第34話 吟遊詩人が見る夢 3

 コヒナは大人しい人物だった。蘇生時の謝罪や礼以外ではほとんどしゃべらない。自分のいない間にルリマキと踊っていたというのを聞いたのでもう少し賑やかな人物を想像していた。


 逆にアバターの操作はかなりのものだ。すいすいと器用にモンスターを避けて進んでいく。戦闘をしないというプレイスタイルにしては意外な印象だが、考えてみればそうでなくては単身でセンチャからマッチャまでを踏破できるはずもない。


 もちろんレベル1であるから攻撃を受けてしまえば死ぬのだが、その際もこちらが蘇生しやすい場所を選んで死んでいる。


 ずいぶんと気を使っている。そう言った態度は嫌いではないがもう少し頼ってくれても構わないのだが。


 ギンエイがそう思いながら見ていると、突然コヒナの動きがおかしくなった。


 それまでは黙々と先行するゴウとジョダについて行くだけだったのが、ぴたと止まって妙なことを言い出したのである。



「鎌幽霊がいますね~。あっちにはいかない方がいいのでは~」


「鎌幽霊? って、あ、リーパーっすか? だいじょぶっすよ。自分とゴウさんで瞬殺っす」


「うーん、瞬殺は無理だけどまあだいじょぶかな。グリムリーパーだとちょっと厳しいけどね」



 ジョダの言う通りリーパー種は総じて強敵ではあるが、最下級のリーパーならばこのダンジョンに到達したものが恐れる相手ではない。



「でも~、強そうですよ~? 鎌とか、大きいですし~。皆様だと平気なのかもですが私がいたら足を引っ張るわけですし~」



 言っている内容ははっきり言って意味不明だ。ダンジョン内にはリーパーより強いモンスターは数多く存在し、ここに来るまでにも屠って来ている。しかしウタイには発言の意図が分かった。その直前のコヒナの動きにはっきりとある感情が見て取れたからだ。



 驚愕、あるいは恐怖。



 画面の向こう側でコヒナを操作している者が、リーパーを見てぎょっとして固まったのが目に見えるような動きだった。


 理由はわからない。何か鎌にでも大きなトラウマがあるのかもしれない。それが何かは具体的にわからなくてもいい。誰にでも苦手というものはあるものだ。自分だって沼地での戦いとなればあまりいい気分はしない。



「そうですわ! 私もアレは良くないものだと思います! 迂回しましょう。それにこちらの方が景色がよさそうですのよ、おほほのほ」


「いやウタイさん、おほほのほてなんっすか。どういうキャラなんすか」



 いつもならメルロンが大きなため息をつきそうな所だったがそちらからは特にリアクションはなく、代わりにジョダがあきれた様子で言った。しかし別に反対というわけではなく、結局迂回することになった。



「すいません、わがままを言ってしまって~」



 コヒナはまた恐縮していたが、良い助っ人というものはできる限り依頼者の意向に沿うものだ。



 ダンジョンの中継地点で休憩をとり、そこでコヒナとメルロンを二人きりにしてしばらく見守ろうという話になった。


 いつもため息ばかりついているメルロンがコヒナに向って「みんな好きでやっている人達ですから気にしなくていいですよ」等と言っているのを聞き、少し嬉しくなる。嬉しくなると憎まれ口を聞いてしまうのは悪い癖だ。



『我が弟子ながらなかなかいいことを言う。全くその通りだ。だがそれ以外は今一つだな。もう少し色気のある話題が出ないものかね』



 <メルロン君を見守る会>と名付けた、コヒナとメルロンには聞こえない内緒話用のチャットルームに愚痴のようにこぼす。



『いやあ~、メルロンだからなあ。ムリじゃないかなあ』


『でも、コヒナさんも二人だとけっこーしゃべるっすね。割と気を許してるってことじゃないっすかね』


『はい』



 勝手な感想が飛んでいる中でも二人の会話は続いていたが、そのうち先ほどのリーパーの話になった。やはりメルロンはコヒナの異常に気が付いていたようだ。



「あの鎌が~。死神の鎌みたいで怖いのです~」


「死神って、ああ、タロットカードの死神ですか?」


「そうです~」


「リーパーに切られたらリアルでも死んでしまうかも、とかそういう?」


「いやいやいやいや。そういうわけではないのですが~。ううん。縁起が悪いというかなんというか~。結局子供っぽいこと言ってるのは出たら死ぬかもって言うのと変わんないですかね~。でも死神のカードもいろんな意味があるんですよ~?」


