第10話 傷ついた騎士 2
「結果が出ました。多分、今は恋をしない方がいいです~」
悩んだ末、私はそう切り出す私に
「…ふうん。それはなぜ?」
お姉さんは真顔になって聞いてきた。
これは当たっているな。
そう思った。
「今は、恋をしようとしても、できないと思います~」
「…うん」
お姉さんは返事だけで続きを促した。
「過去の位置に出ているカードは、<剣の3>というカード。これは、真っ赤なハートに3本の剣が付きたてられたカードです。過去の、激しい痛みを伴う失恋を指すカード。傷はまだ癒えておらず、痛み続けていて、迂闊に触れれば傷口が開きます」
「うん」
「2枚目のカードは<聖杯の5>。失われたものを嘆くカード。過去に大事なものを無くした悲しみから、抜け出せないでいることを示します」
「…うん」
「3枚目のカードは、<剣の4、正位置>。眠りにつく戦士のカード。戦い、疲れた戦士が、次の戦いに赴くためにひと時休息するカードです。これは、癒えぬ傷を治すために、まだ休息が必要なことを指していると思います」
つまり、ドワーフのお姉さんは、過去に幸福な恋愛をし、それを失い、今なお激しく傷ついている。
そういう結果になる。
いつもなら暗示のまとめをお伝えするのだけれど、今回はできなかった。これ以上言葉にすれば、お姉さんの血の滲む傷口に触れかねない。
「そっか~」
お姉さんは考え込むように少し間を開けた後
「そーだね。私、まだ悲しいんだね」
そう言った。
「……しばらくは、ゆっくり休んでいただいた方がいいかと思います~」
これが今できる精一杯のアドバイスだ。
「ねえ、占い師さんさ、私まだ悲しんでいてもいいと思う?」
難しい質問だ。
「よく言うじゃない。恋を忘れるには新しい恋って。いつまでも過去にしがみついてちゃいけないって。自分でもそう思うんだ。だから頑張ってみたんだよ。でもまだ休んでていいのかなあ。頑張らなくてもいいのかなあ」
その質問に直接答えることは、私にはできない。
「ハートに剣が刺さったカード<剣の3>は正位置で出ています。これは剣がまだ刺さったままであることを意味しています。ハートに傷を負ったまま恋をするのは、足が折れている人が何故歩けないのか不思議に思っているのと一緒です~」
「そうかあ。足が折れてたら歩けないよね。なるほどねえ。だから「出来ない」なんだね。うん、そうだね。それなら私に恋は出来ないね」
よほどしっくり来たのか、お姉さんは私の言葉を繰り返した。
「ねえ占い師さん。この傷っていつかは治るのかな。普通に笑ったり、恋したりできるようになるのかな」
また、難しいことを聞かれた。
「私のタロットの占いはあまり長い時間を見るようにはできていません~。だから占いとしてお伝えすることはできませんが~。傷はいずれ癒えるものだと聞きます。それまで、ゆっくりお休みください。いずれ来る新しい恋のために、心の傷を癒し、力を溜めてください~。3枚目のカードは、いずれ再び戦地に赴くために、体を休める騎士のカードです~」
「ふふ、戦地か。なるほどね。そっか。ありがとうね」
いずれ再びね、と女騎士スタイルのお姉さんが言う。
「ねえ、占い師さんはいつもここにいるの?」
「ログインしていればおります~、でも一月くらいで別のゲームに移動します~。またしばらくすると戻ってくると思いますが~」
「そっか~。じゃあ今日会えたのはラッキーだったんだね。じゃあもし、また逢えたらさ。その時にはまた、見てもらえる?」
「もちろん、喜んで!私の占いは、長くても2,3か月程度の間しか見ることができません。お見かけの際には、ぜひお声がけください~。違ったお話をお伝えできると思います~」
その時にはお姉さんの傷は癒えているだろうか。また素敵な恋をできるようになっているだろうか。
「またお会いできるのを楽しみにしております~」
「うん、ありがとうー」
ドワーフのお姉さんはそういうとどこかに飛んで行った。お姉さんがいなくなった後、占いの間一言もしゃべらなかったカラムさんが口を開いた。
「ねえコヒナさん。何があったのかはわからないけど、あの人がまた本当に恋ができるようになると思う?」
「そこは間違いないです~」
お姉さんの傷が癒えるのは、何時になるかわからないけれど。
「断定だね。珍しい。それは占いの結果から?」
「いえ」
占いに出ていたのは、今は休めというアドバイスまで。根拠は別にある。占いなんかより、ずっと確かな根拠だ。
「カラムさんは、あの方がどんな方に見えました?」
「うん、楽しいおねーちゃんだと思ったよ。しゃべってても面白かったし。こっちでもリアルでも友達多そうだなと思った」
「私も、魅力的な方だと思いました」
で、あるならば。
「あの方は傷を負っています。でも傷を負っていても魅力的な方です。傷が癒えた時、本来の輝きを取り戻した時、あの方が恋をしないなんてこと、世界が許さないでしょう」
恋愛をするための力は生命力そのもの。そしてその人の魅力そのものだ。本来の魅力を取り戻した彼女が恋をせずにいるなんて言うことを、周りが許すはずがない。
おおっと。
力説したら、うっかり話し方が素に戻っていたのに気が付く。あぶないあぶない。
「コヒナさんいいこと言うね」
私の意見にカラムさんも同意した。
「うん。私も、そう思うよ」
ガールズトークのせいだろう。ごつごつ戦士のカラムさんもうっかり素に戻って一人称を間違えた。
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