第38話 女帝(逆位置)2
ロキさんがミゼラさんのことをどう思っているか見せてください。
一枚目≪
愚者がゼロならその逆位置はゼロ以下。消極的な気持ちや、まだ始まりに至らない物語。
二枚目≪
陽気に楽しむ青年が描かれたカード。遊びに夢中で他に目がいかないことを示す。
三枚目≪
二本の剣を持つ目隠しをした女性が描かれたカード。盲目的、拒絶、眼中にない。
https://kakuyomu.jp/users/Kotonoha_Touka/news/16818093081559596095
この三枚が示すストーリーは。
***
「結果が出ました~」
伝えるとすぐに返事があった。
「はい。お願いします」
「お先に確認ですが~、ロキさんとはどのようなお知合いですか~?」
同じ人を何度も見るとどうにも先入観を持ってしまうので一応確認してみる。
「ギルドの人の友達でこの間パーティーを組んだのですが、その後機会があったらまたご一緒しましょうとか言ってきたものですから。私そういうの困るんです」
なるほど、一度だけ遊んだ人から社交辞令を言われたということだな。「そういうの」がどういうのなのかわからないし何で困るのかもわからないけれど。
「少しお話したらすぐそういう関係になろうとしてきて。嫌ですよね。そういう人」
ふう~。とミゼラさんは物憂げなため息をついた。
ふう~。ぽい。さくさく。お、たけのこ。
「なるほど~。では結果をお伝えしますね~
一枚目のカードは≪
二枚目は≪
「そうなの? でも普通一回遊んだからって声かけたりしないじゃないですか。そういうの私なんとなくわかるんだけど。占い屋さんだとやっぱりそう言うことは無いんでしょうね」
なんだとう! いやないけどさ! あなたのそれはっ!
くう。だめだ何を言っても勝てる気がしない。
社交辞令ならいっぱいあるんだ。占い師なんかやってればナンパされることもあるし、今日は一段とお美しいですな、とか嬉しいこと言ってくれる常連さんもいる。いるんだからな!
「そうなんですね~。難しいですね~。三枚目のカードは≪
てんで眼中にないと思いますよ、をできるだけマイルドに伝えたのだけど
「やっぱりそうですよね。恋は盲目って言いますもんね」
そう言ってミゼラさんはふう~と物憂げなため息を吐いた。
この人が物憂げなら沢山ご飯食べた後の私だってなかなか物憂げじゃないだろうか。ぽりぽり。ああ、コーヒーなくなっちゃった。
「占いは以上ですね~。あまり心配しなくてもいいと思いますよ~」
ご来店ありがとうございました~、と締めたいところなんだけど、案の定。
「では、次の相談なんですけどゴーフルっていう半巨人の方なんですが」
くっ。わかってはいたけどっ。
ミゼラさんは毎回これと同じような相談を数人分抱えてやってくるのだ。ナントカと言う人がいて多分私に気があるのだけど、とか待ち伏せされた、お話したそうだったのに別の人が来てしてあげられなかった、とか。
ミゼラさんの中では全部真実なのだろうけど、聞いていてあまり気持ちのいい話じゃない。愚痴や自慢話は聞いていて面白くない話の代表だろうけど、それがいっぺんにやってくるんだよ。凄くない?
多分他にお話を聞いてくれる人がいないのだろう。私が<エタリリ>にいる一月くらいの間に必ず二、三回は来てこの話を聞かされるので、遠くにミゼラさんのぴかぴかふわふわな姿を発見するとそれだけでうへえと思うようになってしまった。
ネットゲーム上での恋愛についてはいろんな意見があると思う。フィクションの世界に真実の恋愛など云々なんて言う人もいる。それは一理ある。ただ問題はフィクションの世界かどうかじゃなくて、そこにいる二人がフィクションの世界をどうとらえているかだと思う。
この世界で真実の愛を見つけました、なんて話は間違いなく奇跡だけれど、占い師なんかやってれば割とよく出会うレベルの奇跡だ。あるよ。ちゃんとある。ここと同じような世界で出会った二人の結婚式に呼んで貰ったことだってある。
逆に二人が双方フィクションと捉えているなら、それはそれで良い気晴らし、疑似恋愛だと思う。それは否定しない。場合によっては美しいとさえ思う。
そもそも占い師がどんな形であれ欲望を否定するなんておかしな話だろう。
まあそうはいっても、やっぱり三千世界にただ一人、と言うのが好きだけどね。
問題になるのは二人の「世界」と「相手」の捉え方に違いがある時だ。
恋愛のことだけじゃない。ネットゲームの世界は確かにフィクションだけど、そこにいる人間は間違いなく本物で、だからそこで起きる人間関係だけはどこまでもリアルだ。
だから、自分を引き立てるために関わった人を貶めるこの人の考え方は好きじゃない。あの人もあの人も私に気があるかも、なんて言うにも、嬉しそうにならそんなに嫌な気分にならないんだけど。
それに、この人お金払わないんだよ!