「ほう、どんな意味ですか?」


「基本的には『終わり』ですね~。いろんなものの終わりです。お仕事とか、ずっと続けてきた大事なことだとか、旅とか、人との繋がりとか」


「なるほど。コヒナさんは何か終わると怖いものがあるんですね」


「…………そういうことに、なりますね~」


「じゃあ、死神と芋虫、どっちが嫌いですか?」


「ううう、その節は~いや、この節も~ご迷惑を~」


「あはは、だから大丈夫ですって」



 二人の会話に奇妙な単語が出て来たので気になった。



『芋虫? タロットカードには芋虫と言うカードがあるのかい?』


『いやわかんないけど、多分ホジチャの周りにいるモスワームのことじゃないかな。わかんないけど。メルロンと二人でいる時に戦ったとか? わかんないけど』



 ゴウが応えてくれた。そういえばあの辺りにはモスワームがいたか。



『ああ、そういう話か。思い出ね。ふん、二人の世界を作りおって』


『いやウタイセンセ、センセがやろうって言ったんでしょ』


『ああ、そうだとも! 悪いとは言ってないだろう。むしろどんどん作って欲しいね!』


『いや無茶苦茶だな⁉』


『はい』



 ルリマキの「はい」がウタイとジョダのどちらへの賛同だったのかはウタイにも判断が付かない。まあこれもどっちでもいいのだろうし、何だったら両方かもしれない。


 その後二人は≪月≫の話を始めた。占いでメルロンのことを見ると言っていたので今度はモンスターではなくタロットカードの話だろう。



「≪月≫ですね~。このカードには月とそれに向って吠える獣、水辺とその中にいるザリガニが描かれています。嘘とかごまかし、隠し事、不安なんかを表すカードですね~。水の中のザリガニが水に関するトラブルなんかを示すこともあります~」


「ザリガニってトラブルなんですか? あまり怖くないような」


「そですね~。ただ夜の月明りだけの中で水に何かが潜んでいると、それがザリガニだとわからないと怖いと思いませんか~?」


「……なるほど。それはちょっと気持ちが悪いかもしれませんね」


「そういう、よくわからない不安みたいなものを表すカードですね~。タロットの種類によってはザリガニの代わりにサソリが描かれたものもあります~。こっちは直接的に怖いですね~」


「確かにサソリは怖いですね」


「御心当たりがありますか~?もし気になることがありましたら、アドバイスにもう1枚開いてみます~」


「あはは、どうでしょうか」



 ウタイはその話を興味深く聞いていた。カード1枚にもいろいろな意味があるものだ。メルロンのことを考えると当たっているような気もする。それに「水の中に潜んでいる何か」と言えばこれから戦うことになる<狂った水の精霊>を連想する。


 もし自分を見た場合はどんなカードが出るのだろうか。


 先ほど≪死神≫は長く続けてきたことが終わるカードだと言っていた。つい先日の<エタリリ>をやめようと思っていた自分を占って見れば≪死神≫のカードと言うのが出てくるのかもしれない。いや、実際にはやめなかったわけだから出ないのか。



 それとも。


 本当は出ていた死神を「誰か」が追っ払ってくれたのか。



 落語に死神を呪文で追っ払う話があったな。確か、てけれっつのぱあ、だったか? よく覚えていないが、もしかすると死神を追い払う呪文と言うのは他にも色々とあるのかもしれないな。


 ウタイはそんなことを考えながら、コヒナの質問を不器用にごまかすメルロンを見ていた。



 ****



 ダンジョンのそこに潜むザリガニ、もとい<狂った水の精霊>は、予想以上に簡単に討伐できてしまった。潜んでいるのがザリガニだとわかっていれば不安の材料にもなりはしない。少々張り切りすぎたかもしれない。ルリマキとジョダの動きが初心者とは思えないレベルであったことも大きい。流石は<詩集め>のファンといったところか。



