第5話 占い師、勇者見習いの少年と出会う 3

前回のお話:ブル何とか平原縦断ウルトラ大作戦開始


 崖側に私、その斜め前のブル側にイケメルロン君。崖に沿って全速力でダッシュ。気が付いたブルたちが一斉に襲い掛かってくる。


 真ん中ほどまで進んだところで、追いつかれる。


 エンカウントする直前、イケメルロン君が急ターンで戻ってきて、まっすぐ走り続ける私とすれ違う。追ってきたブルたちはイケメルロン君に殺到する。レベル12のメルロン君でもこれだけの数が相手では嵩むとキツイかもしれない。私がブルたちの索敵範囲を離れるとイケメルロン君も離脱する。


 イケメルロン君だけなら離脱は容易い。その時にはほかのブルたちが私を狙って集まってきている。


 そこで少しだけ足を止める。そのすきにイケメルロン君は私を追い抜いて前に出る。イケメルロン君が構えた盾に再びブルの牙が殺到し、私はその横をすり抜ける。それを繰り返すこと3回。私たちはブル平原を抜けたのだった。


 センチャの町の正門は目の前である。


 「やったああーーー」


 歓声を上げて門に駆け込もうとして、後ろを振り返って、びっくりした。


 あとから追いかけてくるイケメルロン君の後ろに、死のチュートリアル、大鎌を持った幽霊みたいなモンスターが迫っていた。


「イケメルロンさん、後ろ!」


 イケメルロン君も気づく。レベル12のイケメルロン君でも多分アレの相手はできない。全速力で逃げるしかない。二人ともダッシュで街の中に駆け込む。


 「わああああああああああああああ」


 逃げながら私が叫ぶと


 「うおおおおおおおおおおお」


 イケメルロン君も叫んだ。ちょっと師匠と旅をした時のことを思い出した。


 二人で大声で叫びながら、センチャの門の中に飛び込んで、私たちはセンチャの町にたどり着いたのだった。


 「ついたああああああ!センチャだああああああ!人だ、人がいるぞおおおお!!」


 感極まって私は叫んだのだけれど、護衛してくれた勇者様には恥ずかしいと不評だった。


 しかし、町には明らかにNPCとは違う動きをする人々。イケメルロン君以外では初めてのプレイヤー達だ。テンションも上がろうというものである。


 エルフ族領土にある町だからやっぱりほとんどはエルフ族だけれど、人間族の人はそれなりに多いし、エタリリのオリジナルであろう名前のわからない種族もいる。そしてみんな、なんというか、おしゃれだ。NPCのお店で売っているようなのっぺりした服装ではない。あれはどうやって手に入れるのだろう。


 ふと自分の姿を見ると、初期装備そのまま。さっきまで何も感じなかったけれど、これはちょっと、んんんん。しかもその上裸足。でもシャツを着ているのでギリギリセーフです。これもみなイケメン勇者イケメルロン君のおかげです。


 「い…メルロンさん、本当にありがとうございました。ここなら何とかやって行けそうです~」


 「いえいえ。とんでもない」


 「では、お約束の報酬、というのも申し訳ないのですが~」


 ほんとに、これだけのことをしてもらって報酬が占いというのも申し訳ないけれど、また報酬の内容を蒸し返すのは、勇者イケメルロン君に失礼だろう。


 「お、占いですね。ではお願いします」


 「はあい。何を見ましょうか~」


 「ん~、じゃあ、そうだなあ…。今後の僕のゲームの行方、というのはどうでしょうか」


 そういえばイケメルロン君もまだゲームを始めて間もないんだった。今日ここで見るのにふさわしい内容かもしれない。


 「かしこまりました~。では、カード混ぜるので、ちょっとだけ待ってくださいね~」


 せめてイケメルロン君の前途に祝福があるといい。そう思いながらカードを3枚開く。

 

