第百九話 眩き旭日

国際標準時 西暦2045年9月7日10時28分

高度魔法世界第4層

北部戦線 北方 大型機動要塞付近



 上野群馬率いる空中機動戦闘団が南方の大型機動要塞への強襲に成功する中、人類同盟は北方の大型機動要塞を攻略すべく北部戦線に分散していた戦力を北方に集中させつつあった。

 同盟指導者エデルトルート・ヴァルブルクの強権により、後方に温存していた予備戦力までかき集めたその総戦力は12個機甲師団6個重砲師団5個戦闘機連隊10個爆撃機連隊12個ヘリコプター連隊。

 車両総数5832両、航空機総数2916機という人類最大勢力の名に相応しい数の暴力が、高度魔法世界第4層における最後の決戦へ赴かんとしていた。

 対する高度魔法世界側の戦力は、同盟の前線を蹂躙し前線基地である戦略原潜を踏み潰した大型機動要塞1基とその直掩である敵ガンニョム2体。

 数の上では比べるのも烏滸がましい差ではあるが、第4層ダンジョンの階層ボスに相応しい戦力を持つ決戦兵器の集団だった。


「ヘイヘーイ!」


 突如、巡航ミサイルのように飛来した芥子粒の如き存在が、大型シールドを構える敵ガンニョムに正面から激突する。

 本来であれば体高20mの敵ガンニョムにとって歯牙にもかけない被弾であり、シールドに汚いミンチがへばりつくだけのはずだった。


「今回はミンチですよー!」


 しかし、ミンチになったのは敵ガンニョムだった。

 同盟による地中貫通爆弾バンカーバスターの直撃でようやく傷のつく大型シールドが、アルミホイルのようにクシャクシャにひしゃげ、シールドを持つ敵ガンニョムごとピンボールのように吹き飛んだ。

 

『アッ――?』


 轟音と共に一瞬で消え去った僚機に、思わず呆気にとられるもう1機の敵ガンニョム。

 その隙はほんの一時ではあったものの、ソレの前では致命だった。


「どーん!」


 鈴を転がしたような可愛らしい声と共に放たれるヤクザキック。

 体高20m重量35tの敵ガンニョムへ身長158cm体重49kgの少女から繰り出されたその一撃は、直撃した脚部を両足ごと風船のように弾け飛ばす。

 衝撃で宙に浮く敵ガンニョムだが、これだけで済むわけがない。


「ミンチの追加ですねー!」


 空中まで追いかけてきた少女からの腹パンが、下半身が蒸発した哀れな敵ガンニョムに突き刺ささった。

 

「ヘイヘーイ!」


 敵ガンニョム2体、高嶺華との接触から3秒後に消滅。

 

 





国際標準時 西暦2045年9月7日10時29分

高度魔法世界第4層

北部戦線 日仏連合 空中機動戦闘団



「公女、召喚だ!」

「妾のこと、都合良く使い過ぎですわ!」


Ježibabo, pomoz, pomoz!

老いた魔女よ、我を助けよ!

Staletá moudrost tvá všechno vi, proniklas přírody tajemství,

太古の知啓は全知也。森羅万象を見渡し、

za nocí hlubokých o lidech sníš, odvěkym živlům rozumíš,

深淵で夢を覗き、永久の万物を理解し、

pozemské jedy, paprsky měsíce dovedeš svařit na léků tisíce,

大地の劇薬と月の光を知り、幾多もの薬を生み出し、

dovedeš spojit, dovedeš bořit, dovedeš usmrtit, dovedeš stvořit

結び付けては破壊し、殺しては創り出し、

člověka v příšeru, příšeru v člověka, dovede proměnit moudrost tvá odvěká,

人間を化物に、化物を人間に。太古の知啓は全を変える。

rusalky za noci hrozbou svou strašíš, pro lidské strasti divné léky snašíš,

水の精は恐怖に震え、 万病の秘薬を創り出す。

pro nás i pro lidi ve světě dalekém sama jsi živlem sama jsi člověkem,

我からも人からも遠い世界、 自然でなく人でなく、

se smrtí věčnost je věno tvé pomoz mi, pomoz mi, zázračná ženo!

永遠の死が嫁入り道具。我を助けよ、魔女よ!


Brownieブラウニー:下僕小妖」


 シャルロット公女がMP5と魔石5個を代償に召喚したフワッフ500体。


『フワッフ《出番ですね》!』


 大型機動要塞内部の狭い通路を一瞬で埋め尽くした茶色い毛玉の群れ。

 上野群馬は召喚されたばかりで何の武装も持たない彼らに対し、総員突撃を命じた。


「フワッフ、君に決めた!

 たいあたり!」

『フワッフ《もしかして:肉盾》!?』


 魔石1個2億5000万円、1体当たり単純計算で250万円の毛玉が、次々と血塗られた毛玉に進化していく。


『フワッフ《爆散》!』


 時々バラバラの毛玉にメガ進化する個体もいる。


「島嶼諸国連合と自由アジア諸国共同体はルートAへ進行し、戦闘指揮室を破壊しろ!

 汎アルプス=ヒマラヤ共同体とラテンアメリカ統合連合はルートBで副司令塔を制圧!」


 上野群馬の指示と同時に、各探索者の戦闘用タッチパッド上に進行ルートが表示される。

 敵戦闘員の配置情報まで記載されたその情報をもとに、探索者達はそれぞれの目標へ向け移動を開始した。

 彼らが上野群馬から離れた後も、彼からの手厚い戦闘支援は継続し、探索者達はまるで全てを透視し予知しているかのような戦術指揮に従って瞬く間に要塞内を制圧していく。

 上野群馬が保有するスキル『索敵』『聞き耳』『鑑定』による反則染みた探索能力は、大型機動要塞内部という限られた密閉領域において、戦場を操る機械仕掛けデウスエクス・マキナへ彼を昇華させていた。


「俺達はこっちだ、公女!」


 ヒト型決戦兵器とNINJAのツートップを欠いた状態でも、神の如く戦場を支配する上野群馬。

 彼に直卒される親同盟諸国の面々は、どこか誇らしげに笑みを浮かべて盟主日本の背中を追いかける。

 政治的に迷走している盟主だが、それでも彼ら西太平洋諸国日本の背中を追い続ける。

 闇夜を切り拓く旭日を追い求め。

 

「シャルと呼んでくださいまし!」


 特典によって所々で活躍するシャルロット公女が、上野群馬の後を離されないようについていく。

 その後ろ姿を眺めながら、公女に直卒される自由独立国家共同戦線の面々が、心中で雑多な感情が複雑に混ざり合う。

 本来ならば彼らをまとめ、叱咤するツネサブローとウォルターは、機関部を破壊すべく一時的に公女の下を離れている。

 公女に希望を見出した彼らは、全てを塗り潰す旭日によって――――



国際標準時 西暦2045年9月7日10時30分

高度魔法世界第4層

北部戦線 北方 大型機動要塞



「この白影が!

 一番乗りでござる!」

「飛ぶのはずるですよー!」


 上野群馬が超音速誘導弾と地中貫通爆弾の波状攻撃によって攻略した魔道障壁。

 それをカトンジツの一吹きで突破した白影が、大型機動要塞の甲板を高熱で融かしながら着地する。

 空を飛べない高嶺華は高さ200mの脚部をよじ登りながら、飛行という反則技を用いた白影に抗議の声を上げた。




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