 休憩中にメルロンと話したせいかコヒナも大分リラックスして、景色を見る余裕も出てきたようだ。モンスターを避けながら歩いている時も思ったがアバターの操作が上手い。急に駆けだして壁の継ぎ目を確認しに行ったり振り返って手を振ったりする様子は、まるでダンジョンと言うものを始めてみて興奮する冒険者に憧れる子供のようだ。無意識にやっている部分と意識的にやっている部分が調和して<エタリリ>の世界の住人であるかの様に見える。ギンエイはこんな動き方をするアバターを自分以外に知らなかった。メルロンから話を聞いていた時から感じていた同種の人間への親近感が強まる。



 そんなコヒナに折角なので<エタリリ>世界の蘊蓄を披露することにした。戦闘とは関係ない部分でこの世界を楽しんで欲しいと思ったのだ。



「ここが嘆きのダンジョンと呼ばれているのはさっきのクミズに理由があってね。ずいぶん昔、ここがダンジョンではなく普通の通路として機能していた頃の話だ。結婚を反対されて駆け落ちした男女がいたのだけれどね。男の方はその日暮らしの詩人で、娘は貴族の娘。

 いわゆるお姫様だ。


 さっきの神殿跡が待ち合わせの場所だったんだけれど、男の方は来なかった。代わりに女の父親が現れて言ったんだ。『奴は来ない。金を与えたらお前のことは忘れると言って旅立った』ってね。まあよくある話だろう。娘はそれを聞くと嘆きのあまり父親の制止を振り切って地底湖に身を投げてしまった。


 それ以来、その場所には<狂った水の精霊>が出るようになったんだ。周りの水の精霊は狂った水の精霊と混じるのが嫌で中央の湖には近づかないのだそうだよ」



「それは~。悲しいお話ですね~。お父さんのお話は本当だったんでしょうか~」



 先を歩いていたコヒナが振り返り、悲しそうな顔をして見せた。



「そこなんだよねえ。伝説にはそれ以上のことが書いてなくてね。父親の話が本当だったのか嘘だったのかはわからない。まあどっちでも同じだろう。娘はそれを信じてしまった。それが全部だろうね」


「それは~。とても悲しいお話ですね~」



 コヒナは顔を伏せ、同じ感想を繰り返した。



「その話ほんとっすか? 聞いたことないっす。ダージールのクエストに出てくる姫と騎士の駆け落ちの話でなくて?」


 ジョダが聞いてきた。ダージールの「姫と騎士の駆け落ち」の話はメインストーリーの中にあり、こちらはハッピーエンドとなる。クエストとしてその手助けをするのがプレイヤー達だ。



「ああ、それは姫の方がこのお話が好きで真似したんだよ。このお話はあの姫さんの部屋においてある本の中でしか語られていないんだ」


 姫がプレイヤーが嘆きの洞窟で「狂える水の精霊」を討伐したことを知って興味を持つことで「姫と騎士の駆け落ち」のクエストは発生する。そのためエルフ以外の種族はダージール到着後にダージール側の入り口からダンジョンを攻略することになる。


 ここだけ切り取るとストーリー上種族間の不公平がありそうだが、同じようなクエストが種族ごとにあるので結局は一緒だ。それにメインストーリー上のクエストだけあって「姫と騎士の駆け落ち」は簡単には終わらない。この時点で受注し進めていくことにはなるが、話は二転三転し最終的には導入当時<ラスボス>と呼ばれたモンスターを倒さなくてはならない。ハッピーエンドとなるのはかなり後の話だ。この<ラスボス>は非常に強力であり討伐できない者が多かった為レベルの上限が70に引き上げられたという話もある。