 出たカードは


 1枚目、<愚者、逆位置> 


 旅の準備不足や躓きを示すカード。

 んん、ちょっと意外。ノリノリの人かなと思っていた。


 2枚目、<運命の車輪正位置>


 運命が大きく変わることを示すカード。


 3枚目、<ワンドのペイジ、正位置>


 情熱に満ち溢れる子供のカード。


 これは、冒険の始まりとしては、中々に。


 「メルロンさんは、エタリリ始めたのはいつからですか?」


 「今日ですね。コヒナさんと会うちょっと前です」


 むう、今日初めてあれほどの強さとは。恐るべしイケメルロン君。


 「オンラインゲームはエタリリが初めてですか?」


 「そうですね~。へえ~。そういうのも占いでわかるのですか?」


 「いえ、そうではなくて~。これは確認というか~」


 伝え方が難しい。恩人であるイケメルロン君に失礼にとられる言い方はしたくないのだけど、占い師としてカードの暗示を曲げて伝えることもできない。


 「このゲームの、メルロンさんのこれから、でしたよね」


 迷った末、一番ストレートに表現した。


 「メルロンさんは、本当はこのゲーム、あまりやりたくなかったんじゃないでしょうか~」


 「えっ」


 「3枚のうち、1枚目のカード、ここは「過去」を表す場所で、過去の出来事や現在の状態を作っている原因といったものが来ます。


 ここに「愚者」の逆位置が出ています。「愚者」は正位置ならまさに旅立ちのカードです。この場合、前途は多難かもしれませんが、これから起こることに胸を躍らせ希望に満ちた状態です。

 

 しかし逆位置に出ているということは準備不足や様々な原因で「出発しない」ことを示しています。この後に出ているカードと合わせてみると、「気が進まない」、というのが一番しっくりきます」


 「なるほど…。でもそれだと、「やりたくなかった」よりも何かの原因で今までできなくて、今日やっとこれた、みたいな解釈にはならないないの?」


 「そうですね、そういう風に取れなくもないですね~。ううん、でも違う。違うと思います~。うまく言えないんですけど、その時には愚者じゃない似たような意味を持つ別のカードが出てくると思います~。それと、後に出ているカードにも気持ちとか情熱といった内容が含まれますので~」


 「そうかー。んんー、わかりました。降参です。当たりです」


 やった、私の勝ちだ!とはならない。当たりって言ってもらえると嬉しいけれど、そんなところ暴いて降参させてもどうしようもない。


 「でも僕は」


 「ああ~、ちがうのです~」


何か言おうとしたイケメルロン君をさえぎって、占いの残りを伝える。


<愚者の逆位置>が出ているのは、過去の位置。未来の位置にあるのは、<ワンドのペイジ>。情熱をもって進む少年を意味するカード。つまり、この三枚が示すのは。


 「過去のところはそのように出ていますけど、占いの結果は逆です~。メルロンさんの冒険のこれからは、希望に満ち溢れています~」


 「それはまた…極端な……」


 「まさにその通りかと思います~。2枚目に出ているのは「運命の車輪」。今ご自身でおっしゃったように、極端な運命の変化を示すカードです~。


 3枚目は未来を示す位置には情熱や冒険心、好奇心を持った子供のカード。


 この2枚が意味するのは、予期しない出来事や出会いによって価値観が変わり、情熱が芽生える、楽しくなる、といったところだと思います~。


 全体としては、あまりやりたくなかったゲームだけれども、やってみると興味を惹かれることや人に出会って楽しくなってしまう、といった結果になります。よい出会いがあると思いますよ~」


 「あははははははは」


 イケメルロン君が笑った。


 「わかった。参った、参りました。もう勘弁してください」


 やった、勝った!いや、そうじゃなくて。


 オンラインゲームが楽しいかそうでないかは、結局のところ出会いとかつながりとかそういったものが大きい。だから良い出会いがあると言うのは今日からゲームを始めるには最高の結果だと思うのだけど。うまく伝わってないのだろうか。


 「むう、ご納得ではない様子。良い結果だと思うのですが~。なにか気になることがありますか~?」


 「いや、大丈夫です。納得です。いい結果ですね。確かに」


 それならいいけど。占いのあとにはすっきりしていただきたいものです。恩人ならばなおさら。


 「では、僕はこれで」


 「はい~。お世話になりました。道中お気をつけて~」


 「とても、楽しかったです。コヒナさんも頑張ってくださいね」


 イケメルロン君は次の目的地に向かって旅立っていった。この後リアルの友達とゲームの中で会うらしい。一緒に遊んでくれるリアルの友達がいるというのはいいことです。


 こうして私は、このセンチャの町でお店を出すことになった。まだネットゲームにに慣れていないプレイヤーさんが多いこの町でのNPC家業は、大変なことも、楽しいことも、たくさんあった。 


 プレイヤーさんたちももちろんお金にも時間にも余裕がないから、代金は控えめ控えめ設定。それでもちょっとずつお金を貯めながら占い師っぽく見えるように服やアクセサリーをそろえていった。いつか、なんとかして大都会に出ることを夢見て。


 そうしてしばらくして。


 もう見習いとは呼べなくなったイケメルロン君が、たくさんの友達を連れて迎えに来てくれて、私はその方々に守られながら中央都市ダージールまでの大冒険をすることになるのだけど。


 それはもう少し先のお話だ。

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