒険者ギルド>だった。ここは知っている。昨日ナゴミヤさんに連れてこられた場所だ。
そこでクロウさんから何かどさどさと渡された。
「あげる」
思わず受け取ってしまったが、片手斧、鎧や兜、盾といった装備品一式だった。どれも金属製で何やら色々と魔法が掛けられている。
「こ、これは、高価な装備なのでは!」
「いや、倉庫に預けっぱなしのゴミ装備だから気にしないで」
ゴミ装備……。そうなのかなあ。凄くいいものに見えるけど。気にしないでと言われたのだから気にしないでおくか。
「ではちょっと着替えてきます」
昨日その場で着替えてはいけないと言われたので教えられた試着室で装備品を身に着けてみる。
胸当て部分、腰、籠手、脛あてに分かれたがちがちの
重装戦士コヒナ誕生。銃弾でも弾き返せそう。
リアルで装備したら絶対に動けないな。リアルどころか<筋力>の少ないコヒナさんでも本当なら動けなくなりそうだ。斧もほんとに片手用かよ、っていうくらいごっついし。
でも全部軽量化の魔法が掛けられているので平気なんだね。やっぱこれ凄いものじゃないかな。
でも、顔も見えないのはちょっとなあ。兜だけは外しておくか。
「もどりました! わあ⁉」
試着室から出てみるとなんだか人が増えていた。お名前が、ええと
「おかえり」
「お帰り^^」
「こんにちは。よろしくです」
わああっ!? 待って、待って!
お返事を返そうとしててんぱっているとクロウさんからパーティーのお誘いが来た。
とりあえずお受けすると、自分のステータスの横にパーティーメンバーの名前が表示される。ええと、クロウさん、ネロさん、フラウスさん。
パーティーに加わるとさらに一斉に声が飛んでくる。
『よろしくー』
『コヒナさん、よろです~』
『よろしくお願いします』
どうやらこれはパーティーだけに聞こえるチャットのようだ。
同じウインドウに私もメッセージを送ってみる。
『どうぞよろしくお願いします』
多分上手く発言できたと思う。
誰が誰かわからない。いや、アバターの頭の上に名前が表示されるからわからないことは無いんだけど、それでもわからない。自分が何言ってるのかもよく分からない。
『じゃ、行くか』
え、どこに。
というかまずこの状況は何。この人たちはどなた? この後一体何が起きるの?
ネロさんという方がぶんぶんと杖を振ると、空中にオレンジ色の四角形、ゲートが出来て、そこにみんな入っていく。
「コヒナさんも。ゲート消える前に入って入って」
お、おおう?
ネロさんに急かされてとりあえず入ってみる。
ゲートを抜けたその先には鬱蒼とした森と、森の植物たちに浸食された遺跡が広がっていた。
なかなかに雰囲気のある場所だ。
崩れて草に覆われた建物の中に、地下へと続く大きな入り口が見える。
ダンジョンだ。
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