第20話 占い師大都会へ行く 2
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≪死神≫は多くの場合「終わり」を意味する。色々な終わりだ。関係の終わり、旅の終わり、あきらめ。
例えばずっと何かを求めて旅を続けてきた人が、その意味を見失って旅をやめる。自分には無理だと諦める。それは大事なことだ。この先前を向くために必要なことだ。
死神は諦めきれずにあがく人達に、もういいんだと告げに来る。頑張らなくていい。十分だ。さあ、終わりにしよう。別の道を歩くために、始めるために終わろうと、優しく慈悲深く諭すために現れる。
私はそんな≪死神≫が嫌いだ。自分以外の誰かの占いに現れた≪死神≫にすら心揺さぶられる程に。占い師としてはもちろんこれは失格だ。特定のカードに特別な思いを持つべきではない、わかってはいるが、ショッキングな写真を見てしまった時の様に心がびくりとなるのを抑えきれない。
私は死神が嫌いだ。もう旅をやめていいのだと、やめてしまえと告げに来る死神が、大嫌いだ。
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幾多の困難を乗り越え、私はマッチャシティにたどり着いた、のだが。
おかしい。明らかにセンチャの町の方が人が多い。というかこれではホジチャ村と変わらない。エタリリはネットゲームの中でもかなりプレイヤー数の多いゲームではなかったのか。困る。ここまで来ればプレイヤーがひしめき合っていてお客様もいっぱいで、見料300ゴールドでもお客さんが途切れない予定だったのに。
攻略サイトでマッチャについて調べてみたところ、なんと此処マッチャはプレイヤーに嬉しくない町だということが分かった。嬉しくないというのは、拠点として利用しにくいということである。NPCの運営する銀行さんだったり宿屋さんだったりといった、プレイヤー達の生活に必要な施設が無かったり、それぞれが遠く離れていて行き来が大変だったり。このような問題は街が大きければ大きいほど増えていく。その結果がこの残念な大都市マッチャというわけだ。
とは言えマッチャまでは来ることができたので、私の帰還石にもマッチャが登録された。センチャとマッチャの行き来は簡単にできるようになったわけで、これは勇者様達にとっては小さな一歩かもしれないが、NPC占い師にとっては偉大な一歩です。ちゃんと8千ゴールドの価値があります。ええもちろん。
中央都市ダージールはさらにこの先。今度こそ全ての種族が集まっている大都市のはずだ。ここまで来たのだから、気を取り直してもう少し進んでみよう。
地図によるとこの先には大きな山があって、そこを越えるためには長い長いトンネル、すなわちダンジョンを抜けなくてはならないらしい。その名も<嘆きの洞窟>。
名前からして危険だ。
それにしても私がこの洞窟を抜けなければダージールにたどり着けないということは、恐らくは他の種族も洞窟とかほかの何かとかの障害物を越えなければダージールにたどり着けないわけで。何でそんなところに世界一の大都市があるのだろうね。ちゃんとストーリーを追ってたら分るのかもしれないけど。
嘆きの洞窟までは街道が続いているので問題ない。洞窟の入り口にはNPCの兵士さんが立っていた。話を聞いてみると、「この先は危険なため、立ち入りを規制していますが、勇者様ならば云々」みたいなことを言っていた。お勤めご苦労様です。勇者じゃないやつ通した、とか後で上司に怒られないといいなあ。
洞窟に入ると音楽が変わった。いかにも洞窟の中だ。そして道が、分かれている。
フィールド上では、道があるにせよ無いにせよ基本方向だけ間違わなければたどり着く一本道だった。でもここからは違う。迷宮ダンジョンっていうくらいなんだから、分かれ道もある。きっといっぱいある。たしかに画面上に地図は表示されてはいる。だが「私、方向音痴だけど、地図があれば大丈夫!」という考え方ができる人は本当の方向音痴ではない。
真の方向音痴とは、地図を見て、現在地を確認し、進行方向を確認して、それでも反対方向に歩き始める、そういう選ばれし者を指す言葉なのだ。
ダンジョン……。ネオオデッセイでも後ついてくだけだったしな……。いや待てよ。そういえば良く「何で道が分からないのに先行するんだ」って怒られたな。先頭が間違うとみんなついて来ちゃうんだよね。迷惑な話ですね全く。
と、自分の方向音痴という予想外の強敵の出現に頭を抱えた私であったが、実際は迷子になるなんてことは全くなかった。
街道に設置されたモンスターが少なかったのは、ダンジョンに入れば嫌でもモンスターと戦わなくてはいけないからなのであって。
私は最初の分かれ道の手前に自分の屍の山を築くことになった。
そして何度挑戦しても先には進めず、その日はそこまでで断念した。
**************
翌日。また挑戦してみることにした。特に解決方法が見つかったわけでもない。いつも通りのトライ&エラーだ。それ以外の方法はない。
しかし、今までとは難易度が桁違いだ。
だから、トライ&エラーで、見つからなかったら、どうしようか。
来たばかりのころなら、別の世界に旅立つのも選択肢としてあったのだけど。この世界に一月程いて、一つ感じたことがある。
この世界は、あの世界―ネオオデッセイによく似ている。ゲームシステムとか、世界観とか、グラフィックなんかは全然違うんだけれど、自由度が高くて、好きなことをやっている人がいて、プレイヤー同士のコミュニケーションとそのための手段が豊富な世界。私にとっての約束の地というものがもし本当にあるとしたら、ここ、エターナルリリックじゃないかと思うのだ。
……約束なんて、誰ともしていないけれど。
だから、どうしようか。
レベルを上げて中途半端な勇者兼占い師になろうか。NPCのままセンチャの町で暮らそうか。それとも、別の世界へ旅立とうか。何を諦めよう。どの選択が一番正しいだろう。どの選択をするのが一番、師匠の言うことに近いのだろう。
でももし聞けたとしても、「コヒナさんが一番楽しい事をしたらいいよ」って、そう言うんだろうな。
「そういう事じゃ、ないんですよ~」
想像の中の師匠にリアルの口で文句を言う。
ここで、自分で占いをしてみるという選択肢は出てこない。
一般に「占い師は自分のことは見られない」と言うが、あれは嘘だ。
見られることと、見てもしょうがないことがあるのだ。
占いの結果を見た所で、捨てられない選択肢があるのだ。
画面の中では、アバターの「コヒナさん」がいつものようにニコニコ笑っている。コヒナさんだって、きっと師匠に会いたいに決まっている。
そーだね、もう少し、頑張ろうね。
諦めずに頑張ったら、もしかしたら、ぽっかり答えが出るかもしれない。透明薬を見つけた時のように、先に進むための素晴らしいアイデアが出てくるかもしれない。
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