第23話 水の中に潜む物2

休憩所で英気を養った私たちは、いよいよこのダンジョンの一番底にいるというボスモンスターに対峙することとなる。


 直前にイケメルロン君から<安らぎのピアス>というものを渡された。ボスの範囲攻撃を防ぐのに必要らしい。


 直接耳につける部分の下に、大きな金のリングがぶら下がっている。つけてみるともうちょっとで肩に触れそうなくらいに大きい。とても良い感じだ。


「これ、可愛いですね!」


 ちゃらちゃらというピアスの動きと音が楽しくてくるくる回ってみる。となりでルリマキさんも回ってくれた。私がつけているのよりも小さいけれど同じピアスをしている。


「コヒナさん、それ大きすぎませんか?多分半巨人族用の設定になっていますよ。大きさ変えられますから」


イケメルロン君はそう言ってくれたけれど、リアルではとても付けられないような大きなピアスは可愛いし楽しい。。


「大丈夫です!これがいいんです」


 占い師というものはいっぱいアクセサリーをつけるものだ。タロット占いの勉強をしようと思い立ち、一番最初に読んだジプシー占いの本にそう書いてあったから多分間違いない。その本の挿絵には宝石の入ったサークレットやごてごてした指輪、何重にもなった腕輪、とたくさんのアクセサリーを付けた占い師さんが描かれていて、丁度これと同じようなピアスをつけていた。こんなにいっぱいのアクセサリーは羨ましいなと思ったものだ。


「気に入っていただけたのならいいんですが。なんか、耳とれそうですよ」


 イケメルロン君は心配してくれたけど、


「大丈夫です!エルフは耳が丈夫なんですよ!」


 回るのに合わせてピアスが揺れるのが実に良い。


「なんだって、本当かい?初めて聞く設定だ」


 同じエルフのウタイさんも一番大きな設定にしたピアスをつけて一緒に回りだした。


「本当だ。イタクナーイ!」


 そうでしょうそうでしょう。だってエルフだからね!


「あだだ、あだだ」


「もげる、もげるっす」


「何で一緒に回ってんだよ!」


 人間族のゴウさんとドワーフ族のジョダさんも大きなピアスをつけて一緒に回ってくれたけど、やっぱりエルフじゃないと大変なようだ。二人してイケメルロンさんにハリセンですぱーん、としばかれていた。あのハリセン、便利だなあ。師匠にあげたいな


「まあ、気に入っていただけたのでしたら良かった。そのピアスは差し上げますので、良かったらどうぞ。高価なものではないので安心して下さい」


「本当ですか!ありがとうございます!」


 イケメルロン君にとって高価ではないのが本当だったとしても、私にとっては高価かもしれないけれど、大変に気にいったのでありがたくいただくことにする。


「では、回ったままでいいのでボス討伐の作戦の確認しますね」


「はーい」


 イケメルロン君がボス攻略の作戦を説明してくれる。というか回ったままでいいんだ。ではお言葉に甘えて、くるくる。イケメルロン君以外が回ったままの作戦会議はなかなかにシュールですね。くるくる。


「ボスを「倒した」事にならないと先に進めないので、この戦闘は六人でパーティーを組み、コヒナさんにも参加していただきます」


 おお、それは大変だ。まあ戦力的には期待されていないだろうから、後ろで眺めていればいいのだろう。


「それと、戦闘中に死んでいる時間が半分以上あるとクリアとみなされないので、極力被弾を避けてください」


 おおう。死んだ状態で応援しているのを想像していた。大丈夫かな。できるかな。


「また、完全に何もしない状態でもクリアとみなされない場合があるので、こちらを」


 なんだとう。何もできないぞ。ボスってあのコウモリより強いんでしょう?


 イケメルロン君が渡してくれたのは大量のポーションだった。


「折を見て使ってください。念のために言っておくと、他の人にも使えます。そんなに頑張らなくても戦闘中に1,2回使えば問題ないと思います」


 以前の薬草のことを踏まえてだろう。丁寧な解説がありがたい。ばしゃっと行くタイプですね。わかります。


「一番厄介なのはボスの「叫び」による範囲攻撃です。一定範囲に麻痺、混乱、恐怖のバッドステータスを撒きます。受けてしまうと次の攻撃が避けられなくなります。とはいっても初見で避けることは難しいと思いますので、受けてしまっても気にしないでください。一応そのピアスとウタイさんの歌である程度防げるはずです」


 なるほど、そのためのピアスか。可愛いだけじゃないんだ。混乱は同士討ちを引き起こす厄介なバッドステータスだけれど、私が混乱しても多分何も影響がない。そこだけは安心だ。勝手にボスに向って言って殺されてしまうことはあるかもしれないけど。


「以上になります。何か確認は?」


「ないでーす」


 答えたのはゴウさんだ。ゴウさんを含め、みんな回りっぱなしだ。もちろん私もだ。


「じゃあ、そろそろ回るのはおしまいでいいですかね」


 イケメルロン君はそういったのだけど、


「嫌だ。お前が回るまではやめない」


 ゴウさんがワガママを言う。


「そうだそうだ、メルロン君、君も回りたまえ」


「そうだそうだ!おえっぷ」


「はい」


 ジョダさんは回りすぎて気持ちが悪くなってきたようだ。でもやめられない、そんな時がありますよね。わかります。


「そーだそーだ、メルロンさんも回りましょう!」


 私も一緒になって誘ってみる。


 イケメルロン君はしばらく迷っていたけれど、やがて諦めたようにくるくる、と三回ほど回って


「いやなんでだよ!馬鹿馬鹿しい!」


 そう言って何もないところをハリセンでスパーンと叩いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る