第8話 勇者見習いの少年、占い師と出会う 3
「メルロンさんは、本当はこのゲーム、あまりやりたくなかったんじゃないでしょうか~」
「えっ」
ここまで一緒に冒険をしてきた占い師にそう言われ、驚く。
「過去を表す場所に、「愚者」の逆位置が出ています~。「愚者」は正位置ならまさに旅立ちのカードです。逆位置では「出発しない」ことを示しています。気が進まない、というのが一番しっくりくるのです」
「なるほど…。でもそれだと、「やりたくなかった」よりも何かの原因で今までできなくて、今日やっとこれた、みたいな解釈にはならないないのでしょうか?」
思わず反論してしまった。コヒナの、言うとおりだったのに。自分で避けてきたのに。自分で物語から遠ざかっていたのに。
「ううん、違うと思います。うまくいえないんですけど、後に出ているカードにも気持ちとか情熱といった内容が含まれますので~、ご自身の気持ちによるところが大きいと思います~」
「そうかー。んん-、わかりました。そうですね。当たりです」
その通りではあるのだけれども。この人に「楽しくなかったんでしょ?」と言われてしまったような気がして。それは違うと説明したくて。
「でも、僕は」
「ああ~、ちがうのです~。過去の位置はそのように出ていますけど、占いの結果は逆です。メルロンさんの冒険のこれからは、希望に満ち溢れています~」
「えっ」
本当に、何度も驚かせてくれる人だ。
「2枚目に出ているのは「運命の車輪」。運命の変化を示すカード、運命が大きく変わるカードです。そして3枚目には情熱や冒険心、好奇心を持った子供のカード。この2枚のカードの意味するところは、何か予期しない出来事や出会いによって価値観が変わり、情熱が芽生える、楽しくなる、といったところだと思います~」
納得した。なるほど、運命の車輪か。コヒナさんに自分から声を掛けた時、いや、もしかしたら昨日ススムに会った時から感じていた、何かが変わる予感の正体が分かった気がした。
また顔が笑ってしまっていることに気づく。笑顔を作るんじゃなくて、自分から笑うなんて。いつから笑ってなかったのだろう。いや、自分が笑ってないことにも気付かなくなったのは、何時からだったろう。
「全体としては、あまりやりたくなかったゲームだけれども、やってみると中で興味を惹かれることや人出会って楽しくなってしまう、といった結果になります。よい出会いがあると思いますよ~」
良い出会い、か。嬉しい。いや、恥ずかしい。だって、それではあまりにも、当たりすぎている。
「わかった。参った、参りました。もう勘弁してください」
そう言ったら、コヒナは占いの結果に不満があると思ったようだ。さらに詳細を伝えようと言葉を重ねる。
「いや、大丈夫です。納得です。いい結果ですね。確かに」
これ以上はとても聞いていられない。ああ、楽しかった、本当に楽しんだのだ、と実感する。
「では、僕は行きます。この後友達と約束があるので」
「はあい。頑張ってくださいね~」
コヒナは、ここで占い屋さんを始めるという。たしかにホジチャ村に比べれば、人通りは多いかもしれないが、この先の大きな町まで行けばさらに人は多くなる。
それはコヒナにとってもいいことだろう。
「コヒナさん、もしよかったら」
もしよかったら、この先も一緒に。
言いかけてやめる。それは言ってはならない。この人は旅の占い師。勇者見習いの自分と一緒に旅をすることはできない。
「もし、僕がダージールの町にたどり着いて、十分にレベルを上げて。その時まだ、コヒナさんがこの町で占い師を続けていたら、また護衛させてもらえませんか?今度は、ダージールの町まで」
「それは~、とてもありがたいですが~。とても大変だと思いますよ~?」
その通り。きっと大変だろう。今回のクエストとは、比べ物にならないほど。自分一人では、無理かもしれない。
「何か、いい方法を考えますよ」
誰か、付き合ってくれそうな人を探して一緒にやるのもいい。そのアテも、ないわけじゃない。
「その時が来たら、またよろしくお願いします。では、これで。コヒナさんも頑張ってくださいね」
「はあい。ありがとうございました。い…メルロンさんの旅が、幸多き物でありますように~」
コヒナはアニメのキャラクターみたいに、ペコっとお辞儀してからにっこり笑った。
コヒナと別れてすぐ、ススムに電話を掛けた。
「よお、エタリリ始めたよ」
「マジか。いやぁ、やってくれると思ってたよ。種族は?今どの辺?」
「まだ始めたばっかりだよ。エルフで、2番目の…センチャっていう町。これから次の町に向かうとこ」
「お、なんか手伝う?」
「ん~、こっちから連絡しといて申し訳ないけど、まだいいかな。しばらくは一緒に遊べないけど、待っててくれ。そのうち追いつくから」
手伝ってもらって手っ取り早く進めるのもいいかなとも思うけど、今はもう少し、ゲームと物語そのものを楽しんでみたい気持ちだった。
「なんだよぉ、やっぱマサはマサだなあ。こないだあった時はほんと別人かと思ったんだけどなあ。大分ハマってんじゃないかよぉ」
「ハマってるって、そんなんじゃないよ。馬鹿馬鹿しい」
恥ずかしくなってついむきになって言い返してしまった。しまったと思ったが、ススムは大声で笑った。
「懐かしいなあ、それ」
「それってなんだよ」
「それって、それだよ。その馬鹿馬鹿しいっていうの」
「あん?」
「デルタブルーだろう。デルタレンジャーの。マサ、良く真似してたよなあ」
「……そうだったか?」
全然覚えていない。でもススムがそう言うなら、そういう事もあったのかもしれない。
「なあ、ススム。しばらく先の話なんだけど。手伝って欲しいことがあるんだ」
「おぅ、クエストか?いいぜ。どんなやつだ?」
「クエスト…。そうだな、クエストだ。NPCの占い師を、ダージールまで送り届けるっていうクエストなんだけど」
わざと伝わらないように言ってみる。進にも、こんな出会いがあったんだろうか。今度会った時には進が通ってきた物語も聞いてみたい。
「そんなクエストあったか?誰のクエストだよ」
進むはきっと、どのNPCから受ける、という意味で誰のと言ったのだろうけど。
変な聞き方をしてくるからつい。
「誰の
それにとんでもなく恥ずかしい言葉を返しそうになって。
「馬鹿馬鹿しいこと、言ってるんじゃねえ!」
「なんだよそれぇ」
電話の向こうで、進が笑った。
自分もそれにつられて笑った。声を出して、思い切り笑った。
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