そりゃね、ご納得いただけない場合はお代は頂きませんって書いてるけどさ!そういう気持ちでやってるけどさ!おんなじ話何回も聞かされて納得いかなかったから、お代は無しでってさあ!
ふう、取り乱しました。失礼。
コーヒー淹れてこよっと。
コーヒーメーカーをセットして戻ってきて、ログを見ながら占いをした。普段は絶対こんなことしないのだけど、NPC占い師だって中身のある人間なのである。
ゴーフルさんのほかにもう一人同じような内容の相談を受けて同じような結果が出た。タロットカードって凄いね。
三人目の方の時、最後に≪
今回もミゼラさんとしては不本意な結果だろう。それでもいつもなら納得してくれるのだけど、今日はもう一つ見て欲しいと言い出した。
「うちの子のことなんですけど、全然言うこと聞かなくて。どうしたらいいか見て下さいますか」
ミゼラさんはまたはあ、とため息をついた。
ふむ。まあそういうことでしたら。きのことたけのこ一つずつ。コーヒーを一口飲んで気合を入れる。この人からソレ系の相談以外が来るのは初めてだ。きっと大事なことに違いない。
「かしこまりました~。お子さんのことですね~。少々お待ちください~」
カードを混ぜていく。気持ちを切り替えるため、混ぜる時間はいつもより長くかかる。混ぜる作業に集中して、他のことは考えない。見たいことだけしか見えなくなるまで。
ミゼラさんとミゼラさんのお子さんの関係を見せてください。
一枚目:<
二枚目:<
三枚目:<
https://kakuyomu.jp/users/Kotonoha_Touka/news/16818093081559957420
この三枚のカードの示すストーリーは。
それは思わず、ぞっとしてしまうような並び方だった。
「結果が出ました~。
一枚目に出ているカードは<
二枚目のカードは二枚目<
三枚目は<
纏めてみますと、強引すぎる束縛はかえってやる気を削ぐことに繋がりそうですので」
そこまで伝えると、ミゼラさんに先を遮られた。
「束縛って、それどういう意味?」
気を付けていたつもりだったけれど、強い言葉を使ってしまったようだ。
「ああ~、すいません~。あまり窮屈にしない方が上手く行く、位に捉えていただければいいかと~」
「私はどうすれば言うことを聞くようになるかを聞いたの。なのに何で文句つけられなくちゃいけないの。大体あなたに何がわかるっていうの。束縛? 私はあの子のために言ってるの。貴方あの子の人生の責任取れるって言うの⁉」
「おっしゃる通りです~。申し訳ございません~」
「申し訳ございません、じゃないわよ。何なの。意味のないこと聞かされて、時間無駄にしたわ。その上侮辱されて。二度と来ないから」
そう言うとミゼラさんは不快そうに帰っていった。
「申し訳ございませんでした~」
これは完全に私の失態だ。ミゼラさんの言う通り。自分が頑張っていることを他人から否定されて嬉しい人がいるはずがない。
占いなので結果は伝えなくてはいけない。だがそれだけに言葉選びは重要だ。
ミゼラさんに対して苦手意識を持っていたのとカードの並び方とが重なって、自分の頭の中のストーリーを押し付けてしまった。絶対にしてはいけないことだったのに。
でも。
改めて開かれた三枚のカードを見る。
一枚目:<
二枚目:<
三枚目:<
https://kakuyomu.jp/users/Kotonoha_Touka/news/16818093081559957420
言葉での解釈としてはミゼラさんに伝えかけた内容と変わらない。
ただ、このカードの並びを視覚的に捉えてみると、
逆位置の
同様に
本来は情熱的であったろうこの「
過去には情熱を、未来には価値観を奪う二枚の
これは私の妄想だ。
たかがカードの並び方。ただのカードの並び方。そんなものから想像でよく知りもしない人を否定するなんて、絶対にしてはいけないことだ。
それではあの時師匠を断罪した顔のない
だから、ただの妄想。ただの私の妄想。
三枚のカードをデッキに戻し、混ぜる。
満足するまで混ぜる。
さっき見た三枚のカードのイメージが消えるまで。
当たってたとしても、なにもできない。
そもそも、当たってるなんて保証もない。
それなのにただの妄想はなかなか消えてくれなかった。
一旦手を止めて、冷めたコーヒーを飲む。その後チョコレートを一つ。コーヒーをもう一口。
ざりざりざり。
不幸な誰かがいるなんて、ただの私の妄想だ。
だというのに。
今口に放り込んだ究極のお菓子が、どっちだったのかもわからなかった。
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