第48話 魔術師との再会 2

「ええい。ちょっと反則だがいたしかたない。コヒナさん、今からゲート作るけど、絶対それに入ったらだめだよ!」


 え、なに? げーと?


「はい! わかりましたっ!」


 とりあえず返事を返す。なんだか知らないけれど、ここから一歩も動けない私にゲートに入るというのは無理なので安心して欲しい。


 ナゴミヤさんがしゃらしゃらと長杖スタッフを降ると、ブーンという音がしてゲートがあらわれた。


 ボナさんが開いたゲートやマップ上に設置されていたのと同じ、空中に現れる光る四角形。色だけが違ってオレンジ。魔法でゲート作ることもできるんだね。どこでもゲート~! 便利そうな呪文だな。どこに繋がっているんだろう。


 ナゴミヤさんは自分で作ったオレンジ色のゲートの中に入っていって私は一人取り残された。


 動けないで一人というのは不安なものだね。さっきまでずっと一人で動けずにいた時には別に不安とか感じなかったのに、一度誰かと話してしまうと心細さを実感する。不思議なものだ。


 ナゴミヤさんはすぐに戻ってきた。


 見たことのない大きな二足歩行の生き物と一緒だ。ダチョウとなんとかサウルスを足して二で割った感じで、羽はなく、ついている手は小さい。


 代わりに大きな体を支える二本の脚は太く長く、先についている爪ががっちりと地面を掴んでいる。走ることを得意とする生き物なのが伝わってくるデザインだ。


 ひょろっと長い首の先には体の割に小さな頭と大きな目。

 大きいけど、優しい顔つき。なんだか可愛い。


 その子にはロッシーという名前が付けられていた。


 背中には鞍、両脇に大きな布袋が備え付けられている。騎乗、運搬用の動物なのだろう。



「可愛い! ナゴミヤさん、この子は?」


「ジャイアント・ストラケルタのロッシー君。可愛いでしょ。これ、あげてみて。ダブルクリックからロッシー君をターゲットで」



 ナゴミヤさんから何か渡された。リンゴだ。


 言われた通りにしてみると、ロッシー君はひょいんと長い首を伸ばして私の手からリンゴを食べた。おお、可愛い。



 <system : ロッシーはあなたをサブマスターとして認めました!>



 お、おお? 何だい、私がサブマスター? いいのかいロッシー君。可愛いやつめ。リンゴ、他に持ってなかったかな。確か何か果物拾った気がする。ごそごそ。お、オレンジ持ってた!



「ナゴミヤさん、オレンジあげてもいいですか?」


「お、いいよ。ありがとう。大食いだから助かる。じゃあオレンジあげたらとりあえずこの子に荷物預けて。ドラック&ドロップでOK。そろそろ急がないとまずい」



 何だかわからないけど急がなくてはいけないらしい。



「わかりました! ロッシー君、よろしくね!」



 私の手からオレンジを食べると、ロッシー君はぴゅい、と思ったよりも高い声で鳴いた。


 ロッシー君の布袋に荷物を入れる。私の持てる限界の三倍の重量を預けても平気な顔をしているロッシー君、凄いね。



「それと、その辺に丸太落ちてないかな。普通ごろごろしてるんだけどな。探そうとするとないんだよな。やっぱ斧も持ち歩かないとだなあ。」



 お、丸太が必要らしいぞ。やったね。まるた長者の出番だ。



「丸太持ってます!」


「え? 丸太だよ? なんで持ってんの? いや、ナイスだ。貰ってもいい?」


「はい! どうぞ!」



 よし、役に立ったぞ。流石はまるた長者。実は丸太が落ちてなかった理由もまるた長者のせいだけどね。


 丸太を渡すとナゴミヤさんはそれを使って何か作り始めた。とんてんこん、と音が聞こえる。



「おし、できた。これをロッシー君に。リンゴと同じ要領で」



 渡されたのは<簡易鞍>というアイテムだった。凄い。このゲーム、丸太から鞍作れるんだ。


 鞍をダブルクリックして出たカーソルをロッシー君に当ててみると、ロッシー君の背中に鞍が二つ、前後に並んでついた。これはもしかして。



「お、付いたね。んじゃ、後ろに乗って。ロッシー君ダブルクリックね」



 ひょい、っとナゴミヤさんが先に乗る。紫の魔法使いさんが凄く高い位置からこっちを見ている。


 おお。やっぱり私が後ろに乗るのか。


 な、なんか緊張するな。そういうのじゃないのはわかってるんだけどさ。



「あ、やっべ! 来ちゃった!」



 え、来ちゃったって何が。


 そう思った直後、びいいん、と音がして近くの草むらに何かが突き刺さる。


 矢だ。


 と、言うことは。


 わあ。


 さっきナゴミヤさんが何処かに連れて行ってくれたゴブリンさんたち!


 こんにちは。ええと、お早い再会ですね?



「コヒナさん、早く乗って!」


「はい!」



 それでは、おじゃましますよ。


 ロッシー君をダブルクリックすると私の身体はひょいと後ろの鞍の上に落ちついた。


 うおお、高い、高い! どうやって乗ったんだ。すごいな私。



「乗った? よし。ロッシー、行け!」



 ぴゅいい、と大きく一声鳴いてロッシー君が走り出す。徒歩とは比べ物にならないスピード。後ろでぎゃあぎゃあと叫ぶゴブリンさんたちがぐんぐん小さくなっていく。


 ロッシー君の操作はナゴミヤさんがしているのだろう。RPGの騎乗生物というのはそういう物だ。


 だから、「よし。ロッシー、行け!」も、さっきの呪文の詠唱と一緒で必要のない言葉。


 なのにそれは、なんだかとても様になっていて。


 ナゴミヤさんの指示を受けてロッシー君が自分で走っているみたいだ。



「いや~、間に合わなかったらどうしようと思ったー。んじゃこのまま町に向かっちゃうね。本当は徒歩で連れてきたかったんだけど、ごめんよ」



 ナゴミヤさんは、何故かまた謝ってきた。



「とんでもないです。助かりました! さっきのゲートの魔法、凄いですね。ロッシー君を迎えに行ってたんですか?」



「うん。移動用の魔法でね。町にある厩舎まで行ってきた」



 へっ? 町?



「え、町の厩舎ですか? じゃあ、もしかしてゲートに入ったら町に行けた?」


「あ~、気づいちゃった? まあ、そう言うことだねえ」


「じゃあなんでわざわざこんな手間を……」



 動けなかった時のことは別にしても、ロッシー君に荷物を積んだ後、ゲートで町へ向かえば手間はずっと減ったはずだ。



「だってコヒナさん、今日がこの世界初めてなんでしょう?」



 いつの間にか森を抜け、地面は石畳で舗装された街道へと変わっていた。


 町へと続く広い道を、ロッシー君を疾風はやてのように駆りながらナゴミヤさんが言う。



「だったらそんなの、もったいないじゃん!」

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