第49話 魔術師と糸車①
ロッシー君に乗って辿り着いたのは大きな町だった。
「ここがマディアの城下町だよ。設定としては大きな川が流れる大穀倉地帯に隣接してて、経済的には一番発展している町ということになってる。王様がいるのもここだよ」
ナゴミヤさんが教えてくれた。
<ネオデ>というゲームの舞台は <ユノ=バルスム>という世界なのだそうだ。ユノ=バルスムには国という概念はなく、世界全体を一人の偉大な王様が納めている。その王様がここに住んでいるというわけだ。
王様に会ったら、「ボナに導かれし勇者コヒナよ! 世界を救ってくれ!」とか言われるんだろうか。城下町ならお城があるんだろうな。見てみたい。
王様のご先祖様がボナさんと
段々とボナさんの力が弱まって来て現在に至る、というのがユノ=バルサムの歴史だという。それは今の王様、さぞかし大変な思いをしていることだろう。お疲れ様です。
「まあ、この辺の話はゲームにはあんまり関係ないんだけどね」
さんざん解説しておいてからナゴミヤさんが言った。じゃあなんでその話したんだろう。ナゴミヤさん、さては解説厨だな。
「さて、ここが<冒険者ギルド>。荷物はここで預かってもらえるよ。量に制限はあるけど、このくらいなら全部いける」
「これって、使い道あるんでしょうか?」
拾っといてなんだけど。
「ううん」
ナゴミヤさんはごそごそとロッシー君の布袋の中を確認する。
「そうだねえ。あるようなないような……。正直言えば、持っていても意味はない、と思う」
「がーん」
なんていって、まあ予想通りだ。
「わかる。わかるぞ、その気持ち」
ナゴミヤさんがうんうんと頷いた。きっと同じ道を通ってきたのだろう。
「全くないというわけでもなくてね。さっきの鞍みたいにそれぞれ色々な物作れるんだ。ただ、素材にしても作ったものにしてもNPCのお店で買えるものも多くてね。たくさん仕入れてプレイヤー相手にまとめて売るとかなら需要もあるんだけど」
「つまり、この状態では」
「うん。プレイヤー相手には売れないだろうし、NPCに売っても二束三文だね」
「がーん」
「その上、NPCのお店は素材に関してはそれぞれ引き取ってくれる店が決まっている。何でも買い取ってくれるお店はない」
なんだって。それはかなりめんどくさいんじゃないか。二束三文で引き取ってもらうためにあちこちのお店に持ち込むのか。
「じゃあ、丸太は」
「家具屋さんとかだね」
「羊毛は」
「仕立て屋さんかな」
「岩は」
「………………だって、岩だよ?」
「がーん」
そうなのか。岩はやっぱりただの岩なのか。岩を買い取ってくれるお店はないのか。しかしそれだと矛盾が出てくる。リアルでは人間にとって価値のないものもいっぱいあるだろうけど、ここはゲームの中だ。
この岩って、何のためにあるんだろう。
「使い道がないわけじゃないんだけどね。ギルド戦の投石機の弾とか、家作る時の飾りとか。ま、そのうち使うこともあるかもしれないし、倉庫の容量ある間は預けっぱなしにしていてもいいんじゃない?」
それもそうか。
「わかりました!そうしてみます!」
「あ、そうそう。羊毛だったらNPCのお店の倍の価格で買い取るよ」
なんですと、倍⁉ これはお得じゃないか?
「でもそれは申し訳ないかと!」
しかし私は鉄の意志で誘惑を振り切る。お世話になった人に損をさせるわけにははいかない。
「あ、それは大丈夫。僕もNPCの店で仕入れるよりも安く買えることになるから」
「そうなんですか⁉」
そう言えばワインを買って全部引き取って貰ったら、そのやり取りだけでお金が五分の一くらいになった。なるほど、中間業者を介さないのでお安くできるのですと言うやつだな。通販番組にありがちな。お互いにメリットがあるならそれはよいことだ。
「まあ、言っても羊毛一個が3円ってとこだからなあ。倍でも6円だけど」
「3円!」
羊毛は3円にしかならないのか。となると全部で18個ある羊毛も全部で54円。となると無くなった初期費用の1000円は大金だな。いずれにしても3円が6円になるのはありがたい。
って。
「……いや、円て!」
「……いいね。ストレートでありながらしっかり間の取れたつっこみ。世界狙えるかもしれない」
「マジですか」
わーい褒められた。
「ではお願いします!」
「え、世界……目指すの?」
いえ、そうじゃないです。
「目指しません! 買取の方です!」
「あ、そうだった。了解。じゃあその前にちょっと仕立て屋まで行こう」
「仕立て屋さんですか? では先に他の物預けてきます!」
羊毛以外の持ち物を数回に分けて冒険者ギルドのNPCさんに預かってもらった後、ロッシー君に乗って私たちは仕立て屋さんへと向かったのだった。
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