「あー、そういえば見たかも。覚えてなかったけど」


「それは見た内に入らないな」



 ゴウの言葉にメルロンが返す。基本的に誰にでも丁寧なメルロンだがゴウにだけは強い言葉を返す。多分二人は仲が良いのだろう。自分とカラムの間柄のようなものだ。



「へえ~。今度見てみよ。でもそれはそうと、ウタイさんなんでその話知ってるんっすか」


「ん? だから本を」


「いや、まだダージールついてないっすよ?」



 言われてみればその通りだ。ウタイがダージールの姫の部屋にある本の内容を知っているのはおかしい。



「ん? うお!? おのれジョダ君、図ったな!?」


「自分で話し出したんでしょーが!」


「そうだったかい? そういえばこれは知っているかい。あのピッキースライムだがね。体の中に消化してない状態でいろんなものが見えるだろう? あれは消化できないんじゃなくて好きなものを後で食べるために取っといてるんだぜ。個体によって好みが違うんだ。だから金属鎧が透けて見える奴は金属鎧来てるプレイヤーを優先的に狙うんだよ」


「え? 流石にそれは嘘でしょ?」


「本当だとも。これはコナの町の喫茶店に置いてある雑誌に書いてある」


「さては初心者じゃないの隠す気ないな⁉」



 ジョダが非常に的確な突っ込みを入れてくれたので本当にコナを訪れたことがないメンバーにも今の話の意味が伝わる。コナはマーフォーク族の二番目の町であり、エルフのウタイが訪れるのはずっと後になるはずなのだ。


 和やかな笑いが起き、メルロンは呆れたようにため息をついた。


 スリルはないが、依頼の完遂が何より肝心だ。問題は起こらない方がいい。


 出口に向かって歩いていると、十人程の集団とすれ違った。大人数と言うのはこのダンジョンでは珍しい。2パーティー以上で狩る様なモンスターなどそうそういない。アップデート後に作られた脇道にはそれなりの強敵もいるのだが脇道だけに狭い。大人数での狩りには向かないダンジョンだ。


 見たところレベル帯は今の自分たちと同じくらい。<エタリリ>の中では初心者の部類に入るだろう。同じくらいに始めた仲間たちでみんなで行けるダンジョンに、というわけか。それはなかなか楽しそうだ。まあ、楽しそうという感じではなくずいぶん急いでいるように見えたが。


 しかしこのダンジョンはリーパー種の発生率が高い。あの人数ではかえって危険ではないだろうか。リーパーの上、グリムリーパー位なら問題ないだろうが、その上が出てくると彼らでは厳しいかもしれない。下手をすれば全滅だ。



 ―いや、待て。そうか、そういうことか。


 これはまずい。



 彼らは既に出会ったのだ。自分達では手に負えない相手に。そして討伐不可能と判断し逃げ出したに違いない。この先には恐らくあいつが―<ダブルサイス>がいる。



 自分としたことが、迂闊だった。



 その結論に至った時には既にしゃらん、しゃらんという音が聞こえる。これはダブルサイスの勢力圏に入ったことを示す。<ダブルサイス>は足の遅いリーパー種の中で<ラスボス>を除き唯一の<テレポート>という厄介な能力を持つモンスター。戦力圏にいる動いた物の元に気まぐれに移動し、切りかかってくる。



 逃げ去った彼らよりも今は自分たちの方が近くにいる。



 こちらの目的は狩りではなくダンジョンを通り抜けることだ。しかも丁度迂回の利かない一本道。やり過ごすというわけにはいかない。



「コヒナさん、絶対に動くな。アイテムの使用もするな」



 言ってしまってから、今のも初心者が言うにはおかしなセリフだったなと思った。今回は冗談ではないが。



 通路の向こうに二つの鎌を持った「死神」が現れた。ザリガニと言うには少々危険が大きすぎる。


 画面を操作しコヒナの方を見ると、案の定無表情で立ち尽くしていた。


 ただ、無表情で立っているだけ。それはウタイには恐怖で蹲り、震えている姿に見える。



「終わるのが怖いことがあるんですね」とメルロンは言ったのだったか。それが何かはわからない。だが助っ人としてそれは叶えなくてはなるまい。



 いや違ったな。今回は依頼人はメルロンだ。まあ、メルロンの意見も一緒なのだろうが、ここで改めて受けるのもいいだろう。



「コヒナさん。君がアレを怖がっているというのは良くわかった。理由はわからないが、まあそれはどうでもいい。アレに見つからないように隠れていて欲しい」



「でもその、それは私の我儘で」



 身じろぎもせず立ち尽くし、表情を作らないままにコヒナが言う。恐怖に震える彼女を、落ち着かせなくてはと思った。



「我儘でいいとも。リアルはどうだか知らん。だがこの世界においては何人たりとも、したくないことをする必要など無い。だがね、ゲームだからしたいことができるかというと、そうでもなくてね」



