第百八話 ヒト型決戦迷子

国際標準時 西暦2045年9月7日10時11分

高度魔法世界第4層

北部戦線 北部 大型機動要塞付近



 北部戦線を蹂躙する高度魔法世界の2基の大型機動要塞。

 その内の1基、北部に展開する個体を視界に納められる位置に、ソレはいた。


「ヘイヘーイ!

 南にぐんまちゃんの気配を感じますよー!」


 人類の存亡がかかった戦場を直感の囁くままに彷徨う人類最強のヒト型決戦迷子、日本国第113代内閣総理大臣御令孫、高嶺華21歳。

 北部戦線南部のガンニョム2体を粉砕した彼女は、そのあと南部側の大型機動要塞をまさかの素通りし、北部側に来てしまっていた。

 上野群馬率いる南部戦線組が南部側の個体を攻略中であることを考えれば、直感によるナビゲートミスである。


―― 手柄首発見 ――

―― アレを討て ――


「でもぐんまちゃんの気配は南――っ」


 自身のスキルである直感を疑う高嶺嬢だが、その途中で何かを感じ取った。


「――こんなところにいたでござるか、白いの」

「……黒いの」


 爆炎と共に超音速で高空から飛来する黒いNINJA。

 高嶺華とお互いのお誕生日を祝い合い、日替わり交代で食事を作り合う仲であるシュバリィー伯爵家長女アルベルティーヌ・イザベラ・メアリー・シュバリィー20歳、自称NINJA白影。

 彼女は着地と同時に摂氏6000度を軽く超える温度の青白い炎を一噴射し、高嶺華を巻き込んで大地をガラス化させつつヒラリと着地した。

 常識的に考えて殺人案件である。


「どうしたんですか、こんなところで?」


 しかし高嶺華にとってはロウリュウサウナのアウフグース代わりにもならない。

 一瞬だけ炎に飲み込まれた彼女は、次の瞬間には煤一つ付けずに赤熱する大地の上に立っている。

 

「トモメ殿の命でアレを燃やしに来たのでござるよ」


 そう言って白影が親指で指した先には、大型機動要塞の姿。

 かの機動要塞は、突如戦場に出現した特大の爆炎を警戒して、搭載する主砲をゆっくりと彼女達へ向けて旋回させていた。

 白影のカトンジツはとにかく目立つのでこうなるのも仕方がない。


「ぐんまちゃんはアレを壊したいんですか……」


 自身の相棒である青年の願いと聞いて、高嶺華は微妙に険悪な仲である白影から目を離し、改めて遠くの大型機動要塞を見た。

 唯一持つ武器である大太刀を握る手に自然と力が籠る。


―― どうした群馬? ――

―― 人格交換? ――


 群馬の性格や思想をきちんと把握している直感が口を挟んだ。

 直感が把握する上野群馬という青年は、自国優先主義と保身主義をトコトコ煮詰めたような性格だ。

 自身の麾下から一線級戦力を引き抜いてまで、担当外である北部の個体討伐を支援するなんて考えられない。

 それは自国優先主義と保身主義のどちらとも正反対の行動である。

 公女と人格が入れ替わっちゃったとしか考えられない。


「失礼なこと言わな――」


ドッッッ

ドッッドッドッッ

ドドッッドドドッッッッッ


 人前では直感に対して反応しないようにしている高嶺華が、相棒に対する失礼な物反応に思わず抗議しようとした瞬間、彼女達が立っている場所に複数の砲撃が着弾した。

 大型機動要塞の主砲である50口径40cm3連装8基の内、3基9門による斉射である。


ドォォォォォォォゥゥゥゥゥゥゥゥ


 弾速が音速を超えている為に、着弾後に間延びした砲撃音が空気を伝わる。

 周囲一帯が砲撃で巻き上げられた土埃に包まれる。

 

「――カトンジツッッ!!!」


 茶黒い土埃を切り裂いて一筋の白線が大型機動要塞に放たれた。


「白いの!

 トモメ殿はアレの徹底した消滅が望みでござる!!

 修理不能が希望と言っておられた!!!」

「ヘイヘーイ!

 バラバラにした後カニ味噌にしますよー!!」







国際標準時 西暦2045年9月7日10時11分

高度魔法世界第4層

北部戦線 日仏連合 空中機動戦闘団

ルクセンブルク大公国 シャルロット・アントーニア・アレクサンドラ・エリザべード・メアリー・ヴィレルミーヌ・ド・ナッソー



「目星!! ……ヨシッ!

 司令官より総員に通達、機動要塞にヘリボーン次第、戦域マップにマーカーした破孔へ突入!

 先頭はツネサブロー、プリプリ☆ブラック、水兵☆ムーン、美少年美少女5・6号!

 残りのサバンナ☆ブラザーズとウォルターは彼らの後に続いて残敵掃討!!

 突入部隊の目標は要塞機関部の破壊!!

 時間との勝負だ!!

 迷わず突き進め!!!」


 美少女1号に抱えられて機動要塞の甲板に着地したグンマが、矢継ぎ早に指示を下す。

 同時に先ほどまで妾達が乗っていたヘリコプターに敵弾が直撃し、火を吐きながら墜ちていった。

 ギリギリのタイミング、いえ、グンマは墜とされたヘリを見てすらいない……!

 想定通りのタイミングだとでも言うの!?


「タタンカ!」

「おう!」


 妾と護衛の従者ロボ4体を引き連れながらグンマは次に、アフリカ連合と新興独立国家協定をまとめているイロコイ連邦タタンカ・ケンドリックに声をかけた。

 タタンカの周囲には両国家連合の探索者達が臨戦態勢のまま、周囲を警戒しつつグンマの指示を待っている。


「アフリカ連合と新興独立国家協定は要塞に搭載してある兵器を可能な限り破壊してくれ!

 優先順位は機銃、高角砲、ロケット弾、主砲、副砲だ!

 従者ロボも4体付ける!!」

「委細承知した!」


 タタンカが威勢良く頷く後ろで、彼の参謀役であるボツワナ共和国モルラハニ・モディサコシが出際良く各目標に人員を割り振っていく。

 彼らの主力である☆彡魔法少女☆彡サバンナ☆ブラザーズを要塞内突入部隊として抽出されているにもかかわらず、その割り振り指示に淀みはない。

 グンマから提供された従者ロボも通信役として適切に配置されている。


「公女!」

「は、はい!」


 遂に妾の番だ。

 緊張で思わず声が上ずる。

 ちょっと恥ずかしい。


「俺達も突入部隊に続いて要塞内部へ突入する!

 ただし、俺達の目標は要塞司令室――




 ――敵司令官個体だ。」




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