第12話 吟遊詩人 1
昨日の夜、夢に神様が出てきた
「コヒナよ、頑張っているようじゃな」
あれ?師匠?
神様は、師匠の顔をしていた。
「師匠?tんでもねえ、あたしゃ神様だよ」
その噛みっぷり、やっぱり師匠だ!わーい、師匠~~!
「ええい、違うといっとろうが!」
師匠の顔の神様が手に持った杖を掲げる。
ばりばりばり、びかーん、と空中が光って、凄い稲妻が私に落ちる。
ぎゃあああああああ~~~~、って、全然痛くな~~~い!?
師匠はいろんな魔法を使えるのにどれも威力が低くて全然ダメージが当たらない。スキル構成や全部の指にごちゃごちゃ付けた指輪で徹底的に魔法のダメージを抑えているからだ。理由は「ツッコミに使うのに便利だから」。
雷撃の魔法でこれしかダメージが当たらないなんて、流石だよ師匠。
「雷撃魔法?ふはははは。今のは雷撃魔法ではない。極大雷撃魔法だ」
ええええええ、この威力で!?
通りですごいエフェクトだと思ったよ。
って、師匠すごいどや顔だな。言いたくて仕方なかったんだな今のネタ。
そういえば「ネオオデッセイ広しと言えども、沼スライムに火球魔法打ち込んでも生きてるのは自分位だ」って威張ってたなあ。しょぼいんだか凄くないんだか。
「魔法を受けた時のリアクションといいその後のツッコミといい、見事であったぞ。10ポイントやる」
やった~。これで1260ポイント!
「え、なんでsdsんnに貯めてんの。うわあ」
噛みすぎ。んでなんで引いてるんだ。自分でポイント発行しといて。自慢じゃないけどちゃんと数えてるの私くらいなんだからね!
「今日は頑張ってるお主にお告げを持ってきてやったぞ」
無視か! 師匠、私占い師だよ。お告げとかいいから一緒に遊ぼうよ。
「えっとね、どこだったっけ」
お師神様は話も聞かないまま懐とかポケットとかをガサゴソと探り出した。ポケットからボロボロといろんなものが零れ落ちる。ああもう。ほんと師匠は私がいないと駄目なんだから。
「あ、めっけた。えっとね」
お告げあんちょこに書いてくるんだ。そのくらい覚えて来てよ。
「ええっと、なんだって?…うお、まじか、おおお、mjdk」
え、なに。何かいてあんの?
「うっひょ~、こいつはスゲエや」
なに、早く教えてよ。
「ど~すっかな~。教えてもいいんだけどなあ。でもなあ」
めんどくさいな師匠!
「そうかそうか、そんなに聞kたいか。ならば教えてやろう。おぬしは84d’いなv‘t;、2qqv‘うb‘ん7sw‘34w‘3¥4!」
なんて!?
「でわさらばだ。ふはhははは」
ああ、師匠、待って、師匠~~~! ポッケから落ちた物全部忘れて行ったよ~~~~!?