 落ち着かせようと思って話はじめた。それは間違いない。しかし今、少々妙なことを口走った気がする。



「誰もが主人公、何てことはよく言われるがね。本物の主人公になる事なんて、そうそうあるものじゃない。メルロン君からコヒナさんの話を聞いたとき、私は心底羨ましいと思ったさ」



 おいおい、ウタイ。お前は、私は。


 僕は一体何を話している。



「我々は君を守ろう。何、心配することはない。君同様、私たちは全員望んで此処にいる」



 助っ人だから、コヒナが怖がっているから、モンスターを退治しようという話じゃなかったのか。これではまるで、僕が「それ」になりたいと言っているみたいじゃないか。どうか僕を「それ」にしてくれと頼んでいるみたいじゃないか。



「だからその、もし良かったらで構わないのだが。ひとつお願いがある。その、言ってみてくれないかね。君は私たちに、どうして欲しい?」



 気が付いてはいた。結局、そういうことなのだ。助っ人も、攻略動画も、過去に成しえなかった「それ」への代償行為。ゲームの中でなら叶えられる。でもそれはどこまでも非現実で、いくら叶えても満たされることなんかない。誹謗中傷が刺さるのは、自信がないから。自分の力はフィクションだと、一番感じているのは自分だから。


 でも、でも。


 この世界に本当に生きる人が、プログラムでないNPCがいるのなら。


 その人は一体どんな言葉で「それ」に、僕に助けを求めるのか。助けてくれと言ってくれるのか。


 メルロンから話を聞いた時からずっと、ずっと、期待してしまっていた。「それ」になれるかもしれない、と。


 そんな自分の気持ちに引っ張られて口から出た言葉は無茶苦茶になってしまった。それでもコヒナを落ち着かせようという目的は達成したようだ。


 コヒナは言いつけ通りにその場から動かないまま、手を胸の前に組み、目を閉じる。そしてすぅ、と息を吸い込んで、目を開けると同時に叫んだ。




「勇者様方、どうか私を、あの恐ろしい死神からお守りください!」




 ああ、こういう感覚を、「年甲斐もなく」等というのだろうか。




「ははっ。はははっ。いやいや、これは、これはなんとも」



 なんとも、危なかった。


 いまのは危なかったなあ。


 よかった。直接君から依頼を受けたのが僕でなくて、本当に良かったよ。



「それ」になりたい? Yesだ。

 凄い、っていわれたい? Yesだ。

 困っているから助けてあげたい? Yes、だ。


 どっちでもいいのだ。なんだったら全部でも。やることは一緒。それにきっと「それ」とは、ヒーローとはそういう物なのだろう。



「ああ、確かに聞いたとも。その依頼、改めて勇者メルロンとその愉快な仲間たちが承った!」



 戦力分析。


 現戦力での勝率、0%。


 戦闘開始後15分以内で戦線崩壊。


 20分以内に全滅。



 死神から目を離さないまま、ログインしっぱなしの「ギンエイ」からカラムへとメッセージを送信。



『嘆きの洞窟、対DS。15分後に絶体絶命。アバター名:ウタイ』


『座標は』



 我ながら無茶な救援要請に、すぐに返信が返ってきた。



『D-3』



 ここから先の返信を見る必要はない。



 現戦力での勝率、0%。


 戦闘開始後15分以内で戦線崩壊。


 ただし、15分間戦線を維持した場合の勝率―100%。



 現実ではヒーローになることなんかできない。メルロンがあの時自分にやってみせたように現実の死神を追っ払うなんてこともできない。



 だがこの世界にいるというなら話は別だ。



 さあ、覚悟しろ。



 今からお前を、死神の座から引きずり落としてやる。

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