第51話 魔術師と糸車 ③

「じゃあ、これは本当のプレゼントね」


「こ、これは!」



 ほい、とナゴミヤさんから渡されたのは上下一組のお洋服だった。


 おおお、可愛い。かっこいい。今着ているNPCのような残念系初期装備とは雲泥の差である。



「コヒナさんの布で作ってみた。防御力とかは無いからね。街中用かな」



 おおお、これさっきの布でできてるのか! 何でもできるなこの人。買い取ってもらった布で服を作って貰うってどうなんだって話だけれど、渡された服がかっこ可愛かったものだからつい受け取ってしまった。



「これ、着てみてもいいですかっ?」


「どぞどぞ。お店のカウンターのところに試着室が」



 ナゴミヤさんが何か言っていたが、私はどぞどぞの時点で着替えを始めてしまっていた。



「うおいxっる⁉」



 ナゴミヤさんが奇声を発してしゃらんと杖を振った。たちまち私の身体は半透明になる。おお、なんだこれ。



「これは何ですか?」



 お、しゃべったら元に戻ったぞ?



「出てくるんじゃない! 」



 ナゴミヤさんがまた杖を振って私の身体は半透明になった。



「透明化の魔法。こっちからは見えなくなってる」



 ?


 ああなるほど。人前で脱ぐな、とそう言うことですね。これは失礼を。



「ありがとうございます!」



 おや? また解けてしまったぞ。

 すぐにナゴミヤさんから透明化の魔法が飛んできた。



「しゃべっttxたら解けkるから!」



 そうなのか。すいませんお手数おかけします。でもアバターだし、そんな噛んでまで気にすることでもないんじゃないだろうか。さてはナゴミヤさん、ムッツリスケベだな。


 まあわざわざかけて貰った透明化の魔法を、解除してまでお見せするほどのものでもない。大人しく無言で着替えることにしよう。


 着替え終わったが自分から見ても半透明なのでいまいち見た目がわからない。


 では、華麗に登場していただきましょう。新生コヒナさんです!



「じゃーん」



 おお、可愛い!



「ああ、ちゃんと着て出て来た。やれやれ」



 ナゴミヤさんはしゃらしゃらと振っていた杖を下した。どうやら出てきたらまた魔法掛けようとしてくれてたようだ。



「あ、すいません。しゃべるなっていうの、フリでしたか?」


「違うわ!」



 違うのか。難しいね。


 まあそんなことより。



「どうですか?似合いますか?」



 ナゴミヤさんがくれたのは冒険者風の上着とズボンのセットだった。


 丈夫そうな布地で露出が少ない防御と機能性重視。虫や草からの危険もしっかりガード。


 肩や膝は厚手の布で補強されていて、上着にはフードもついている。砂やほこりの多いダンジョンでも安心の設計だ。


 全体としては茶緑の目立たない地味な色合いだけれど、それでいて所々に鮮やかな色が使われていて野暮ったさがない。


 冒険者のおしゃれここに極まれり。女性冒険者の間で話題の雑誌、「冒険ガール」の表紙も飾れそうだ。そんな雑誌があればだけど。


 まあただそれは見た目だけの話で。実際のステータスとしては今ナゴミヤさんの言う通り、初期装備の服より物理防御が少し高い程度。虫や草でダメージを受けたりはしないからね。それがモンスターでもない限り。


 でも見た目は段違い。これは大事なことですよ。綺麗な服を着てると内側までなんだか誇らしくなる。おしゃれっていいよね。 着るタイプの魔法です。



「ふむ、見立て通り。流石は僕」



 ナゴミヤさんは満足そうにうなずく。ふむ。ナゴミヤさんのおっしゃる通り。流石のお見立て。間違いない。


 しかしナゴミヤさん、貰っといてなんですが、ここは普通、服ではなく私を褒めるところですよ?



「こちらの服のお代はどうしたらいいですか?」


「いや、それはほんとにプレゼントで。自分で手に入れた素材で作った装備って、なんかよくない?」


「はい! 最高です!」



 自分で釣ったお魚を食べるのと一緒だな。お兄ちゃんたちがヤマメとかイワナとか焼いてくれたっけ。ただお塩振って焚火で焼いただけのやつ。おいしかったな。



「さて。時間も大分遅いのだが、コヒナさん大丈夫?」



 む? いやそうはいってもナゴミヤさんと会ったの、晩御飯のすぐ後だったし、10時過ぎってとこじゃ


 うわあい!


 1時近い!



「やってしまいました! まずい時間です!」


「おおう、わりい」



 また謝られた。



「今日は色々ありがとうございました! とても楽しかったです!」


「いやいやこちらこそ。楽しかったです。ありがと。んじゃね。また見かけたら声かけてー」


「ありがとうございましたー!」



 仕立て屋さんの外、ナゴミヤさんはまたロッシー君に乗って何処かへ走っていった。


 ナゴミヤさん、まだ寝ないのかな。明日お休みとかだろうか。それなら明日、帰ってきたらまた会えたりするかな?


 私はネオデからログアウトして寝る準備を始める。


 起床時間に合わせて目覚まし時計と携帯のアラームの両方をセット。携帯の方は念のため十分おきに三回セットした。


 気が付けばだいぶ眠い。だいぶ疲れている。


 あー、失敗しちゃったなあ。明日の朝はキツいんだろうなあ。


 でも。


 眠くもないのにベッドに入って無理やり寝るのに比べたら、ずっといいな。

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