お師神様は一通り持ちネタを披露した後、結局何もしないでどこかに行ってしまった。まあどうせ夢で出てくるお告げなんて役に立たない。夢なんて大体が意味不明なものだろうし。
それにしてもひどい夢だった
以前、ネットゲーム内で占い師をやるにあたって、タロットだけだと商品が少ないということで他にゲーム内でできる占いがないかと検討してみたことがある。
でも、「
風水も考えたけど間取りとか教えてって言っても多分無理だし。私方向音痴だし。東西南北はおろか左右も時々怪しい。でも勉強した過程で西に黄色いものを置くと良いと知ったので、西の出窓には大きな黄色い十万ボルトのネズミのぬいぐるみを置いている。出窓が狭く、ベッドと距離が近いので寝返りの度に落ちてきて寝づらいことこの上ない。
となると実際にできるのはタロットと同じような、何かを並べたり転がしたりする「
そんな中で目新しいものとして一つ思いついたのが「夢占い」だ。これなら夢の内容を話してもらえば出来そうな気もする。そんなわけで目下勉強中であるが、私は今のところ「何でこんな夢を見たのだろう」と考えることはできてもその夢を未来のお告げと解釈する方法が良くわからないのだ。
フロイトさんだかユングさんだかが、夢は願望が形を変えたものだと言ったらしい。ただ、願望をそのまま夢にしちゃうと倫理規定に引っかかるので、脳が検閲して歪めるのだそうだ。要は夢はモザイクのかかった願望だということだ。脳的には願望は直視してはいけないのだね。
夢を見せているのは自分の願望。夢で出てきたものは願望が形を変えたもの。そう考えてみると、「何でこんな夢を見たのか」は解析できる……時もある。モザイクを剝がしていくわけだ。
タロット占いと、夢の解析はよく似ている。
夢で出てきたものを何かの象徴ととらえる作業はタロットカードの象徴を読み解く作業に通じるところがあり、共通するモチーフも多い。
以上を踏まえて、今日見た夢を解析してみると、あの夢からわかる私の願望は。
解析するまでもない。
私は師匠に会いたいのだ。
********
ダージールの町の大広場から少し脇道に入ったところ。
NPC商店街の一角の不真面目プレイヤー達のたまり場では、マーフォーク族の吟遊詩人ギンエイさんがリュートを引きながら歌っている。
マーフォーク族はスラっと細身の身体と高めの身長が特徴の種族で、身体の外側、背中や腕がキラキラの鱗で覆われている。リザードマン族ほどではないけれど鎧を着なくてもある程度刃物に対して耐性がある種族だ。鱗が覆う部位、範囲、色は任意で設定可能で、猫小人族の体毛と同様にプレイヤーのアイデンティティーの確立に一役買っている。
ギンエイさんの今日の詩は、新米ギルドマスターさんの不安な日々。
主人公のギルドマスターさんは自分のギルドを守るために奔走するのだけど、その頑張りはどこか空回りで。でもその空回りが逆にギルドの絆が深めていく。そういうストーリーだ。
少々の脚色はあるものの、この詩の内容はこの世界、「エターナルリリック」で実際に起こった出来事である。
「お、ギンエイだ」「本物かよ。ゲリラライブ初めてかも」
冒険者さんたちが足を止めて詩を聞いていく。
歌が終わり、ギンエイさんは最後に元ネタになったブログの宣伝をしてから、大きな羽飾りのついた二角帽子をとり、通りに向かって丁寧に頭を下げた。冒険者さんたちがおひねりを投げている。ギンエイさんの歌は今日も盛況のようだ。
頭を上げたギンエイさんが私に気が付いた。
「コヒナ殿~っ。お久しゅうございますな!」
「ギンエイさん~。お久しぶりです~」
私も手を振ってそれに答える。ギンエイさんと私は不良冒険者集団「帽子の会」のメンバーだ。会長は私で副会長がギンエイさん。正規会員はこの二人だけれど、準会員はいっぱいいて、このところさらに増えてきている。
「お戻りとは伺っておりましたが。また旅立たれる前にお会い出来て嬉しゅうございますぞ」
口上口調というのだろうか。ギンエイさんは独特の喋り方をする。
「こちらこそです~」
ギンエイさんのやっている「吟遊詩人」は、エタリリのシステム上の職業としての吟遊詩人ではない。なんと冒険者から冒険譚を買い取ってそれを詩にして歌っている、ある意味で本物である意味で偽物の吟遊詩人だ。文字チャットの世界だから歌といっても歌詞だけだけど、奏でるリュートやハープ、アコーディオンのメロディーはパソコンを通じて伝わってきてなかなか本格的だ。
最近ではお客さんも増え、冒険譚も「買い取ってもらえないか」と持ち込みがあったり、逆に歌ってくれとお金を渡されたりすることもあってかなりの盛況らしい。
でも始めたころは、冒険譚を買い取るというのは先方の不信感もあって、とても大変だったことも私は知っている。
初めてギンエイさんと会ったのは二年前。私がダージールの町に来たばかりの頃。まだ帽子には色が付いていなくて、今着ている緑のドレスも持っていない頃だった。
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